第38話 配流Ⅳ
「俺たちもいつか結婚するんだな〜」
「結婚かあ…どんな人なのかな〜」
「まて!その前に彼女!」
カノジョって言い方が気持ち悪い。
「高校行ったら!」
高校に行けば彼女が出来る、とでも?
それはラプラスの悪魔も困惑する。
シュレディンガーの非モテたち。
果てしない願望の漂流にアンカーを!
おっとナポレオンの婚礼の話だった。
結婚について二人の親族たち。
彼女の長男ウジェーヌは反対。
長女オルタンスは賛成だった。
「無骨でつまらない男」
花嫁自身は夫をそう見ており。
結婚後も次々と愛人を作り。
夫の愛に背を向けるよう。
奔放な浮気を繰り返した。
そうした経緯から、ナポレオンの母や、兄弟姉妹たちとの折り合いは悪かった。
イタリア遠征中も途切れることなく、
ナポレオンが彼女の元に送り続けた。
その熱烈な恋文は歴史上有名である。
彼女はろくに読むこともせず。
返事を書くこともしなかった。
「ボナパルトって変な人」
その手紙を友人たちに見せて。
笑いの種にしていたと伝わる。
ナポレオンから何回も戦場へ来るよう促された。ごまかして行こうとしない。
妻のそっけない態度は続いた。
英雄は幾度も絶望の淵に沈む。
「教科書では偉人なのに」
事態を危惧した総裁政府の令が下る。
不貞腐れながらイタリアへと向かう。
しぶしぶながら戦地への慰問。
軍は連戦連勝の快進撃を続け。
彼女は幸運の女神と呼ばれた。
社交界の薔薇は戦場でも咲誇り。
その笑顔は兵士たちを魅力した。
ナポレオンと遠征した。
天塩にかけた精鋭部隊。
戦地の兵士たちは親しみを込めて。
彼女のことを「ばあさん」と呼んだ。
それはナポレオンより年上のためか。
それともがたがたの前歯のせいか。
定かではないが彼女は慕われていた。
彼女がナポレオンと離縁した報せ。
兵士たちはそれを戦場で聞いた。
「皇帝とばあさんが!」
「俺たちを幸福にしてくれたのに!」
「なぜだ皇帝…ばあさんと別れた!」
最も嘆いたのは戦場の兵士たちだった。
離婚の経緯は諸説ある。
ナポレオンはエジプト遠征中。妻ジョゼフィーヌと美男の騎兵大尉イッポリト・シャルルとの浮気を知る。
その事を嘆く手紙をフランスに送る。
その手紙を乗せたのはフランス艦。
あろう事かイギリス艦に拿捕される。
手紙の文面が諸国の新聞に掲載流布。
英国産業革命の象徴でもある大発明。
印刷機が昼夜を問わずフル稼働。
ゴシップの流布に大貢献した。
大恥をかいたナポレオンは離婚を決意。
妻が戻る前に家から荷物を叩き出す。
しかし、彼女の連れ子のウジェーヌとオルタンスの涙ながらの嘆願あり。
ジョゼフィーヌへの愛もあり。
離婚は思い止まったのだが。
「いや奥さんビッチじゃん!」
「ナポレオン浮気サレ男!」
「俺なら無理だわ!」
汝らの辞書には非モテしかない。
女の子のいいとこしか見えない。
見ようとしない恋は必ず破綻する。
いつか俺が誰かに言わるれる台詞。
前の席で友達と談笑する工藤さん。
彼女を今はただぼんやりと眺める。
この直後のブリュメールのクーデタ。
成功に導くための要人対策において。
幅広い人脈を持つ彼女が一役買った。
彼女なくしては成し得ぬ功績だった。
最初の離婚騒動あたりからである。
徐々にではあるが彼女の心は変わり。
ナポレオンを真摯に愛し始めていた。
ナポレオンのジョゼフィーヌに対する男女の愛。それもまた普遍ではない。
徐々に冷めていったと伝えられる。
「それが愛なら仕方ない」
あるフランスの大統領。
不倫疑惑が報道された。
支持率は忽ち急落した。
大統領はカメラの前で妻と国民に詫び。彼女とは十代で出会い。その時は添い遂げることが叶わなかった。
再会を果たしてからずっと。
ずっと彼女を愛していたと。
それに気がついたと話した。
その気持ちが再燃したのだと。
「私は彼女を愛しています」
支持率低下はそれ以降止まった。
それどころか右肩上がりの回復。
支持率は再び元の数字に戻った。
「愛ならば仕方ない」
そう考えるのがお国柄だろうか。
先進国でありながら結婚率の低さ。
男女の愛はけして普遍ではない。
それを昔から知る国故でもある。
ナポレオン自身も妻から心離れて。
他の女性達に関心を持つようなり。
愛人との間に嫡子をもうけた。
1804年12月、ナポレオンは【フランス人の皇帝陛下】として即位を果した。
ジョゼフィーヌにも【フランス人の皇后陛下】の称号が与えられた。
その後ナポレオンは、妹のカロリーヌから紹介された、エレオノール・ドニュエルや、ポーランドの愛人マリア・ヴァレフスカとの間に男児が生まれた。
強く望みながら。ジョぜフィーヌとの間に嫡子は持てなかった。その原因は自分にあると考えていたか。定かではない。
世継ぎを残せぬ王妃。
その役目を果たせず。
「中国では廃姫とも言う」
勿論それだけでそうなる訳ではない。
「けれど随分な言葉だと思う」
1810年1月10日には嫡子が生まれないことを理由にジョゼフィーヌは離縁。
離婚の理由。皇帝ナポレオン嫡子を生むことが出来なかったから。愛人との嫡子よりも、正統な皇后との間にこそ。世継が生まれるのが望ましい。
ナポレオンの一存だけではなかった。
離婚式でのジョぜフィーヌ。娘のオルタンスが支えなければ歩けず。それまで見たことがないほど憔悴していた。
ナポレオンに面と向かって。
離縁と再婚を進言出来た人物。
それは側近のターレラン以外ない。
実際に彼がそうしたか記録はない。
しかし新たな后を迎えるため。
縁組に奔走したのは史実である。
皇帝の婚姻に奔走し締結させた。
二番目の后はマリア・ルイーザ 。
16歳にしてパルマ女公。
神聖ローマ皇帝フランツ2世。(後のオーストリア皇帝フランツ1世)を父に持ち。その2度目の妃である皇后マリア・テレジアとの間に生まれた長女。
マリア・ルドヴィカとして生まれた。
他の王侯貴族とは血の色すら異なる。
自らを青い血の一族と呼んだとされる。
中世最大の王侯貴族であった。
ハプスブルク家の皇女である。
幼い頃に手渡された人形。
遊び道具としてではない。
人形の名前はナポレオン。
けしてその男を忘れぬように。
手渡されたナポレオンの人形。
憎むべき一族の仇として。
肌身はださず側に置いた。
その人形を苛めて育った。
ジョぜフィーヌ以上の花嫁。
一族郎党骨の髄からアンチ。
「アンチクライストよりもっと!」
マリアは首を振って答える。
「あんたのことが大嫌い!」
「そう言ったとか言わないとか?」
『いや…言ってねえし!?』
「捏造空想妄想姫だし!」
「お手のものだな!」
飼犬と女房にお手を噛まれる宿命。
どの辞書にも書かれていないのだ。
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