第35話配 配流



Armée

France

Joséphine


Bonaparte

Elba

Roi de Rome


地中海イタリア半島西岸付近。

コルシカ島との間の半島に在。

その小島のひとつに流された。


皇帝ナポレオン・ポナパルト。


奇しくも出生の地はイタリア半島。

その西に位置するフランス領の島。

コルシカ島のアジャクシオである。


23の歳には軍人となっていた。

親族の政治闘争に巻き込まれ。

家族共々故郷の島を追われた。


「二度と戻るまい」


心に固く誓い海を渡った。

一族の貴族の名も捨てた。

一度は皇帝の座に就いた。


そのパリを再び追われた。


前9世紀。エトルリア人の鉄器文明を支えたと記録される島。鉄の産地である。


天才的な戦略家。

軍人にして統率者。

類稀な大砲の使い手。


ボナパルティズムの旗手。


この世界に彼が蒔いたもの。

革命、自由主義、国民意識。

それがこの島で終えるなら。

それは皮肉な結末であった。


やがて歴史上世界的に注目される。

1814年に退位したナポレオン。

最初に流された島であったことから。


ナポレオンの配流。

彼の地はエルバ島。


1813年10月16日。


ライプツィヒの戦いに敗れる。


追って、ロシア軍、プロイセン軍。

一斉にパリの都を目指し進軍した。


翌年1814年3月末。

ついにパリは陥落した。


ナポレオンは軍勢と共に落ち延びた。


パリ南郊フォンテーヌブロー宮へ。

たとえ逃れ漂白の身となれども。


未だ国と覇権を諦めるには至らず。


兵士の間からも「パリへ!」という声が上がった。パリでは既に変わり身の早い政治家たちが保身に動き始めていた。


ナポレオン退位の後。ブルボン家の王位復活に向けて策動が進んでいた。


その中心的人物がタレーランであった。


シャルル=モーリス・ド・タレーラン=ペリゴール。有能な近臣顔を持ちながら。その心中蠢く野心の蟲を飼う男。


ナポレオンの側近中の側近と呼ばれた男。これまで幾度となくナポレオンと手を結び。参謀として大功を上げた。


側近としてナポレオンに仕えながらも、

ロシア戦役における焦土作戦による敗北。スペイン侵行の国策を快く思わなかった。


幾度も裏切りそして手を結び。

幾度も袂を分かつの繰り返し。


「金を数えているか陰謀を企ている」


そんな風にナポレオンに揶揄された。

謀が洋服を着たような人物であった。


1814年4月2日。元老院は皇帝ナポレオンの退位を宣言した。6日にはルイ18世の即位を決定。王政復古となった。暗躍した男。無論彼である。


ナポレオンは、4月4日に条件として、地中海のエルバ島の所有と支配権及び、歳費の支給を同盟国側から出させることを認められ。自ら退位に同意した。


調印するより道はなかった。


同年4月20日。すすり泣く兵士を後に残し。フォンテーヌブローを出発した。ナポレオンはエルバ島に向かった。


エルバ島は所領として与えられたとはいえ。それは事実上の流刑地であった。


コルシカ島の東50キロ。面積は220キロ平方。三つの小さな村落在り。ポルト-フェラヨが港のある中心地であった。


ナポレオンの身は配流と言いえども。

厳重に監禁されたわけではなかった。


この島の所有者として。

道路を造り鉱山を探し。

時には狩にも興じた。


自由な生活を送ることことは出来た。

そこで余生を過ごすことも出来た。


何より石持て追われた故郷。

アジャクシオ島に似て近い。

よりよい領地とすることも。

英雄の道行きには悪くない。


しかし単調な生活にはすぐに飽きた。


「此処は終焉の地ではない」


そう心が告げたのだろうか。


野心に生き野心に死すと呼ばれた男。

変わり身の早い彼の参謀がいたなら。

決起はもっと早かったはずである。


しかし皇帝を刺したのもその参謀。


ナポレオン統治後。ヨーロッパ国際秩序の再建のためにウィーン会議開始。


会議は一向に進展することがなかった。


その重責をルイ16世から賜った。

無論それはターレランであった。


フランス国内では、ルイ18世の復古王政で戻ってきた、亡命貴族たち。やがて幅をきかせ始める。


ブルジョワたちは危惧した。


「革命の成果が帳消しにされてしまうのではないか」


農民たちは黒雲を見るように囁いた


「革命前の身分制度が復活するのでは」


政治不信や不安が広がり始めた。


ナポレオンのもとで戦った兵士は解雇され。日々の生活にも困窮していた。


やがてナポレオン復活を待望する。

国民の気運が高まっていった。

 

1815年2月26日。ナポレオンは、千名足らずの兵を連れて。エルバ島のポルト-フェラヨを出発。


同年3月1日。カンヌとアンティブ両市のあるサン-ジョアン湾に上陸を果たす。


そこから僅か20日間でパリに到達。王党派の襲撃を避けて迂回路をとった。


その道々で農民や労働者は連呼した。


『皇帝万歳』


ナポレオンの帰還を迎えた。

その彼の隣に誰がいたのか。

言うまでもないことである。


そして歴史は繰り返す。


何を企むやも知れぬ家臣。

いつも玉座の傍らに立つ。


己が寝首を掻くような奸物ほど。

王と呼ばれる者たちは好むのか。


ナポレオンの話は関係ない。

われの親友にして王の話だ。


幼稚園では探検隊隊長。

後にキングと呼ばれた。

栄光の男ノリちゃん。


ノリ君と側近は教室に御座。

事実上の島流し状態であった。


ナポレオン公か。

将又菅原道真公か。


太宰府は紅梅の春か。

パリは燃えているか。


そんないいものではない。


栄枯盛衰。

諸行無常。


小学校低学年で味わうとは。


側近として悩ましきこと。

それもこの敗軍に於いて。

将であり王が気がつかぬ。


これでは復権はあり得ない。

そも未だ統治すら果たせず。


人心の掌握ままならず。

民は離れて行くばかり。

ノリ王には人望がない。


クラスで王様はやはり浮く。

学校は平民養成ラボである。


もう殿様も王様もいない。

この時代もう流行らない。


うっすら嫌われ始めていた。


この間まで王様の行列のようだった。

仲間たちか次々と増えて行ったのに。

今は二人だけの国になってしまった。


浮いてるのはノリちゃんだけど。


陸の孤島のような机。

水滴を眺めるように。


ぽつん。


一人ならそれはひとつ。


ぽつん。


二人ならそれはふたつ。


ぽつねんではない。


ほつねんは一人だから。

ぽつめんなのである。

一人でなくよかった。


教室の隅っこで。

身を寄せるように。


二人で座っていた。

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