生贄と終わりの章
あの恐ろしい巻物を見てから数年間、西郷が死んだ。西郷は死ぬ前、あいつが来る、あいつが来る…。なんてことを言っていた。恐らくあの絵巻物の蜘蛛のような鬼だ。あの鬼がまず僕達を狙ってるんだ。
だが、そのあと鬼は話題にも出てこなかった。まるであの日はなかったように。
ある日、あの日一緒にいた西谷くんが死んだ。交通事故だそうだ。だが、一つ不可解だった点として、西郷と同じように死ぬ何日か前から、
あいつが来る、あいつが来る…。なんてブツブツ言っていたと西谷の母親から聞いた
やはりあの日の呪いは消えていなかったんだ。そんなことをあの日のメンバーは皆思っていたようで、僕達は有名な神社に向かった。そこの神主さん曰く、僕達は本当に蜘蛛のような鬼を封印から解いてしまったようだった。そしてやはり、封印はもうできないようだった。だが、なだめる方法はあった。もっとも、誰かが生贄にならなくてはいけない。誰が生贄になるか、そんなのみんな嫌だろう。だから、これを持ち帰ってしまった、僕が生贄になると、自分から言った。
神主さんは、それを聞いているときすごく渋い顔をしていた。だが、僕の覚悟が、贖罪をしたいという意思が伝わったのだろう。最後は悲しそうな顔をしながらも、そうですか。と一言言ってから
「あの神社までまた行きなさい、あの神社の奥の森に、本当の祠がある。そこで生贄としての役目を果たしなさい。けれど生きる希望は捨てなさんな」と言ってくれた。
それから、僕はすぐにあの神社へと向かった。あれから数年経った為佐連神社は、不気味に壊れていた。僕は言われた通りに奥の森の祠に向かった。
暗く恐ろしい森を突っ切って祠に向かっている途中、何度も
「帰れ。帰れ。」
や
「死ね。死ね。」
なんて言う恐ろしい声を聞いた。だけど僕は贖罪の意味でも、帰るわけにはいかなかった。暗く悲しい森を抜けると、小さな祠にたどり着いた。その祠は、どこか美しい小さな光が射す、小さな祠だった。僕は生贄になる。そんな恐ろしい話がどこかに行ってしまうような美しい祠だった。
だけど僕が怯えていると、カツーン、カツーンと下駄のような音が聞こえてきた。そして、
「さようなら。」という声がすると、僕は気を失った。
僕は夢を見た。みんなが呼んでいる夢を見た。
目が覚めたら病院だった。僕は道で倒れ、しばらくの間眠っていたらしい。あの日以降、あの蜘蛛のような鬼の話は聞かない。本当にあったのかとも疑いたくなる。だが、もしかしたらあの蜘蛛のような鬼に、いや、神と呼ぶしかないモノ達に僕たちは試されていたのかもしれない。
変地街 梨田洋一 @Hi-tasusu
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