第3話その後日

「夢でも見たんじゃないんですか?」


おおよそ信じ難いKさんの話を聞いて、僕達は率直にそんな感想を漏らしました。


「夢だと思うか?」


そう真面目な表情で聞き返すKさんに、僕達は当然でしょうとばかりに頷きます。


ところが……


その後にKさんが語った言葉に、僕達の背筋は凍りついたのです。











「車のメーターがな……


その日の朝、ガソリン入れた時に“0”に戻した筈なのに、次の日の朝見たら300キロ走った事になってたんだよ……ガソリンも、残り1目盛りしか残ってなかった!」


「!!!!!!」


……つまり、Kさんの黒いワゴンは会社から熱海へ行って家へと帰る間に、確かに300キロ近い距離を走行したという事です……


「うわあぁぁぁ~~っ!オバケだあぁぁぁ~っ!」



新車センターの工場中に、僕達のけたたましい叫び声が響き渡っていました。


それからKさんは、二度と熱函道路を通る事はありませんでした。


熱海へと用事がある時には、熱函道路よりもはるかに遠回りになる、伊東経由の道路を使って行くそうです。


「でも、それじゃあすごく遠回りですよね~」


と僕が言うと



「いや!それでも、300キロなんてねぇからな!」


と、真面目な顔して答えるのです。


そしてそれから何ヶ月かが経ち、その幽霊話の記憶も薄れてきたある日の事でした。


ふとしたきっかけで、またあの時の恐怖が蘇る出来事があったのです。


それは、Kさんが例のあの黒いワゴンを売りに出して新しい車へと乗り換える事になった時の事でした。


Kさんと仲の良い営業マンにワゴンの査定を頼むと、その営業マンは親切心からそのワゴンの洗車と室内清掃まで引き受けてくれたのでした。


そして、その事件は起こったのです……


Kさんと僕達が新車センターの工場でたわいない談笑をしていると、ワゴンの清掃をしていた営業マンが何だか困ったような表情で僕達の方へと歩いて来たのです。


「Kさん……あの車、ちょっと問題があるんだけど……」


問題とは何事かと、その営業マンに尋ねてみると


「いや、車ん中掃除してたらさ……なんか後部座席のフロアカーペットに変なシミがあって、いくら洗っても落ちないんだよね……」


「カーペットにシミだって?……そりゃ俺も気が付かなかったな、どれどれ……」


営業マンにそう指摘され、Kさんの黒いワゴンのフロアカーペットを見た僕達は絶句しました!







Kさんの黒いワゴンの後部座席のフロアカーペットには、まさしく人の両足の形そのままにベッタリと赤黒いシミがついていたのでした。


よほど無神経な人間でなければ、他人の車の床にこんなにベッタリと足跡を残すような真似はしません。


まるで血のようなこの足跡の持ち主が誰であるか、Kさんにも僕にもおおよその見当はついていました。


「Kさん……これ……」


僕の言いたい事がわかったのでしょう。


Kさんは腕組みをしたまま、神妙な面持ちでこう呟いたのです……

















「うーーーむ………


幽霊にも“足”があったんだな……」



幽霊よりも、そのKさんの思考回路が一番怖いと思った僕でした……




END











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怖面白い話 夏目 漱一郎 @minoru_3930

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