第5話 羊の言葉とオフコースⅡ


朝起きてから日が暮れるまで。

草原で羊の群れと1日を過ごす。

羊飼いの少年は孤独ではないのか。

それとも耳慣れてしまうものなのか。


羊の言葉はわからない。

羊も羊飼いの心は知らない。


そんなことを時々考える。



貴族には貴族の社交のルールが。

侍には侍の城づとめの決まりごとが。

中学生にだって社交のルールがある。


仲良くなるために。

音楽は重要なツールだ。


同級生の遠藤君。

あだ名はぶーちゃん。


けして高木ブー的なキャラではない。


彼はセンスがよくて。

町の子という感じ。

部活はテニス部だ。


ただちょっと鼻が上向いてるだけだ。

だからぶーちゃん。


小学校から呼ばれてるらしい。

本人は気にしてないみたいだ。


みんながそう呼ぶ。

そこに悪意など感じない。

ぶーちゃんはいいやつだった。

何よりもみんなに好かれていた。


「どんな音楽聞くの?」


そんな言葉がきっかけで。

俺たちはすぐ意気投合した。


クラスの中では一番音楽に詳しい男。

お姉さんがバンドをやってるらしく。

中2で自分のギターを持っていた。


ぶーちゃんはレトロな音楽が趣味。

日本のフォークソングが好きらしい。

アコースティックギターを持っていた。

許されるなら学校でも爪弾いていたはず。


アコギを弾くから、そういう音楽を普段からよく聞くのか。そうしたバンドが好きだから、アコギを始めたのか。

俺にはよくわからない。


「俺も!俺もさ!今年、お年玉とか貯まったら、ギターを買いたいんだ!」


バイトするなんて発想すらない。

義務教育真盛り中2の俺に金はない。

貯めた小遣い銭と年1のお年玉が頼りだ。


俺は熱っぽく語っていた。

ちょっと先輩風を吹かして。

ぶーが俺にアドバイスする。


「そうだな・・もし最初に買うなら、俺が使ってるモーリスのギターがお勧めだ!値段も手頃なのがあるし!初心者には弾きやすいギターなんだ!間違いない!」


ぶーちゃんの言葉に俺は首を振った。


「俺のギターはストラトキャスター1択だ!俺の好きな、ギタリストのブラックモアが、ずっとストラトで弾いてんだ!」


「ストラト、ギブンソンのギターにも、アコギはあるけどねえ・・」


「ギブソンは、確かにいいギターだけど、弾き手の個性を消してしまうんだ!ブラックモアが、昔ジェフベックのステージを見て『ギブソンはお前の個性を消してしまうから止めておけ』そう忠告したんだぜ!雑誌のインタビューで読んだぞ!」


個性どころか弦すら持ってない。

俺は耳年増を越えた耳娼婦だった。


「アコギは、ちゃんと正確にコードとか押えないと、いい音がしないから・・しっかりしたテクニックが身につくんだけど」


ぶーちゃんの言うことはいつも正しい。


何年か後に、ブラックモアが同じことを言ってた。ずっと後に雑誌で読んで驚いた。


「なら今度一緒にすみや行く?」


俺たちはユニットを結成した。

文化祭で演奏することが目標だ。


「俺は小田和正を神と崇めている」


ぶーちゃんは鼻息荒めにそう言った。


「あちゃー」


俺はそれを聞いた途端。

心の中で天を仰いだ。


その当時がんがん流行っていた。

和製ポップスや歌謡曲というのか。

じゅっぱひとからげ。

俺は苦手だった。


「いい年した大人がさ、寄って集って作ったような?薄っぺらい歌詞が嫌いだ!」


なんて未来の俺予備軍の俺。

大人になってから友達を失くす。

もっともらしい屁理屈ばかりこねる。

ひねた男に早くもなろうとしていた。


実はそんなに「商業主義シネ」みたいな、トガッた反抗心なんてあるわけもなく。


ただ歌詞が耳に残らないから。

心に残る言葉が見つからない。

ようするに好みに合わない。

それだけの話だった。


それもこれも羊の言葉だと決めつけた。

羊の言葉は耳を素通りするだけだ。


そんな俺でさえも知ってる小田和正。

小田和正ってそのての音楽のボスだろ?


「音楽は海外のメタル!それも北米より英国!邦楽は中島みゆきしか聞かんのだ!」


「おお、偏ってるね・・イッチ!」


ぶーちゃんはつぶらな瞳で頷いた。


「ヘイル!イングランド!ライオンハート!ロングリブ!アンチ!グロバリゼーション!ヘイル!インペリアリズム!ロングリブロックンロール!ゴッド・セイブ・ザ・クイーン!」


「は・・なんて!?」


真に優れたロックとメタルバンドとは・・我が大英帝国からしか生まれない!


イングランドは俺のライオンハートだ!


「好きな四字熟語は英国製合金だ!」


「一文字多いけど」


俺は鼻息荒く机を叩き壊す気勢だ。


「ちょっと待った!そこでだ…若旦那!」


 急にどうした!?


「若旦那いや・・イッチが、バンドサウンドが好きなのはよ〜くわかったぜ!だからこそ、俺が!あのオダ様が!ソロになる前の偉大なバンド!大大大オフコースのアルバムを全貸ししてやろうじゃないか!」


獅子心中の苦虫を噛み潰す顔で拒否する。


「いや・・いいって・・別に趣味じゃない・・」


「2人でユニットを組むのなら、お互いに好きな音楽への理解が必要・・だろ?」


正論には違いなかった。


実は既発のシングル曲など聞くにつけ「これは自分には縁のない音楽だ」そんな判断を俺は既に下していた。既に選別済みだ。


だから丁重に断ろうとした。

しかしぶーちゃんの熱意に気圧される。


中学生男子ともなれば女子にもてたい。

色気づいて音楽も背伸びしたやつを聞く。

好みのアイドルや、アーティストを推す。


見えない勢力図はこの組にも存在する。

まだ名前も頭に入ってない女子たち。

通りすぎる時に俺たちを見て言った。


「オフコースとか、中島みゆきとか聞く?今時マジ?・・メタルとか?あはは!?」


まざってる!全部まざってる!

それは危険すぎるミクスチャーだ!


「暗いよね〜さだまさしの仲間でしょ?」


いや・・さだまさしの歌詞は耳に残るぞ。

けど俺はさだまさしファミリーじゃない。

さだの仲間は横にいるこいつ!こいつだ!


ぶーちゃんの好きなオダ軍はマイノリティ。おれに至っては絶海の孤島どころか、存在すらしない鬼ヶ島のようなものだ。


ぶーちゃんは・・おそらく1人でも多く、オダ方の支持基盤を1人でも増やしたい。

そう考えていたに違いない。


それで押しに弱そうなのを勧誘している。

いやただ単に音楽好きのいい人なのかも。


それでも俺はうれしかった。


こんなに熱意の瞳の男が他にいるか。

自分の好きな音楽をすごい勧めてくる。

もはやオダ教とオフコースの伝道師だ。

聞けばコンサートは行ったことがない。


そんな魂の熱い男がここにいる。

なぜだか胸の奥が温かくなる。


「じゃあ貸してくれる?」


俺は礼を言ってCDを家に持ち帰った。

その夜自分の部屋で1人で聞いた。


そして翌日。


「イッチどうだった?」


「昨日聞いたよ」


「それで!?」


「ごめん…寝た」


俺はばか正直に答えてしまう。


どれを聞いても眠たくなって。

みんな同じ曲に聞こえてしまい。

気がつくと気持ちよく寝てしまう。


社交辞令が俺には言えなかった。


なぜだろう?

そんなこと言って。

嫌われるかもしれない。

傷つけるつもりなどない。


ただ俺は「よかったよ」とか「けっこう好きで気にいった」そんな当たり障りのない言葉。この時は使いたくなかった。


思ったことを正直に伝えたかった。

普段の自分とは違う心の動きだった。


「それは褒め言葉だね!」


ほら!やっぱりだ!そんな言葉じゃ俺たちは怯まないんだ。このぶーは折れない。

俺はなんだかうれしくなってきた。


好きなものに対してとことん一途な男だ。話してたらわかる。伝わるものなんだ。

それは多分俺も同じ。共有できる感覚だ。


「最初はみんな寝るんだ」


「えマジで?」


「つまりそれは、音楽の完成度がとてつもなーく高いってことなんだ!」


自販機のホットドリンクの横に書かれている「あたたか〜い」みたいな言い方だ。


「へえ・・そうなの?」


「心地よく眠れる音楽はいい音楽だ」


ぶーちゃんの音楽論ではそうらしい。


「オダ様率いるオフコースは、オダ様だけじゃない!他のメンバーの演奏スキルも、とんでもなく高くて!ひと度ライブを演れば、日本で有数の演奏を聞かせるグループなんだ!」


そんな名うての楽器隊には思えんが。

実際のライブ映像を観るとそうらしい。

「演奏とかもうノリノリでさ」らしい。

ちょっと想像出来ない。


ライブバンドと聞くと。

途端に興味が湧いてくる。

まだかけだしだけど。

俺はロック好きだ。



「だから・・あ・え・て・レコーディングでは、ステージで再現可能な演奏を心がけているのさ!」


「それはちょっと理解出来るかも」


なんというか昔の名バンドっぽいやり方。

レコーディングはあくまでその時の記録。


フリージャズを演奏するバンドみたいに。

ライブではインスピレーションの思いつくままに、フレーズを次々に足して行くんだ!それはよいバンドの条件だと学んだ。


レコーディングは引き算の美学。

ライブではかけ算以上のケミストリー。

多分ぶーちゃんが言いたいのはそれだ!


「イッチはメタルを聞いて眠れるのか?」


「まあ、そうだな!」


ヘッドセットしたまま眠るのはよくある。なんというか、それが俺には心音のリズムと重なり、心地よい。子守唄みたいに。


本を読むのもきっとそうだ。

最初は読めない漢字とか。

面倒くさいことはある。


けれど慣れてしまえばそれが心地よくなる。そのうち息をするのと同じになる。


美しい表現や胸に刺さる言葉に出会う。

脳に麻薬のような成分を分泌させる。

耐性の後に扉の先にあるのは快楽。

それは宝探しの旅だ。


音楽だって、激しいリズム、鋼鉄のようなアンサンブル、グロウルするヴォイスや、音圧の中に隠れている。美があるんだ。

普段は隠れているからこそ。

見つけた時は喜びに震える。


誰に言っても伝わらない。

俺が知ってればいいこと。

ずっとそう思っていた。


「だからさ!俺はイッチの好きな音楽も、きっと、いい音楽だと思うんだよね!」


ぶーちゃんは俺にそんなこと言った。

もうとっくの昔に忘れてしまっただろう。

だけど俺は今も覚えている。


大切だと思うことは忘れない。

けして忘れないんだ。


それは聞き流していい羊の言葉じゃない。


「でも、イッチはなんでそこに拘る?」


なぜ言葉の意味もわからないような。

激烈なスピードの音楽ばかり求めるのか。


俺はそう聞かれた時。


「そうだな」


なぜか口が自然に動いた。

躊躇いなく言葉が零れた。


「日本語とか、日本語の歌詞が、なんか、つまらなくて。全然耳に残らなくてさ…」


「へえ・・じゃイッチの聞いてるような、洋楽の歌詞ってさ、そんなに耳に残るような、いい言葉ばかりなんだね!」


皮肉ではないと思った。


しごくまっとうな返しだ。

俺は首を横に振った。


「いや、日本語よりもっと単純だったり、多分大したことは言ってないと思うよ」


ボブ・ディランの歌詞はすごいと聞いた。ジョーンバエズとかキャロルキングとか。


ロックの世界にも、心を鷲掴みにされるような歌詞を書く。詩人がいるという話だ。


でも俺はその人たちは聞いてない。

ボブ・ディランは視聴だけした。

やはり眠くなった。


なんというか声がもさもさしてて。

すぐに眠くなった。


ぶーちゃんなら気に入るかも。


アコギ主体の音楽みたいだし。日本のそうした音楽のルーツだったりするのかも。


だけど俺は、音楽の言葉の意味なんて。

それこそ深い意味なんて求めない。


むしろ、わからない方がいい。そう思っていた。ちっとも耳に残らないでよかった。

その方が不愉快にならず音楽が聴ける。


小学生の時からずっとだ。いやもっと幼い頃から。親や先生の言うことや。クラスの友だちが、授業中や、それ以外の時間に騒いでるような言葉。文句を言ったり。冗談を言ったりする言葉。全然耳に残らない。


何かの発達障害だったのかもしれない。

当時はそんな言葉一般的ではなかった。


「子供の頃は体弱くてさ」


幼稚園は半分も行けなかった。

家にいることの方が多くて。

本ばかり読んでた。


そうであってくれという親の願い。

たのむから大人しくして。 

外でなんて遊ばないで。


夜中や明け方病院に駆け込むなら。

家の目の届く場所で本でも読んでいて。


俺自身もそうあろうとした。


絵本でもなんでも。

本さえ与えたら。

静かな子供。


それ以外はチューニングが合わない。

そうチューニングが合ってなかった。

俺はそんな子供だった。


今ぶーちゃんと話していてそう思った。

そうだ物心ついた時の俺はぼろぼろで。

原因不明のチューニング不良だった。


でもそれは誰にも言わないことだ。

訴えたところで誰にもわからない。


そう思ってあきらめていた。


「でも」


隣の席からクラリーノの鞄が語りかける。

いやクラリーノかどうかわからないが。

見事に学校指定の学生鞄に荷物を詰めている。買った時のまま。綺麗にかたちを残して。傷1つなく手入れされている。


無骨な老先生の鞄みたいだ。

名は体を表すじゃないけと。

彼女の持ち物を見ると思う。

鉛筆一本でも手入れが良く。

彼女の性格を反映していた。


かわいいファンシーなマスコットもない。

俺たちみたいに教科書を置いて帰らない。


俺の隣の席で班長だから。

名前も覚えた。

工藤奈緒子。


俺は彼女を見た途端に一目惚れだった。

なぜか人生で一目惚れしかしない。


あとは気持ちが通じればいいなと願う。


彼女は俺の初恋の女の子に似ていた。


「でも」


常に陰気で内省的になりがちな男子。

そんな俺の言葉を遮るように言った。

分厚い鞄に教科書を丁寧に詰める。

その手は一向に止まる気配はない。


俺が初恋だと思う少女は架空の物語の中、現実にはけして存在しない女の子だった。

本も読んだしアニメもしっかり見た。


彼女に相棒のマスコットはいなかった。

彼女は俺の方を見て鞄ごしに言った。


「きれいな言葉で話すよね」


俺は不意をつかれて言葉につまる。


「あんたって」


真直ぐに見つめる大きな瞳の色。

俺は思い出すことが出来ない。

それは大切なことのはずだ。


見つめ返した記憶がない。

恥ずかしくて。


彼女の言葉は俺の本質を突いていた。

それまで自分でも薄々気がついていた。


俺は幼い頃から標準語で話す。

地元の方言や訛りが一切ない。

気持ちの悪い子供だった。


小さい頃に海を渡り宣教師が村に来た。

未開の地の村の子供を見るように。


ロザリオを首から下げた貴婦人だった。

黒い外車の窓を開けて手を振ってくれた。


「お兄ちゃん大変だよ!」


ある日妹が分譲住宅の広告を持って来た。

それは地元の中古住宅の販売広告だった。

俺のとこだけ写真と間取りが書いてない。

藁葺き屋根のイラストだった。


「田舎暮らし始めませんか?」


それだけ書かれていた。

それくらいの田舎だ。


「あんたどっから来たの?」


工藤さんは俺に問いかけた。


「ここら辺の子の言葉使いじゃないよね、もしかして東京から来たの?」


それは未来から。世にも怪奇なこの物語を綴るために。俺は君の処に戻って来た。


なんて、そんなことが言えたら楽しい。


けれどここにいるのは当時の自分だ。


「ずっとこっちに住んでるよ・・多分方言とかないのは、本とかよく読んだせいで、自然と標準語が見について、それで」


自分の書く文章が今も「翻訳の文みたいですね」と言われるのは多分そのせいだ。


翻訳された小説も既に結構読んでいた。

他の生徒たちと言葉使いが違う。


実はそれは少々コンプレックスだった。

方言は意識して使うようにしていた。


「お前気取ってんなあ」


そう言われて戸惑ったこともある。


けれど「きれいな言葉使い」そう言われた俺の気持ちは少し高揚していたと思う。

もやもやの霧の中に陽が射した。

そんな気さえした。


「東京!?イッチが住んでるのは、日本のチベットと呼ばれてる・・」


黙れ!有泉!チベットの人に謝れ!

うちの田舎の絶景スポット猿棚の滝。

猿しか登れぬその滝から叩き落とすぞ。


俺の家より標高が高い場所に住むくせに。

有泉英朗は、当時地元に出来たばかりの、分譲住宅に越して来たばかりだ。


陽光台住宅地とは言うが。

日差しが当たる以外何もない。

あとは森林と空気がごちそうだ。


有ポンなんてライトなあだ名で呼ばれてるが。俺かあだ名をつけるなら「雑魚メガネ」だ。あだち充の漫画とかに出て来る。主人公のまわりをちょろちょろしてる。


そんなことを言うと「似てねえし〜」と気を悪くする様子もなくへらへらしてる。


へらへらしてはいるけど。

俺と似ていて性根が随分腐れている。

だからなんとなく話していて気やすい。


中間とか期末テストで夜遅くまで勉強したのだろう。元気がない女子の顔を見て。


「よお!ヤク中!また薬打ってんのか?」


目に浮かんだクマを指してケラケラ笑ってるやつだ。デリカシーのかけらもない。


「だまれ蚊蜻蛉!」


殺虫剤を撒かれるように追い払われる。

本人にはそれが楽しくて仕方ないらしい。


結構勉強も出来て見た目もいい。工藤さんと同じバスケ部のメガネ男子だ。


二人とも、手足が長くスタイルが良くて、高身長で実に羨ましい。


そこそこもてる条件を兼ね備えているが、性格が災いしてまったくの非モテだ。

こうはなりたくないものだと思う。


女子間では俺たちは同じ分類らしい。


すぐ隣では、ケタがいつものヒッヒッという引き笑いをしている。いつもケタケタ笑うからケタ・・でもないらしい。

それだけは謎だった。


こいつらと中2から中3まで過ごした。

同じクラスの班の仲間たちだった。


俺が未だ翻訳で伝えていないこの世界。


先ほど俺たちの前を通り過ぎた女子たち。

いそいそと他の女子たちが待つ席に着く。


恋バナでもするように机を囲み。

好きなアイドル雑誌を広げるように。


簡素な紙で書かれた降霊術の盤を置いた。


彼女たちは海辺で黒頭巾を被り。

コルドロンの釜を囲み行く末を占う。

マクベスの魔女に見えなくもない。


しかしそれは日常の風景だった。


それは大人にとっては眉唾ものの非常識。

でも放課後や休み時間に話題にする日常。何期目かのガンダムと何ら変わらない。

オカルトや都市伝説の類い。


それは何時でも。

かたちを変えて。

やって来る。


昔流行ったこっくりさん?

なんとかさんでもいいけど。

なんだか親しげに名を変えて。

俺たちの隣の席にやって来る。


ただの何でもない日常。

そこにも落とし穴はある。  

楽しいけどルールがある。


そこの彼女たちがやってるやつにも。

俺は多分他のみんなより注意深かった。

少しばかりだけど知識の蓄えがあった。


人に聞かれても言わないことだけど。


誰が最初に考えたか。

それは単純なルール。

誰でも覚えられるし。

簡単に忘れて。

すぐ破られる。


そんな世界の中で。

俺たちは生きている。


たとえば彼女たちがやっている降霊術。

仮にそれがコックリさんだとすれば。


あいうえおの書かれた文字盤があって。

中央に描かれたのは鳥居の記号。

名前を呼んでここに来てもらう。

全員が指を添えた10円玉。 

動けばとりあえず成功だ。

質問して文字盤を読む。

お帰り頂くのもそこ。


終わるまで指を離してはならない。

お帰り頂くまで途中で止めてはならない。

さもないと呪われる。

神様が?

呪う?


それで恋が成就したとか。

将来の夢が叶ったとか。

成功例を誰か知ってる?


俺は聞いたことがない。


欧米の降霊術テーブルピッティング。

大体似たような仕組みだったと思う。

どちらも人間が決めたルールだ。


勝手に作ったルールで呼びつけておいて。

どうでもいい質問ばかり繰り返した挙句。

見えないものに怖いだのなんだのと。

ギャーギャー騒いだあげく。


「もうお帰り下さい」


手を離したから呪われるよ。

俺が霊なら怒るけどね。


でも問題なのはそれが眉唾だろうが。

たんなる自己暗示だろうが。


呪いというペナルティが設定されている。

それは実に悪質なルールだ。


何かの拍子に下手を打てば。

それを家に持ち帰るはめになる。


俺たちは、大人たちより音楽や、小説や、映画やアニメに没入しやすい年代だ。

大学生や社会人が降霊術に耽り。

その中の誰かが呪われた。


そんな話は聞いたことがない。


強烈な熱狂に似た思い込みや暗示。

時に脳の仕組みも書き換えてしまう。

眼球耳も情報を取り込む器官だ。

実際に像を結んで。

再生するのは脳。


他の人に見えないものが見えてしまう。

聞こえないはずの音を聞いてしまう。

それは錯覚でも本人には呪いだ。


科学的な根拠は関係ない。


呪いとは儀式も呪文も必要ないものだ。

ただ本人が「呪われた」自覚すればいい。

些細な物音も物陰も違って見えるなら。

些細な不運もすべて呪いのせいと考え。

後は坂道を転げ落ちるだけだ。


呪詛も呪文も必要ではない。

肩に手をかける必要もない。

ただ耳元で囁けばいい。


「あなたは呪われた」


後は坂道を転げ落ちるだけだ。


同じ年の感受性だけは強い。

そんな連中ばかり集められた。


皆が何かが起きることを期待してる。

学校や教室は劇場に似ている。

それは現出しやすい空間。

一体何が?


呪いか幽霊か。


「もうすぐ夏だね」


まだ昇降口を出れば桜が咲いていた。

誰かが窓を開ければ花弁が舞い込む。

そんな季節だった。


少し気が早いだろうに、それでも。

彼女の言葉が夏を運んで来る。


そんなことを考えるのは。

同じ夏なんて二度と来ない。

失くしてからわかることだ。


「あ〜あれ流行ってるよね〜」


あまり興味なさそうな、間延びした声で、有ポンが降霊術に耽る女子たちを指した。


「なあ心霊博士!」

「やめろよ」


そんな呼び方をされたことは一度もない。


「5組のミノルに聞いたぜ!イッチの話す怪談話は半端ねえ!超絶エグいって!」


ミノルは1年の時クラスが一緒だった。

同じ部活の超アホだ。


あの野郎・・なに俺が知らないところで、ハードル上げまくってんだ!?


「私ミノルと同じ小学校」


工藤さんが手を挙げた。


「あ・・そうなの?」


それはさぞかし。

お互い気の毒なことで。


「ほんと!しょうがないやつ!」


やっぱりね!ミノルも言ってたよ。


「工藤って・・ほんとうにうるせえ!おせっかいな女で、町内も小学校も一緒でさ!」


「イッチ!なんか怖い話してよ〜」

「俺も!聞きたい!」 

「俺も!」


「いや近くでこっくりさんとかやって」

「それ!俺たちも後でやろうぜ!」


ダブルでやんのか!?こいつら・・さっきまで、全然興味なさげだったのに。


「心霊博士!」

「止めろ!」


俺は指差して言った。


「その呼び方止めろ!」


変なあだ名は本当に困る。

卒業まで後2年もあるのだ。

これからのことを考えたら。


色眼鏡は命取りだからな!


「言わねえ!絶対言わねえから!」


「なら」


怪談のストックなら山ほどある。

俺も本当は嫌いじゃない。


「じゃあ」


俺は咳払いよろしく。


がた!がた!がた!


それは机を揺する霊の仕業か。


物音に俺は隣の席を見る。

鞄に教科書を詰めている。

急いているのか額に汗。


もしかして怖いの?

工藤さんを見て思った。


校則通りの髪型から覗くおでこが光る。

利発そうな彼女のチャームポイントだ。

許されるなら俺はその額にキスがしたい。


始まったばかりの。

俺たちのクラス。


降霊盤というより碁盤のような。

正方形の教室。


その空間の中に俺たちはいる。

囲碁の盤って元々祭祀を占うためだとか…

京都の陰陽師が昔風水で用いた碁盤の目。明日を占う未来もまだ確定してない。


俺たちは中2の春の午後の教室にいた。

3年になれば歩とか桂馬とか位がついて。

その名の通りにしか動けなくなる。


俺は前の席にいるポン多と成宮さんを見た。2人とも生徒会の役員だった。


来年は会長と副会長になってるんだろう。

工藤さんと成宮さんは小学生からの親友らしい。3人そろってバスケ部だった。


もう王将とかキングとか。

それらしいのはいるけど。

とりあえず今は自由だ。


ここにいて親しげに話している。


俺や、ぶーちゃんや、ケタに有ぽんだってルールに縛られてる。出席番号だ。


始まったばかりの一学期のクラスだ。 

有泉、石川、遠藤、小笠原。


あいうえお順に座わらされただけ。


それがそのそのまま班になった。

ものすごく単純なルール。

運命でもなんでもない。


ちなみに工藤さんはか行。

俺たちより前の席だった。

でも後ろの席に下がった。


俺を含めた、こいつら全員班長になって、皆を仕切れるような人材じゃない。


そう担任が判断したのだろう。


「ちょっと黒板が見にくいです」


工藤さんが訴えたことで移動して。

俺たちの班長になった。


それは俺にとっては願ってもないことで、

イレギュラーだったかもしれない。


イレギュラーと言えば俺だけど。

俺はその場にいるクラス仲間を見た。


「俺実は君らより学年が上の先輩なんだ」


そう、俺は年をひとつサバ読んでいた。

義務教育の中学で留年したわけじゃない。


ただ彼岸の3月21日に生まれたから。

両親が出世届けを4月に遅らせた。

それだけで学年は一つ下になる。


体が弱かった。

学校とか無理そう。

それでそうなった。


「入学を1年遅らせた方がいい」


両親のその判断は多分正しかった。 

それは感謝している。

今でもそう思う。


でなきゃ工藤さんや皆にも会えなかった。


全然親しみが持てない。

本当は同級生の先輩たち。

彼らとすれ違う度に思った。


そんなことは誰も知らない。

別に言わなくていいことだ。


背が少しみんなより高い。

もう少し伸びるといいな。

小学校の時ほどの差はなく。

そのうち追いつかれるかも。


それ以外はなにも変わらない。

変わらないことがうれしかった。


変わり映えしない。少し窮屈だった制服が緩んで。なにか変わるかもしれない。

そんな予感さえした。


「イッチ!早く!」

「幽霊の話してくれよ!」

「えっと・・ちょっと待ってくれ!」


さてなにから話すかな。

俺は思案をした。


怪談話は好きだ。

話すのも。


聞いた人の反応を見るのも楽しい。


けど俺には自分ルールがあった。

そんなに難しいことじゃない。

話しをする前に一言だけ。

相手にも自分にも。

釘をさしておく。


それを忘れない。


「これは俺が実際に体験した話じゃない」

「これは本で読んだ物語の話だけど」


それでもいいかと。

なら話すよと。


それでも話を終えた後で。

必ず聞かれる。


「ねえ…イッチ君て見える人?」 

「霊感とかあるの?」


きらきらした目で聞かれる。

でも俺は正直に答える。

けして嘘はつかない。


「俺は、幽霊なんて一度も見たとないよ」


残念ながら。

みんなと同じだ。

正直に話すのがルール。


実は幽霊を見たとか。

実は見える人だとか。

言わない。

絶対に。


それは本当のことだから。

ただ実話の怪談話を読む人だ。

怪談は読むのも話すのも楽しい。


だけど見えもしない幽霊だとか。

見えるなんて絶対に言わない。


それは多くの実話怪談から学んだ。

狼少年の話じゃないけど。


俺が幽霊が見える人なら。

もし仮にそれが見えても。

黙って通り過ぎる。


見えてもいないのにそれが見える。

そんな風にして注目を浴びたい人。

その末路は間違いなく悲惨だと思う。


もし幽霊なんてものがこの世にいるなら。


「見える人だろ?」


心霊スポットや、いわくつきの場所に駆り出されて。適応なことばかり言ってたら。

俺が幽霊なら許さないからだ。


腹を立てたこっくりさんの。

呪いとやら。


それを家に持ち帰る。

それと同じことだ。


自分の家の寝室やトイレや浴室。

どうしたって人には1人になる時間。

生者でないものには時間だけは無限だ。


うずらやばい。


それでも俺はこうしてみんなと。

少し気の早い幽霊話なんて。

出来るようになった。


「俺、霊感とか全然ないよ!でもこんな話聞いたんだ・・」


まあ上手くはない。

けどそれが枕の言葉だ。


俺は話を始めかけて。

ふいをつかれたように。

話すのをやめて黙った。


目の前をついと光が過ぎった。

それは光りながら何度も過る。

もちろん他の誰にも見えていない。


「ティンカーベルだ」


俺は何時からかそう呼んでいた。

ロンドンのピーターパンに出てくる。

子供たちをネバーランドに連れて行く。

可愛らしい妖精の名前だった。


子供の時からよく見えていた。

光の粒子という表現。

小説でよく目にする。


でも、それは空気のゴミやホコリに日光が当たり、反射したものに過ぎない。


この世界で一番最小なのは素粒子?

でも粒子は肉眼では見えない。


子供時はそれが随分と謎だった。

よく手を伸ばしてそれを掴もうとした。

赤ん坊の時からそんなことをしていた。

そう両親がよく話していた。


長男で初めての子だったから。


「そんなものかと」


気にも止めなかったよと。


光は最初は一粒で宙を舞い。

すぐに複数に分裂した。


大人になって人に話すと「多分それは、飛蚊、飛光とか言われる病気だね」


疲れて来ると目の前を大量の蚊が飛んでいるような病気だとか。眼球内部の傷や乾燥で起こる。放っておくと怖い病気らしい。


しかし眼科で検査を受けても、両目の眼球に異常などはまったくなかった。大人になってから、医学書の類いも読んでみた。

飛蚊とも飛光の症状とも思えなかった。


極小でありながら、日中の陽光より眩い光に思えた。いつも強い輝きを放っていた。


まるで意思でもあるかのように時には隊列を組み。何かを教えるように目の前で飛行を続けた。それはごく短い時間だった。


その飛翔体はまだ随分幼かった自分にも、まるで警告を発しているように思えた。

まわり友だちや親に言っても。


「そんなものは見えない」


そう言われて諦める他はなかった。


宙を舞う光の粒に誘われて。

何処か知らない場所へ行けたら。

それはそれで幸せだったのかもな。

そんな風に時々思う。


でも現実には何処にも行かなかった。

俺は動けずにそこにいた。


気がつくと周囲は深い霧に包まれていた。


教室がすべて靄に包まれていく。

長く忘れていた光景だった。

すぐ横を向いても。


立ち込めた霧で何も見えない。


もうお帰り下さい。


降霊術をしていた女子の1人の声がした。


霧の中で火影のように揺れている。


角があるやつ。

角を隠したやつ。


子供の時に見たことがある。

それは幽霊なんてものじゃない。

人のなれの果ですらないものだ。


だから俺は。


「幽霊を見たことがあります」


なんて言わない。

これは人じゃないから。


「もうすぐだね」


なにがもうすぐだ。


顔を上げる。


彼女のチャー厶ポイントのおでこ。

霧に隠れて口もとしか見えない。


彼女はいつもきちんとしていて。

ルール違反なんてしない。

髪型だって校則を守って。


こっくりさんだって、お化けの話だって怖がってしないんだ。なのになんで。

俺は涙が出そうになる。


子供の時みたいに。

さんざんお前にやられて。

泣いてたことを思い出す。


なんでその子の肩に手をかける。

なんで楽しみにしてたことばかり。


俺から姥ぅていくのだろう。

ひと思いに殺したらよかったのに。


ずっと現れなかった。

だからもう消えたと思った。

いなくなってくれたと思ってた。


俺は霧の中でそいつが姿を現す前に。

顔を上げた。


子供の時は怯えるだけ怯えて。

見ることも出來なかった。

そいつの顔を見てやろう。


目の前のぽつんと空いた空席。

俺の班のもう一人。

不在のあ行の席。


それを見て俺はそう思ったんだ。





「また雨・・霧の都だね」

「うん」


傘を忘れてしまった俺たちは放課後。

二人で帰ろうと雨が止むのを待っていた。


彼女の名前はケイちゃん。 

みんなそう呼んでいた。


工藤奈緒子さんは俺の初恋じゃない。

彼女は俺の初恋の女の子に似ていた。


ケイちゃんは工藤さんには似ていなくて。

俺の初恋の女の子は物語の主人公。

あくまで架空の人物だ。


ケイちゃんと俺は古くからの幼馴染。

幼稚園も一緒だった。


でも俺は幼稚園はほとんど行けなかった。

たまに調子がよくて幼稚園に行けた。

その時に初めて彼女を見た。


彼女はおそらく俺か生まれた死ぬまでに出会う中で一番美しい女性だったと思う。


ほとんど雷に打たれて一目惚れだった。

だから、幼稚園、そして小学生の時から、


俺の好きだった物語のヒロイン。そして、ケイちゃんは俺の心の中で凄まじいデッドヒートを繰り広げていたのである。


俺は、なぜだか人生の中で、一目惚れの恋愛しか出来ないらしい。


それは多分彼女のせいだ。

一目見て好きになって。


それで心や情が通じたらいい。


心の優しい人やかわいい顔の女の人。

そういう素晴らしい人のまま変わらない。


「おもしろかった?」


「なにが?」


「ヒイロの・・本だよ!さっきの本」


「ああ〜うち読んでないから」


彼女は俺に笑って言った。


「本読むのキライ!頭痛くなるからイヤ」


そう言って彼女は笑った。

それはとてもレアなことで。

彼女はめったに人前で笑わない。

子供だけど明らかに美人の部類。

けど無口で愛想も愛嬌もない女の子。


それで概ね通学していた。


彼女が笑う。俺は見とれてしまうのだ。

雨の中で口紅が滲むように見えた。


ケイちゃんには左の唇の端に昔から赤い痣があった。なにか「しゃべりません」と自らいましめているような。目つきのよくないミッフィーにも見えた。


本が好きな俺は「本読むのキライ」といったケイちゃんが好きだった。


普段余計なことを言わないので。

女子の争いにも巻き込まれない。

でも彼女は本当はよくしゃべる。

明るい性格の女の子だと知った。


彼女とは本の話なんて出来ない。

いましめの口を解いて話すこと。

彼女は俺にいやらしい話しかしない。

テレビとか漫画で仕入れたやらしい話。


それを人がいない時にして。

俺が戸惑うのを見て喜んだ。

俺は楽しくて。


心が通じた気がした。


小学校も高学年になると彼女の口もとの痣も薄くなって。やはり気にしていたのか。


「おばあちゃんが毎日神社に通って、もらったお水をつけてたからかな」


そううれしそうに笑っていた。


「本とかすごい読むよね?」

「さっきは読んでなかったよ」

「学校の本とか全部読んだって」

「俺はそんなこと言ってないよ」


俺は彼女に首を振って打ち明けた。


「読んでないんだ…ケイちゃんと同じで読むふりだけ!誰にも言うなよ!」


彼女はびっくりしたように目をまるくして。その後で何度も頷いてみせた。


「え・・でも先生に本とか渡されてさ『感想書いて来なさいコンクールに出すから』・・とかみんなすごいって言ってたよ!」


「それこそ読まねえ!つまらん本は読まないんだ!でも感想は書けるよ・・こつがあってさ!」


「え・・不思議どんなの?」


「それは・・秘密だよ」


彼女が病気で何日か学校を休んだ。


俺は給食のパンとマーガリンが入った、

ビニール袋を提げて。


学校からのプリントや授業のノート鞄に入れて。放課後彼女の家を訪ねた。


なぜ俺が、数いる男子の中で、担任の先生からその役を仰せつかったか。


それは彼女の名字が秋山。

俺の名字が石川だからだ。

出席番号マジック。


彼女は俺の隣の席。

神様がしてくれた。

唯一のよいこと。


彼女は元気そうに見えた。


玄関までパジャマで出て来て。


プリントと宿題を指差して。


「それいらない」

「持って来るならもう来んな!」


そう言って笑った。

口もとに指先を当てて。


「もうないでしょ?」


そう言いたかったように見えた。


「もうすぐ夏休みだね」

「そのまま休んどけ」


俺たちはそう言ってその日は別れた。


夜から雨が降り続いた。

深い霧が出た。


給食のパンをぶら下げて。

俺は彼女の家に行った。


彼女のお母さんも妹も彼女も不在で。

玄関には施錠がされていた。


彼女はそれきり学校に来なかった。

詳しいことは知らない。


卒業式でも彼女の名前は呼ばれなかった。



高校生になって数学の時間。

彼女に似た記号を見つけた。


≒はニアリーイコール。意味はイコールでないけれどそれに近い。ほとんど等しい。

パット見はイコールの記号。


もしくは≠はノットイコール。

イコールではない。


どちらも彼女の口もとに似ている。

その時は知りもしない言葉や記号。

そんなあだ名つけようもないし。


つけたらきっと絶好だったはず。


ニア?それともノット・イコール。

つまりかけがないのない。

そういう意味だ。

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