第9話 ぼくの屋根裏部屋へようこそⅠ
「女の子なんていないよ」
塵取りと箒を持って腰を上げた。
女の子の目線が少し近くなった。
それでもその子の方が背が高い。
明らか俺よりお姉さんだった。
そして疑わしそうな目で見ている。
「本当に?」
俺は頷いた。
「本当に本当の本当に?」
「嘘じゃないよ!」
大きな瞳に嘘をつく俺が映っていた。
「嘘つくと鬼が来るんだよ!」
「鬼!?」
鬼という言葉に怯んだ。
この国で「鬼」という存在。
常に子供たちを脅かして来た。
それは今も昔も変わらないらしい。
お化けや妖怪という存在は曖昧になっても。なぜか子供は鬼を怖がる。
それは日本人の遺伝子に刷り込まれた。
原初の恐怖と言わざるを得ない。
「いないったら!いないよ!」
俺はそれをはねつけて見せた。
女の子など住んでいない。
遊びに来たこともない。
「ふうん」
それでもその子は納得がいかない様子。
人差し指を唇に当てて名探偵みたいに。
しばし思案する仕草をして見せた。
「アヤちゃん!」
その様子を見ていた女の人がいた。
慌てた様子でこちらに駆けて来る。
どうやら女の子の母親らしい。
女の子の名前はアヤちゃんらしい。
お彼岸のお墓参りに娘を連れての道行。
目の前の家の畑の貯水タンクの横にいた。
ご近所のおばさんと立ち話しに夢中になり。娘がいないのことに漸く気がついた。
概ねそんなところだろう。
よくあることだった。
「アヤナ…アヤちゃん!」
アヤナが正しい名前らしい。
この地方での訛というかイントネーション。漢字そのままの読み通りではない呼び方。
綾なすもしくは危うい。
その読み方でアヤナだ。
名前の漢字など勿論わからない。
「だめよ!知らないお家に!」
「だって!」
そんな風にたしなめられても。
「包帯でドレスの女の子がいるの!」
アヤナちゃんには大切なことらしい。
「ごめんなさいね!」
そう言って娘の手を引いて立ち去る。
「小さいのにお片付け?」
「えらいわね」
俺は頷いた。
目を細めてそう言葉をかけた。
他所の子を見たらとりあえず褒める。
このあたりのおばちゃんは皆そうだ。
「お墓参りに行くよ!」
母親に手を引かれしぶしぶ歩きだす。
帰りではなくこれから墓参りらしい。
途中振り返った時にその口が「あ」と動いた。慌てて体を似めに向ける。
俺は女の子に見せないように。
右腕を包帯を左の掌で隠した。
「包帯を巻いた女の子なんていない」
その子に嘘をついていた。
それは知られたくなかった。
女の子が実家の庭先で見た。
腕に包帯を巻いた女の子。
それは俺だったからだ。
俺の顔と右腕の包帯。
かわりばんこに眺めていた。
アヤナちゃんという女の子。
ぽかんと口大きく開けたまま。
そのまま母親に連れられて行った。
途中何度も振り返り。
こちらを見ていた
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