第8話 対決

 音が部屋の前で止まった。


 板戸がゆっくりと開いた。あの鎧武者が立っていた。


 私の前には美雪が横たわっている。


 いけない。美雪を隠さないと・・


 しかし、遅かった。鎧武者が刀を頭上に振りかぶると、宙に飛んだ。一気に私の眼の前に飛び降りた。美雪の顔の横に鎧武者のわらじがあった。鎧武者が刀の刃を真下に向けた。両手で柄を掴んだ。美雪の顔の上だ。鎧武者が刀を押し下げた。


 私は咄嗟に鎧武者の足にぶつかった。鎧武者がよろめいた。刀が美雪の顔の横をかすめて、木の床に突き刺さった。


 鎧武者がすぐに床から刀を引き抜いた。同時に私の身体を足で蹴った。私は床に倒れた。鎧武者が刀を振りかぶって、今度は私の頭の上に打ち下ろした。


 私は眼をつむった。悲鳴が出た。


 「キャー」


 春馬が鎧武者に体当たりした。春馬と鎧武者がもんどりうって床に倒れた。春馬が肩を押さえている。私のヘッドライトが春馬の肩から流れる血を映していた。切られたのだ。春馬が肩を押さえたまま、仰向けに床にうずくまった。


 鎧武者がゆっくりと起き上がった。春馬の横に立った。美雪のときと同様に、刀の刃を真下に向けた。春馬の心臓に狙いを定めた。


 そのときだ。私の脳裏に記憶がよみがえった。不動明王? そうだ! 私はパンツのポケットを探った。


 あった・・


 私は、あの不動明王が描かれた紙を取り出した。鎧武者の前に飛んだ。紙を広げて、鎧武者の顔に押し付けた。叫んだ。


 「待ちなさい! これを見なさい。不動明王よ」


 武者の口から、すさまじい叫び声が飛んだ。


 「ぐががががあああああ」


 私のヘッドライトの光の中で、鎧武者の姿が薄くなって・・消えた。


 私は美雪の身体を抱え、春馬に肩を貸して部屋を出た。


 すると、何ということだろう。向こうに玄関の引き戸が見えていた。


 あんなに探しても見つからなかったのに・・


 私は美雪と春馬を連れて、引き戸から外に出た。


 日本家屋から十分に離れた草地まで歩くと、美雪と春馬を横たえた。


 美雪は眠っている。顔に赤みが戻ってきていた。もう大丈夫だ。


 すると、春馬が身体を起こした。肩の傷は命には別条無さそうだ。


 私は春馬と一緒に日本家屋を見た。日本家屋は来たときと同じように、月明かりの中に黒々とそびえていた。


 春馬が言った。


 「この家には本当に悪魔がいたんだ。僕たちは『秘密の都市伝説』なんてでたらめだと思っていたが、逆に、。それが、秘密の理由だったんだ。『秘密の都市伝説』をバカにしていた僕たちが間違っていた」


 私も言った。


 「それが、所以ゆえんだったわけね。きっと『秘密の都市伝説』として伝わっている話の中には、こういった真実がたくさん含まれているのでしょうね」


 すると、突然、轟音とともに日本家屋が崩れ始めた。


 私の眼に、崩れ行く家屋の中から何かが飛び出して、夜空に飛んでいくのが見えた。それはこの世のものではなかった。悪魔だ。


 私は思った。


 悪魔がどこかに飛んで行ったのだ。そして、どこかで、また新たな『秘密の都市伝説』が生まれるのだ。


 私と春馬は崩れ落ちる家屋を眺め続けた・・


         了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不動明王恐ろしや 永嶋良一 @azuki-takuan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説