粛清に走る巨漢
M-HeroLuck
粛清に走る巨漢
「汝らの罪、我が背負おう」
野太い声とともに、一刀の下、1人の男の命が断たれた。
今しがた、居酒屋で好き勝手に暴れていた団体の1人を巨漢が切り伏せた。両手で握った打刀で他の客に威張り散らしていた酔っ払いの体を両断した。ちょっかいをかけていた相手が女であり、見るからに力を持ち合わせていないことをいいことに怒鳴り散らしていた中年を裂いた。背後から襲い、気づく暇を与えぬまま、右肩から斜めに振り下ろした。バッサリと袈裟斬りを浴びせ、抵抗する間もなく、男を葬った。
「故に汝らは退け」
そして殺した男と一緒になって女を虐めていた別の男の首を刎ねた。
突然の出来事で頭が追い付かず、動けずにいた中年の頭と胴体を分かれさせた。
「姓名も存在も矜持も、ありとあらゆる痕跡を我が受け継ぐ故」
さらに直立していた肉塊を左掌底で壁まで吹き飛ばした。
右片手で水平に振るわれた斬撃の勢いを利用して、誰もいない場所へと追いやった。打刀を持っていた右を引き、何も持たない左を突き出し、そのときに生まれた回転で相手に衝撃を届けた。
「汝らはこの世から抹消されよ」
最後に席に着いて遠くから囃し立てていた、団体残る男1人がいる場所に跳んだ。
進路上、邪魔になっていた存在を片付けた後、床を蹴り、机の上に降り立った。
置かれていた酒や肴を散らかし、着地と同時に中年の喉を打刀で突いた。長き間隔を空けず、すぐさま引き抜いた。
刺された男はぐったりと床へと倒れた。
騒いでいた団体の命を巨漢が摘み取ると、息を吐いた。机から降り、血を拭うことなく、腰に差していた鞘に打刀を納めた。刀身に何も付着していなかったから、そのまま仕舞い、ちょうどいい位置へと刀をずらしつつ、カウンターに座った。
「芋焼酎グラスで1杯」
そして何事もなかったかのように注文した。
今までの出来事が嘘だったかのように振る舞った。平然と酒を仰ごうとしていた。
そのことに対し、店員は動じることなく、注文を受けた品を巨漢の前に出した。怯えることなく、酒を提供した。
周りの客も大人しかった。悲鳴や叫び声が上がらなかった。大立ち回りが起きたにも関わらず、そのことで震える人はいなかった。慌てふためき、その場から離れようとする人もいなかった。身の危険を感じておらず、それぞれで楽しんでいた。
殺戮行為が頭から抜けているかのようだった。
男3人に虐められていた女も笑っていた。一緒にいた友達とともに楽しんでいた。始めから何もなかったかのように過ごしていた。
しかしそれもそのはずだ。
巨漢が傷つけた男たちの死体がなかったからだ。血の一滴も流れていなかったからだ。
物が散乱し、それを片す店員の姿は見かけても、店で暴れていた3人は見かけなかった。跡形もなく、消えており、その場にいた誰の記憶に残っていなかったから当然である。
「ここでは3体…合わせて17体…か」
事を起こした巨漢を除いては。今日、始末した数とともに1人抱え込んでいた。無辜の人たちを蝕む悪しき存在、人間を模した化け物を滅した、この者しか覚えていなかった。詠唱することで人間を害する存在を我が身に取り込み、その力を糧にして戦う、地球上唯一の一族に属する大男しか分かっていなかった。
粛清に走る巨漢 M-HeroLuck @APOCRYPHA-MH
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