掌の小説~せめてもの親孝行編~

吉太郎

第1話 せめてもの親孝行

 言わずと知れた北の果ての大監獄、網走監獄。

 そこに、殺人以外の全ての犯罪に手を染めたと言われる男が収監されていた。

 そんな男の元に、今年六十になる母から手紙が届いた。


『 拝啓 ⚫⚫へ

 元気にしていますか?刑務所の暮らしはどうでしょうか?

 お前が捕まって早十五年。あの日から私はずっと一人で畑仕事に勤しんでいます。正直、とても淋しいです。

 最近は肩と腰が痛くて、今年はまだ畑を耕すことさえできていません。また昔みたいにお前に揉んでもらえたらなと夢見ています。早く帰ってきて欲しい。でも、お前が犯した罪はそう軽いものじゃありません。ちゃんと罪を償って、真っ新になってから母の元に返ってきてください。

 母はいつまでも、お前の帰りを待っています。              』


 手紙を読み終わる頃には、男は涙で顔をぐしゃぐしゃにしていた。自分はこれまで、なんて愚かな事をしてきたのか。母を一人にしてあくせく働かせて、ホントは自分が働いて養わなくてはいけないのに、何をやっているのか。

 男はこれまでの行いを悔い、現状を嘆いた。今すぐにでも母の元へ行って肩でも腰でも揉んであげたい。畑仕事を手伝ってあげたい。でも、刑務所にいる男にはどうすることもできない。

 男は悩みに悩んだ末、ある策を思いついた。


「昔、友人を殺してその遺体をある畑に埋めた」

 ある日男は巡回に来た看守にそう告げた。

 『殺人以外の全ての犯罪に手を染めた男が殺人を自供した』。看守の報告を元に、警察は男が自供した畑を百人体制で捜索した。

 警察官達は一列に並び、スコップでしらみつぶしに畑を掘り返した。

 が、何も出ては来ず。警察による捜査は無駄骨に終わった。

 後日、看守が男を問い詰めると、

「近くに住んでるババアの肩でも揉めば、遺体の在処を教えてくれるかもな」

 そう言って男は大笑いした。


 その翌日、男は母に一通の手紙を送った。

『 母ちゃんへ

 体は大丈夫か?ちゃんと食えてるか?俺は毎日母ちゃんが心配で心配でならない。俺が刑務所なんかに入ってなければ母ちゃんを一人にすることはなかったのに、今更だけど、本当にごめん。

 せめてもの親孝行として、畑を耕しておいた。あとはどうにかして種を蒔かせて、母ちゃんの肩揉みもしてもらうからさ。俺が戻るまで元気で居てくれよな。』 

   

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