秘密の魔法

めいき~

そりゃ怒られるよねって

ササラは、一つ溜息をつくと「絶対怒らないでよ」とワタちゃんとカイ君に言った。


「そりゃ、このヤバい状況をどうにかできる奥の手があるって事だよな?」


「出来れば…やりたくなかった。正真正銘、私の秘密の奥の手よ」



辺りを見渡して、剣にしがみついて膝が笑っているカイが「笑わねぇよ、俺はササラさん信じてっからさ」そこは、アンデット洞窟名物。ボスの増援ラッシュの真っただ中、他のパーティーがなすりつけていった分も含めると画面が処理落ちしていた。



杖で一度地面をカツンとつくと声を張り上げて、顔を真っ赤にしてヤケクソ気味に呪文を唱える。


地面から、魔力の桜吹雪が吹きあがる。舞い踊り、その様子を見たカイとワタの二人が余りの美しさにただ無言で口をぽかんと開けた。



「己が逝き場に向け、数多の知を飲み。敵を剥ぎて切裂き、永遠に止まる事のない悠久の歯車。その墓標に何も意味は無し、ただ導がごとく無明の月に照らされただ石が立つのみ。真実の姿なく、その道を歩く者也」


ササラの全魔力を込めただ言霊を紡ぐ、眼と口から血がとめどなく溢れ。


周囲一帯の桜吹雪の色が、虹の様に明滅する。



「すげぇ…、すげぇしか言葉が出ないよこれ」



自身の足を杖で突きさして、意識を留め。更に言葉を紡いでいく。



「素は無色、幻は創造。その姿は我らを守り導く騎士」



虹色の桜吹雪が、様々な属性の騎士としてそこに完成した。



ササラの残り魔力の99%を込めた、正真正銘奥の手がそこに成る。



どさりとその場で崩れ落ち、ササラにアンデットが群がるが紅い騎士の剣一振りで中級までのアンデットが吹き飛んでいった。



「なんて威力だよ」カイが一滴の冷や汗を地面に落としながら呟く。


杖にしがみつきながら、立ち上がったササラがカイに突っ込みをいれる。


「あれで終りな訳ないじゃない、こっからこっから」



五色の騎士は、それぞれ動物を左に肩と右胸に文様として刻んでいる。



コンドルの騎士が、実際にコンドルの巨大なエンブレムをつけた胴体に変わる。

アンデットを斬り飛ばした、騎士が空中でパーツになっては組み上がっていくのだ。

それは、完全にプラモデルの最終工程の様だった。



「ねぇ、ササラちゃん。あれもしかして合体するの?」


ワタが、その大きな胸を揺らしながら騎士を指さした。


「いぐざくとりぃぃぃぃ」


脚には、巨大な象の足を模った鉱石。腕は、ドラゴンを模った水。


体の周りを風の防御が包み込んで、よく見れば風の形はハムスターが沢山とりついている様な感じだった。



背中の右側が光の光輪、左が闇の翼。それもよく見れば右側は半身の乙女が眼を閉じて祈っていて。その肩にのせたカラスの羽だけ馬鹿でかく左側に伸びているのだ。



「完成、六属性合体:燐華槙葬(りんかてんそう)」



「「ニチアサの合体ロボじゃんこれ!」」


ワタとカイの声が重なる、ササラは疲労困憊なのにどや顔。



「でも、わざわざデカい一体にしたってこの数どうやって捌くのよ」


ワタちゃんがそんな事を言っても、ササラは不敵に笑うだけだ。



「スピリットライフル」


杖を騎士に向け、命じると背中の祈りの乙女から光弾がシャワーの様に飛んでいき低級のアンデットを無差別に吹き飛ばす。


その時中級アンデット軍団から、魔法が映画の様に降り注いだ。


「スクリームシールド」


それを、透明なハチの巣の様な形に変化した風のハムスターと水の龍がいとも簡単にブロックした。



「盾役の俺の存在意義がねぇーじゃんこれ!」



「プレデターフェーズ」


一瞬だけブレたかと思うと、魔力の風が吹いたような気がしてその風が吹き抜けた個所が丸ごと左右にずれ。アンデットが魔素になって消え、あっという間に経験値に変わっていく。


「ブラストコア」


胸のエンブレムから、巨大なプラズマを纏った白い炎が一直線に敵軍を薙ぎ払う。


「ねぇ、ササラちゃん。これあんまり笑えないんだけど」



スクリームシールドが全ての攻撃を防ぎながら、こっちからはほぼ一方的に攻撃を繰り出している状態を見てワタがササラに声をかけるがササラは涙目で二人の方を向いた。



「ゴメン、これ多分死に戻りになる」


「「は?!」」


さっきまで圧倒的な戦力を見せつけていたが、ササラは両手を合わせてごめんなさいしながら言った。


「ほら、あれ頭の上によく見ると◇が出てない?」




よく目を凝らしてワタが眼を細めてみると、ロボの頭上に◇が二つ浮いているのが見えた。


「あれ、何よ。意味がないって訳じゃないわよね」



「説明するね、私の燐華槙葬は様々な魔法で創造した兵器を使い。私の魔力の殆どを使って呼び出す神級魔法なんだけど、敵から攻撃をうけてダメージになったり。魔法の兵器を使う度に燃料である魔力を消費する。つまり、燃料が尽きるまではノーダメージで戦えて、あらゆる魔法兵器をまき散らすんだけど。燃料が無くなってくるとあぁやって頭上に目印がでる。そして、四つ目が点灯すると爆発四散します」



「ってもう三つ目がついてるじゃねぇか!!」


「一度これを使うと、アイテムは使えないし手足しびれちゃって口しか動かせないし魔力は召喚の時にありったけもってかれるから実質あれが負けた時点で私達オシャカです」


「まだ、三分の一位敵が残ってんぞ…」


「はい、どうにかできると思ってました。ごめんなさい」


そう言った、ササラの頭の上にカイがポンと右手をのせ。


「あの強さだと一瞬俺いらない子?とか思ったけど、俺の出番ありそうで良かったよ。師匠でもそんなミスする事があるんだなって少し安心した」


そういうと、にかっと笑う。


「しっかし、あれが師匠の奥の手ねぇ。かっこいいじゃん、あれ。また、見せてくれよ」


「了解」


「ね~、二人でいちゃいちゃしてるとこ悪いんだけどロボ消えたよ~」


ワタが指をさすと、ロボがうっすらと透けて後ろの壁が見えるくらいになっていた。


「「あっかーん」」


その後、クエスト失敗の表示と共にリスポーン地点で目覚め…。



カイは財布の中身の半分を、ササラは経験値の半分をデスペナルティで持ってかれ。

ワタは、髪の毛を半分を持って行かれた。

ロングヘアがショートボブになっていたのだ。



ペナルティを確認して、ワタはプルプル震えながらササラを正座させていた。

その後、ササラが干からびたミイラの様になりながらワタの買い物に付き合う事になったとさ。



おしまい

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