アバターはコントローラーの夢を見るか
一式鍵
僕は夢を見ない
僕は毎日のように戦っていた。都市で、平原で、森で、砂漠で、氷原で、あるいは海上プラントで。とにかく僕は何故か戦っていた。ただ敵を
戦いが終わると、僕は眠る。夢は見ない。
そして目が覚めると、僕は別の戦場にいる。カレンダーなんて知らない。季節もめちゃくちゃだ。ただ時間だけは分かっている。
敵は僕と同じ
今日の戦いの舞台は廃墟となった都市だ。執拗な爆撃でも受けたのだろう。建物という建物が原型を留めていない。無差別攻撃――卑劣なヤツの仕業だ。いや、都市部で戦うような僕が言えることじゃないかもしれない。
「今日の敵は……」
僕がいるところには必ず敵がいる。そう設定されている。
敵は二機。ミサイルを撃ってきたやつとビームをぶっ放してきたやつだ。脅威となるのはビームの方だ。だから先に叩く。
瓦礫の山を迂回し、熱探知機を頼りにビームの発射元を探り当てる。再び
僕はミサイルを
「飽和攻撃でもないとね」
僕のチューンした
僕は両手の操縦桿と足のペダルを駆使して急制動をかける。ドリフトしながら主砲塔を回転させ、榴散弾を撃ち放つ。目標はミサイルを撃ってきたやつだ。ミサイルの進行方向から位置を割り出した。間違いなく一定の損害を出せる。
そしてそのまま車体を走らせる。八本の足が滑らかかつ高速な移動を可能にする。この速度の物体に物理攻撃を直撃させるのは容易ではないはずだ。
「!」
高熱源を検知した瞬間、僕は機体を伏せさせた。それまでコックピットがあった位置をビームが貫いていく。
「見つけた!」
伏せ状態を解除して、僕は機体を全速力で走らせる。
「距離800! 主砲、
僕の声に従って、
僕たちの
交錯するやいなや、僕は急制動をかけて、主砲塔をぐるりと回す。敵も同じ考えだったようだ。そこにさらに
『よう、DR01』
誰かが話し掛けてくる。DR01ってなんのことだ?
『あんただよ、
「僕? 僕はそんな名前じゃない」
『じゃぁ、なんて名前だよ』
「それは」
……? どういうことだ。名前が思い出せない。
「ともかくお前たちを倒すのが僕の任務だ」
『任務っていうけどよ、誰からの、何のための任務なんだ?』
「それは……」
何の疑いもなく、僕は任務を遂行していた。まるで本能のように。
そこに軽量四脚の
『DR01、あんたは手足なんだよ、あいつらの』
女の声が聞こえてくる。
「あいつら?」
『この世界を隅から隅まで暴き出そうっていう連中さ』
「全然意味がわからないんだけど」
僕は混乱する。聞いてはならない話を聞いてしまった――本能がそう理解している。
「それになんでお前たちがそんなことを知っている」
『簡単な話だぜ』
男のほうが言った。
『このまま行くと、俺たちがラスボスになるからさ』
「ら、らすぼす?」
『あんたはいくつものステージで戦わされてきた。あんた自身はその不自然さに気付かなかったようだがね。そりゃそうだ、世界にとって最も大きな秘密だからな、こんなこと』
『無数のDR01を葬り去ってきた私たちは気付いたのさ』
僕は言葉を発せない。
『DR01は一人だが、一人じゃない』
「僕は僕だ」
『いいや、違うね』
男の方が言い切った。
『あんたはな、プレイヤーたちの共通のアバターだ』
「あ、アバター……!?」
『ここはな、いわばゲームの世界よ。ただし、開発者不明のな』
「僕がゲームのキャラクターだとでも言うのか」
『違うという証明は難しいぞ』
「ばかばかしい」
僕の中で何かが暗転した。
――と思ったら、僕はこの二人の機体を完膚なきまでに破壊していた。それは僕の意志に寄るものだったんだろうか。いまひとつ実感が伴っていない。
僕はミッションを失敗したことがない。失敗とはすなわち死だからだ。僕は死んだことがない。僕は夢を見ない。
目が覚めたら僕はまた戦場にいるだろう。
何度も同じ戦場を駆け回りながら。しかし今回の僕もそのことを認識できていない。ただ命じられるままに戦う。時として死ぬ。だがその記憶は次の僕にはない。僕は夢を見ない。
多くの人が僕というアバターを操作する。僕には自由意志に基づく行為は許されない。あらゆる行動は僕の意志によるものだと、僕自身が誤認識しているだけだ。僕らがこの世界の秘密を知ったところで、何も起きやしない。
僕は夢を見ない。
アバターはコントローラーの夢を見るか 一式鍵 @ken1shiki
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