第21話 疾走する羊とアストロノーツたちⅠ


「三月十五日には気をつけろ」


ウイリアム・シェイクスピア

ジュリアス・シーザ(第1幕第2場)

ルペルカリア祭の場面 占い師の警告


特に深い意味はない。

三月十五日でもない。

ただ…


【バレンタインはまだ終わらない】



ペットが文庫本を読んでいる。

ペットとはまた身も蓋もない。


確かにクラスで一番背が小さい。

そして見た目も小動物みたいだ。


勿論俺がつけたあだ名ではない。

俺ならハムちゃんとかなんとか。

もっと可愛あだ名考えるのに。

いやそれも本人にしたら迷惑。


窓際のペットを眺めつつ本を閉じる。

あいつはなんの本読んでるのかな。


気になるのはそれだけだ。

あまり話したことはない。


なんかこれ見よがしに?

ファッションみたいに?


本読んでるやつは虫が好かない。

そんな俺がひねくれてるだけか。


多分きっとそうだ。

ただ単純に本好き。

それだけかも知れない。




「ねえんイッチ…」

「なん?」


ここはグリーン・ゲイブルズではない。

まして夜な夜な怪しいサロンでもない。

ここは午後の中二の教室である。


休み時間に小西が話しかける。

うちの菩提寺でもあるお寺。

いや寄付ぼったくり寺の娘。


いつも総代の父親が文句言ってる。


「授業中はずっと読者タイム?」

「そだよ」


俺は手にしているのは非教科書。

それを制服のポケットに仕舞う。


「最近ずっと読書タイムよね?」


まあ予習も復習も結構進んでるしだ。


「休み時間とか放課後は読まないよね」


こいつ教室のどっから見てんだ。

ひょっとして俺ウォッチャー?


「忙しないだろ…休憩時間とか!」


俺はちらと自分の席周りに目を配る。

有ポンとかぶーとかケタらがいる。

ちょっと休憩時間に本でも開けば。


「なになにイッチ勉強してんの?」

「なにそれエロいの?エロい本?」

「勉強しててエロいの〜!」

『俺たちにもエロいの頂戴!』


うちの親父もそうだ。

家で本を読んでると。

必ずそう言って来る。


「お…なんだ勉強か!」


ただ本読んでるだけだつうの。


「勉強しててエロいの〜」


それはさすがに言わないが。

そのような文化レベルなのだ。


休み時間はこいつらとの時間大切。

なんてことは金輪際絶対にない!ない!


「本読むって別に勉強違うし」


ちょっとかっこつけて言ってみた。


「へ?勉強じゃん!」


まあ課題図書とかあるけどね。

教科書掲載された小説なんて。

改めて読むやつは…いないか。


「勉強じゃなきゃなに?」

「趣味とか?」


趣味と言われて少し考えてしまう。

それは趣味と言われたら確かに。


「ライフライン」

「なんか横文字来たぞ!」


それが今は一番しっくり来る。

誰ぞ昔の偉い人が言ってたぜ。


「絶望は死に至る病」


それは病のように人蝕む。

絶望はすぐに人を殺さない。


でも放っておくと。

やがては死に至る。


だから俺にとって読むこと。

それはライフラインなんだ。

日常で欠かせないことなんだ。


「よくわかんないけど」


俺は小西に言った。


「パンを食うの同じ」


いや適当過ぎるだろ俺。

一体何処ぞの誰台詞だ。


「は!?暗記パンか?」

「それは…欲しいな!」


そんな緩いやり取りに笑った。


そこまではいいとしよう。

小西…お前の背後にいる女子。


その見たことがないくらい色白の子。


「お前実家から幽霊連れて来てね?」


なんてこと言ったら。

小西にどつかれるだろう。


俺は幽霊なんて見えない。

霊感なんてものは全然ない。

その女の子も幽霊ではない。


小西の隣に椅子を並べて。

同じ向きで俺を見てる女子。

いや顔の一部はこっち向いてるが。

全然俺なんて見てなくて項垂れてる。


その女子は俺たちと同じクラス。

同じクラスの松井さんて人らしい。

ちなみに今日顔を見るのは初めてだ。


もう二月の三学期にもなるが。

入学以来不登校だったらしく。


「本日のから登校することになった!」

「みんな仲良くしてやってくれ!」


なんて壇上に立たせての自己紹介。

うちの担任は一切しなかった。


ただ彼女を連れて教室に入ると。


「小西、頼むな!」


そう一言小西に伝えただけだ。

何しろ二年間一度も登校なし。


どうやって説得したものだか。

体育会の拳闘士先生にしたら。

かなり繊細な対応なのだろう。


親的にも無理にでも登校させるなら。

これがぎりぎりのタイミングだろうな。

もしまともな高校に進学させたいなら。


これはかなりリアルな話だ。

受験に必要な成績と内申書。

三年生の成績が重視される。


少なくとも地元県ではそうらしい。

二年間の成績は三学期の期末テスト。


それもあくまで参考程度というから、

二年間こつこつやって来た者には酷だ、

だから今の時期のクラスの空気は緩い。

先生もそれを含めて説得したのだろう。


なるべく自然にクラスに溶け込めるように。それで彼女は小西に取憑いて。


いや後ろの席に張り付いている。

彼女にしたら右も左もわからない。


小西だけが頼りなのだろうと思え。 

いやまったくそんな素振りなし。

ただ黙って俯いているだけだ。


小西も色々話しかけてたようだが。

急にこちらに話の矛先を向けて来た。


おでこだけ見え隠れしてる。

松井さんのことも気になるが。

時折前髪の隙間から覗く視線。

呪詛を秘めたような憎しみの瞳。


小西は委細構わず話しを振って来る。

もしかして小西もお手上げなのか。

背中越しに感じるプレッシャー。

彼女の存在と圧に怯えてる!?


「ところでイッチ先生の星座は?」

「ちなみに血液型とかは?」


なにその人生初合コンの二人。

やっと出会えたみたいな話題。


不意に訊ねられて。

さらっと答えられず。


「さあ何だっけかな?」

「知らないってか?」

「あんま興味が…」


星座はともかく血液型知らないとか。

言い訳としては少々苦しかった。


「最近ずっと占い本読んでるよね〜」


彼女の瞳にホロスコープが浮かぶ。

本を仕舞ったポケットを見て言った。


そこまで知ってて聞いて来るかね。


「牡羊座の…B型ですけど!」

「うわ!?最悪!」


食い気味に言ってくれるな!


「頭に血が登ると止まらない?」

「猪突猛進バカじゃん!」


過去に覚えがなくはない。

だから反論が出来ない。


「私と同じじゃん!」


それは牡羊TYPE.Bが最悪なのか。

それとも俺と同じが最悪なのか。

それはこの際不問にしておこう。


「それでさ、最近がっつり占い本ばかり読んでるようだね?イッチ君!」


「そんなことまで!」


「素朴な疑問です!」

「へい」


「なんで?」


大きな黒い瞳が俺の顔を覗き込む。


「これユイシンよ!」

「今度言ったら殺す!」


ユイシンは小西の親父さんの名前だ。


ちなみに坊さんの名前とかって。

本名を音読みに変えただけとか。

うちの寺の宗派ではそうだ。


偉くもなればまた別だろうけど。


ユイシンなら元は唯信とか?

和尚ならオショウ和尚か。

そんな坊さんはいない。


「ちょっと…なに笑ってんのよ!」


小西の親父の名は変わりそうもない。

なまぐさ坊主は出世魚にはならない。

精々輪廻畜生道に落ちるが関の山さ。


「安い戒名だと成仏に差が出ますよ」


ナマズみたいな顔のなまぐさ坊主。

どちらか言えば小西は父親に似てる。


でも、厚めの唇も、きりりとした男顔も。マイナスの遺伝となってはいない。


女の子は父親に似た方がいい。

それはちょっと迷信じみてる。

母ちゃんが美人なら尚更だ。


しかし小西に限ってはそれが正しい。

俺たち男子は可愛いとか綺麗とか。

女子の外見で優劣を判断しがちだ。


小西はこの頃から既に色気があり。

それに気がつく男子はいなかった。

もちろん自身を含めてだけどね。


いい意味で親父の顕性と俗を引き継ぎ…


「ちょっと!」


奇しくも、うちのクラスには違う寺の娘が二人もいて。小西の他には、長谷川さんという女子。長谷川さんの実家の寺は、母の実家の菩提寺で、地元でもかなり由緒ある古刹。


つまりいいお寺なのである。

住職も人格者として名高い。


修行先を一週で逃げ出した坊主とは…

まったくそれでよく寺が継げたものだ。


その良い寺の娘の長谷川さん。

学年でも傑出した美少女である。


男子の注目や思慕を一心に集めていた。

普段からとても穏やかで物静かで。

菩薩のような雰囲気がある。


さぞ御両親の教育が行き届いているのだろう。まさに仏閣の御息女の佇まい。俺は殆ど話をしたことがない。この小西の方が口あたりよく。話しやすく。呼べばすぐ来る法華の太鼓。


手身近手頃な女という感じで。


「おい…黙ってないで何とか言えや!」


黙っている人の胸の内ほど雄弁なのさ。


「どうせろくでもないからいいや!」

「こう見えても内心は高評価で溢れ!」

「嘘つけ!」


小西は手をひらひら降って言った。


「で?なんで、今イッチには占いブー厶が起きてんの?」


「なんでって…言われてもなあ」


そんな理由なんて特にない。


「は!?わかった!今年もバレンタインの惨敗は確定事項…来年こそ非モテ脱却!イッチもいっちょ女子受けする占いスキルでも身につけて…」


畳み掛けるように情けない男へと。

第一俺はチョコレートは食わない。

子供の時からチョコは禁止だった。

好物になるタイミングを逃した。


俺はおそらく一番つまらない理由。

すなわち本当の話を小西にした。


欲しい本があって本屋に出かけた。


「そしたらタロットとセットになってる占い本があってさ…」


「ふむふむ」


辞書サイズでカバーも美麗で。

一目見て気に入ってしまった。

他の占い本も集めたくなった。

理由はそれだけだった。


「それだけ?」

「それだけ!」

「誰も占わないのに?」


小西は小首を傾げて言うのだ。

不合理と言う生き物を見るが如く。


「旦那!辻占いもなしですかい?」


人を血に飢えた侍みたいに。

それに辻占いは意味が違うぞ。


「イッチは占いで何が知りたいの?」


まあ道具を買って占いはしない。

これは酔狂にも奇妙にも見える。


けどあくまで道具は本の付録。

そう考えれば納得が行くだろう。


「デアゴみたいなもんだ」


あれは学生の財布には少々きつい。


「毎号パーツを集めて模型やキルトを…」


「そうそう!うっかり始めると「次のも買わなくちゃっ!」てなるのが人情だ!しかも安いのは初回だけで…次号から値段は倍とか…しかもネジ一本とか…週刊っていうのもエグいぞ!」


結局模型買った方が安いんじゃねえかと。本ていうのは本屋や図書館で探す。すると関連書籍にも目が行く。読めばさらに一冊また一冊と。一冊買うだけでは到底終わらないシステム。もし好きなロックバンドに出会えたら。当然そのバンドのインタビューが読みたくなろう。そのメンバーが好きな音楽や、影響を受けたアーティストの作品だって、当然聞いてみたくなる。そうして扉は無限に広がって行くのだ!電子書籍やダウンロードだけでは得られない体験だ。そういうのは脳みそに深く刻まれるて消えない。消えないのだ!


「ロマンが…」

「そんな文字の塊いいから!」


女子はロマンという金塊に興味なし。


ちなみに金塊と書いてインゴット。

小西や他の女子には鉄屑同然らしい。


「たのもう!」


「は?」


「私のことも占ってしんぜよん!」


昔ガンダムの谷間に放送してた。

ロボアニメのタイトルみたいだな!


「あのもし小西よ!コニタンよ!」


「その言い方もやめろ!」


「お前さ…」


俺は小西の顔を見て言ってみた。

彼女みたいなタイプはおそらく。


「お前占い信じてないだろ?」


占いなんて必要ないし信じてもない。


「なによそれ…は!?もう占い始まってる!?」


小西は嬉しそうに椅子に座り直す。

なんか前髪とか気にして整えてる。


「どうぞ!」

「整いました!」


どちらかと言えばこちら側の台詞。


「好きなように占って!」

「小西dbが大きいって…」

「は!?何!?今デブって言った!?」


帷子一枚羽織って数珠振り回して。

常に学校ランウェイのセンター。

堂々歩いて来た女と俺は違うぞ!


は…待てよ?俺と小西は、年齢はひとつずれてるが…同じ牡羊のB!?


にも関わらず、性別の差こそあれ、同じ条件を満たしながら、占いのカテゴリーの中で、性格から何から違う。ここまで真逆!?


共通項などまるで見受けられない。

つまり占いはあてにならない!


「イッチ!」


手っ取り早くこいつを黙らせるか。

俺は素早くポケットに手を入れて。


「それは…易占いで使う!?」

「左様…筮竹だ!」

「そんなものまでポケットに!?」


俺は小西の目の前に筮竹を翳した。


「どうだ…あ?小西?筮竹で占われるなんて…その身を舐られるようであろうぞ?こともあろうに寺の娘が!異教の神道、陰陽の竹ひごで、その未来を左右されるとはな!さぞかし屈辱…」


「別に!」


「あ…そう…神仏混交だもんね…御目出度いはあちら様で、御不幸やお悔やみはそちらで…」


「うるさい!早くやれや!」


易占いには本筮法や中筮法がある。

こやつには略筮法で充分だろう。


まず五十本の筮竹を纏める。

机に並べ右手で素早い捌く。

さらに下のほうを左手で持ち。

右手で筮竹の中心を添えるように。


その姿勢で占う内容を頭に思い浮かべ。

精神を研ぎ澄まし集中させる。


右手で一本だけを抜きとり。

筮筒に立てる(ないのでペンケース)

これをもって「太極」であるとする。


残っている四十九本の筮竹を持ち。

それを机上に扇状に広げてる。


再び精神統一!

四十九の筮竹を右手親指で二分する。


その中からさらに一本を取り。

左手の小指と薬指の間に挟む。


「なんて鮮やかな…手捌きなの!?」


娘子よこの占師に惚れるでないぞ。


左手に持った筮竹を、二本ずつ四度数え。合わせてハ本になるように取る。

これを八払いと言うのだ!


八払いを左手に残っている筮竹から八。取れなくなるまで繰り返す。


最後に残った筮竹、小指と薬指の間に挟んでいた筮竹を合わせて、何本になったかを確認する。


残ったその数によって八卦が確定。

ここで求めたものが内卦となる。

当たるも八卦とはこれの事だ。

 

 残った数が一本であれば 乾

 残った数が二本であれば 兌

 残った数が三本であれば 離

 残った数が四本であれば 震

 残った数が五本であれば 巽

 残った数が六本であれば 坎

 残った数が七本であれば 艮

 残った数が八本であれば 坤


 同じ手順を繰り返し外卦を求める。


内卦と外卦が決まり大成卦が完成!


「ここからはさらに変爻を求め…」

「イッチ休み時間終るけど…」

「中略…」


「略していいの!?」


「出ました!残った数は一二三!」

「私の名前と同じ!?」


「一二三の鈴!」

「ヒフミの鈴!?」


占いの結果は一二三の鈴と出ました。


「見えるぞ!」


「何が?」


「一糸まとわぬ全裸のお前の姿が!」


「なんですって!?あんた!一体どこを見てるのよ!?」


小西が胸のあたりを抑えて身を捩る。


「寺の本堂に大きなおりんが見えます!」


おりんとは文字通り鈴のことである。

木魚と同じ梵音具という音を出す仏具。


浄土真宗、天台宗では鏧きん、日蓮宗では鈴りん。その他の宗派では鐘などと呼ばれる。宗派によって呼び方が異なる。


ちなみにお寺にある巨大なおりん。

大徳寺りんというのが一般的だが。

呼び方は宗派や寺により異なる。


「それは!?お父さんが御題目唱える時に鳴らすやつだ!?」


「手前…生まれも育ちも妙蓮寺!お寺のおりんで産湯につかり…一二三と呼んで小西のヒフミと申します!」


「見える!八寸のおりんで産湯に浸かる…赤ん坊のお前が見えます!ばぶー!」


「てめ」


俺は小西の前に右手を差し出した。


「はい!お布施!」


なんならチョコでも。

もらってあげても。

よろしくてよ!


「お前そこ動くなよ…そこで目を瞑って待ちな!口と言わず!鼻と言わず…好きなだけ!けつの穴にも!そのイカサマ竹ひご!突っ込んでやるからなあ!!!」


まあ乙女がなんてはしたない!?

何処かの国の報復制裁ですか!?


確かに手応えは感じた。


(やったか!?)

「私たち…やれたの?ねえイッチ!?」


「ああ小西よ…俺たちはやったさ!でもそれは禁句なんだぜ!『殺ったか!?』それはやれてない時のフラグだ!」


ちなみにB型同士の男女。

牡羊座同士の男女共に!

相性は最高なんだぜ!!


そんな俺たちが負けるはずかねえ!!!


俺と小西は恐恐と松井さんを見た。

彼女の体は黒板の方角に向いていた。


「全然聞いてねえ!?」

「一瞥もくれてねえ!?」


『なんてお姫様だ!?』


この休み時間をすべて費やして。

小西と俺のどうしよもない寸劇。


少なくとも体はこちらを向いていた。

時計で言えば長針と短針が12時30分!

それが今はどうだ!?3時45分だ!!!


その間にこの人何回転したんだ!?

まるでピカソのドラ・マールの肖像。

いやダヴィンチのウィトウィルス的な。


そんなことはどうでもいい。


俺なんて教室で尻に竹ひごの束を刺し。


「そろそろ授業始まるからじゃね?」


何処からか理性の声が聞こえた。


「ね?松井さん?こいつイッチって言うの!からかうと超面白いでしょ?」


ペットは窓際のあいつじゃなくて俺。

俺の周りの女こんなんばっかりか。

もう信用出来ない。人間が怖い。


「イッチ君…」


振り向くとクラスの女子の一人がいて。


「イッチ君占い出来るの?」

「私も占って欲しいな?」


ほら見ろ小西の毒教のせいで。

迷える乙女の行列が出来てる。


俺の将来の夢は行列の出来る占い師、ではない。人混み嫌い。注目は困惑。


「なんですか?なんの行列ですか?」


工藤さんまで後ろの列に並んでる。

俺はいったい何を占えばいいんだ。

彼女との恋の行方だけは占えない。


「なんか…イッチの周りに女子が!」

「バレンタインを前に悪あがきか!」

「占いとか姑息な手を使いおって!」


ほら後ろの方から非モテどもの声が!

めんどくせえ!女の敵は男ではない。

女の敵は女。そして男の敵は男なのだ。


ここでクラスの女子を無下にも出来ず。素っ気ない態度もばつが悪い。


「あの…もうすぐ授業始まるし」


俺は女子たちにそう言って解散を促す。


「放課後にでも…小西お前もだ!」

「あ〜い」


「松井さんも!ね?占いとか好き?」


小西のそんな言葉にも彼女は黙ったまま。ずっと俯いたままだった。


「いつでもいいぜ」


俺はその背中に言ってはみたが。

くすりとでも笑ってくれたらな。

そしたら少しは楽になるのに。


俺だって最初は君を不気味に感じた。

初めて学校に来た君はもっとだろう。


田舎の小さな小学校からこんな大所帯。

にきびだらけでごつごつのじゃがいも。


クラスのみんなが宇宙人に見えた。

でもそのうちすぐに慣れるものさ。


俺が素敵なあだ名考えてやろうか。

君を蝋人形少女と呼んでやろうか。


まあ小西もどんまいだ。

まだまだ次があるさ!


「イッチ!俺たちも!」

「占ってくれ!たのもう!」

「とりまチョコもらえそうかとか!」


第一印象から全然変わらないな!

お前らの未来など即答してくれる!

それどころか卒業後の同窓会まで!


「まったくよ〜俺もいつまでもよ〜AVとかよ〜卒業しねえとよ〜」


「今日有ポンは来ないんだな…」


「ああ…あいつ、出会い系で知り合った女子高生に、性病染されたとか…ざまあ!」


「なんだよ〜女子連全員早々に帰宅とか…まじありえねー!つき合い悪!」

「うちの女子ブスばっか!」

「ツバ吐いとけぺぺぺ!」


『やっぱメロンソーダ世界一うめ〜』


『俺たちずっ友でいような!』


別に見たくも知りたくもないけど。

同窓会でのお前らの未来が視えた。


それは未来視か進路が不安な預言者か。

その覚醒を告げる鐘が教室に鳴り響く。

単なる休み時間終了の予冷なのだが。


「イッチ次の授業数学な…」

「ノート貸してくれよ~」

「終わたら俺も!俺も!」


福音を求める亡者の声鳴り止まず。


俺は数学の教科書を開いて。

密かに占星術の本を忍ばせた。


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