第5話
レスキュー隊になって十年が経ったある日、あのときと同じような大きな災害が起こった。
僕はすぐさま、おじさんと災害現場に出動した。
目の前には、あのときと同じような地獄絵図が広がっている。けれど、不思議と怖くはなかった。
だって、今の僕はあのときとは違う。きっと、たくさんのひとたちを助けることができる。
「だれか……」
瓦礫の中から、今にも消えてしまいそうなかすかな声が聞こえる。
「だれか、たす……けて……」
小さな声が、たしかに聞こえた。
胸が熱くなった。
――大丈夫、今助けるよ。すぐに助けるから、あと少し頑張って。
僕は大きく叫んだ。
――要救助者がここにいるぞ!
その場にいたレスキュー隊員たちが、総出でひとりの女の子を助けるために動く。
そうして、瓦礫の下から救い出されたのは、小さな小さな女の子だった。
どこか、まひるちゃんの面影と重なる女の子だった。
――あぁ、助かってよかった……。
ホッとしたときだった。
女の子を抱き上げたレスキュー隊員の真上に、大きな影が落ちた。
その瞬間、僕には、その場所だけがまるで時が止まったかのようにスローモーションに映った。
瓦礫が、落ちてくる。
――危ないっ!
僕は咄嗟に、隊員ごと女の子を突き飛ばした。
「うぁっ!」
隊員が衝撃でよろけて転ぶ。その直後、轟音が響いた。
「おいっ! どうした! 大丈夫か!?」
音に気付いた隊員たちが駆け寄ってくる。
「俺たちは大丈夫、ただ……」
「おい、レイ!」
「レイ! 大丈夫か!? 血が……!」
「すぐに運べ! 急げっ!」
泣き声が聞こえる。
僕は力を振り絞って目を開ける。
うっすらと歪んだ視界に入ったのは、女の子の泣き顔だった。まひるちゃんに似た女の子が、僕を見て泣いている。
――泣かないで。僕ならぜんぜん大丈夫だから、だから、泣かないで。
そう言いたくても、声が出ない。
――足が痛いよ。身体が熱いよ。僕、どうしたの……?
意識が朦朧とする。
「うわあぁぁん!」
女の子がひときわ大きな泣き声を上げた。
ハッとした。
――あぁ、この声だ。
僕はずっと、まひるちゃんのこの声が聞きたかった。悲しそうでもいいから、生きている証のこの声を。
だけど、まひるちゃんはなにも言わなかった。動かなかった。
十年前の僕は無力で、大切な家族を助けられなかった。
だけど今日は、ちゃんとできたんだ。助けられたんだ。
これまでずっと、訓練を頑張ってきてよかった。僕が生かされたのは、きっとこの子を助けるためだったんだ。
足の感覚がなくなっていく。
もしかしたら、僕はもうダメかもしれない。
でも、後悔はない。悲しくはない。むしろ誇らしいくらいだ。
空に昇ったらきっと、まひるちゃんや、パパとママに会える。
家族に会えるなら、死ぬのなんて怖くない。
僕は静かに目を閉じた。
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