勇者流と一刀流
奴隷時代にレンから剣技を教わっていた。
魔力の使い方が下手な俺でも戦えるような剣技だ。
レンの剣技は適当に見えて、基本がしっかりと出来ていて、たまに見せてくれる型は舞踏のようで非常に美しかった。
俺は毎日練習した。レンの真似をして魔力を込めようとすると失敗する。
『適当じゃ駄目なんだっての。ていうか、俺って天才だから勝手にできちゃうんだっての。いいか、魔力に頼るな。剣の動きを身体にしみこませろ』
レンはおちゃらけてそんな風に言っていたが、努力家なのは誰もが知っていた。本人だけが気づかれていないと思っていた。
誰よりも努力して、誰よりも繊細で、とても優しくて……。
学園長の放った魔法によって死んでしまったレン。
俺は涙を堪えない。
悲しさを受け止める。
「……司祭である私を瞬殺? 若いっていいじゃないの。あたしのしもべに使ってあげるわよ!! あんな雑な攻撃は通じないわよ!」
マコの召喚術。自分に英雄を憑依させ圧倒的な力を行使する。
紅蓮の炎が俺に襲いかかる。
足を踏み出す。
『ん? 懐かしい型じゃねえか。そうだ、素早く丁寧にそれでいて力強く……』
魔力が減衰するこの空間。スキルの本質を理解するんだ。魔力が重要なのではない。ほんのちょっとの魔力でいい。むしろ魔力が剣技の邪魔をする。
頭が冴えわたる。
剣の先を自分の指先の如く集中させる。
振るう腕は滑らかで力強く。
身体は一切ブレずに。
視線は全てを見据える。
炎を断ち切ると同時に、俺の踏み込みは音もなくマコの眼の前に迫る――
『そうだ、お前は俺よりも才能あんだよ。ていうか、俺のスキルは十段回まであんだぜ。全部教えてるからなら! 思い出せや!』
「くっ、魔法障壁⁉」
ガラスが砕ける音が遅れて聞こえてきた。
障壁のほんの小さい歪みの部分を剣で貫いた。そのままマコの身体を串刺しにする。
「い、生贄!!」
マコの姿が女神教徒の信者に変わっていた。信者は血を流して息絶える。マコは俺から距離を詠唱を始めた。
「あんたたち時間を稼ぎなさい! 私は逃げるわ!」
白衣の女神教徒が俺に向かって集中攻撃を開始する。
『一対多の戦闘はあそこでは普通だったよな。一度だけ見せた事あるよな。地味だけど結構使える二刀流』
俺はコクリと頷く。レンのスキルが徐々に精神と身体が一致していく。それは、レンとの別れが近い証拠であった。
「魔法剣『二の剣』」
剣が二振りのダガーへと変わる。
そして――
***
時は五分前に戻る。
教室の掃除道具入れの中、私、ハルカは隠れていた……。
セイヤにボコボコにされた私は自分がおかしかった事に気がついた。そういえばスミレもそうだ。今も性格悪いが、前よりも随分とマシになっている。
自分には学園の先生は向いていない、そう思って私は退職届を出したんだ。
実家の花屋でのんびり商売して、結婚でもして……、そう思ったとき、旦那が必要だと気がついた。
頭に浮かんだのは私を負かしたセイヤだった。
……あのときの一撃の衝撃が心を貫いた。痛みは快楽へと変わる。
ここ数日間、私はセイヤの行動を見守っていた。どんな顔をして話しかければわからなかったんだ!
いつものようにロッカーで観察しようと思ったら女神教の奴らが襲いかかってきやがった。
魔女教徒はヤバい。一人一人は私よりも全然弱いけど、死んでも目的を果たすっていう気合が入っている。
セイヤは私を倒した実力者だ。だけど、女神教の司祭……幹部連中に勝てるほどの強さじゃない。
「……どうするどうする。私のセイヤがこのままじゃあ……」
バージンの私はバージンロードが夢だった。子どもの頃から女の子らしい可愛いものが大好きで夢見る少女だった。家柄がそれを許してくれなかった。
自分の正気に戻してくれた王子さま、それがセイヤだ。
「……? セイヤが剣技を使っている? あの型は……昔の動画で見たことがあるぞ。あれは古代勇者が使っていた流派だ」
セイヤの動きを見た時、私の身体に電流が走った。
隙のない構え、流れるような関節の動き、切っ先まで感じる神経。
私は何かを思い出した。
誰かを助けるために一刀流を極めた。いつしかその願望がねじ曲がり自分のために使うようになってしまった。
セイヤの一つ一つの動きが奥義に近い一撃だ。
裏切り者のマツコ先生が逃げようとしている。
女神教徒と交戦している生徒たちの動きがにぶい。
姫の攻撃魔法の威力が低い。炎使いの女子生徒の的確な指示によりどうにかこの場を維持している。
そして、マシマ……、魔力が低いのに……、あれだけのタンク役を……、強くなったな……。すまなかった……。
ここでセイヤがマツコ先生に勝てたとしても、校舎には大勢の女神教徒がいる。司祭がいるということは司教が必ずいるはずだ。一人の司教、二人の司祭、それがアイツラのいつもの布陣だ。
――私は何をしているんだ。みんなを守るために教師になったんだろ。
「セイヤに嫌われてもいい。殺せれてもいい、それだけひどい事をしたんだ。だけど――」
私はロッカーを蹴破った。
近くにいた生徒たちから驚きの声が上がる。
「ハ、ハルカ先生⁉ なんでここに?」
「えええ⁉ ロッカーから出てきたよ!」
自分の命を燃やし尽くせ、見殺しにしてきた子供たちに懺悔しろ、ここが私の分岐点だ。
「――セイヤ!! 生徒たちは私に任せろ!! お前は先に進めーー!! ――一刀流『超挑発』、『空間魔法付与』」
「ま、魔力が戻った⁉」
「これなら」
教室にいる全ての女神教徒のヘイトが一斉に自分へと向かう。
この場のリーダー的存在の炎魔法の女子生徒に『疑似空間魔法』をかける。その女子生徒の周囲だけは女神教の結界の影響を受けない。
……一秒ごとに自分の寿命が削られていく感覚。明らかなオーバースペックな魔力の使用。だが、そんなの関係ない。
セイヤが私の方を見てコクリと頷いてくれた……。それだけで満足だ。心残りはない。
魔導学園小等部の思い出を全てを消して、俺は普通に学園生活を送りたい〜〜姫も幼馴染も今さら罪悪感を感じても俺には関係ない。奴隷仲間たちと過ごした日々が俺のスキルへと変わる。 うさこ @usako09
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