どうしようもない彼女のしょうもない秘密
おもち丸
第1話
「絶対に誰にも言わないでね。秘密だから」
月曜日の午後7時。部活が終わりバス停に並んでいるとき、柴野瑠衣は突然そう言った。
「どしたの急に」
考えるより先に言葉に出た。彼女は同じ吹奏楽部で1年間過ごしてきた間柄ではあるが、少なくとも秘密を打ち明けられるほどの仲ではない。
「どうしても誰かに相談したい事があってさ。でもあんまり仲が良い人だとその後の関係が崩れそうで怖いし、ネットで全然知らない人に話すのも嫌。」
「はぁ」
「だから偶然そこにいた梶谷くんに話そうと思ったんだよね。ほら、知り合い以上友達未満的な感じで」
なんと身勝手な理由だろうか。だがあまり嫌ではない。人間突拍子もない出来事に遭遇すると却ってワクワクするものなのかもしれない。
「ちょっと気になってきたな。どんな秘密?」
「漫画の転載をしてたんだけど」
「え?」
「最近お金が入ってこなくて......あ!ごめん、バス来たみたい。じゃあまた明日〜」
「あ、え、そういうタイプの秘密!?」
彼女は手を振りながらバスへと乗っていった。
バス停に残されたのは、呆然と立ち尽くす1人の男と、一部始終を聞いていたかどうかも怪しい老人だけである。
その後も柴野と少しだけ話しながら帰る日々は続いたが、数ヶ月後に柴野に彼氏ができ、この微妙な関係は幕を閉じた。同級生のカスみたいな一面を知ってしまったことに多少の後悔はあるが、彼女も無断転載はもう辞めたようなので、これ以上考えるのはよそうと思う。柴野という人間は、ちょっとモラルが無いだけで、カスでは無いのだ。たぶん。
数年後、ネットニュースを無心で読んでいた俺の目にある記事が写った。
『違法漫画サイトを運営していた女を逮捕』
おい。待てよ。まさかあいつが......
恐る恐るページを開いた。そこには見覚えのある名前が載っている。
“柴野瑠衣容疑者(21)“
「カスじゃねえか!!!!!!!!!」
どうしようもない彼女のしょうもない秘密 おもち丸 @snowda1fuku
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