勇者達の秘密
ゆる弥
魔王は……
この日の街は人でごった返していた。その理由は……。
「ライト様のおかげで平和が訪れたぞー!」
「きゃー! ライト様カッコイイー!」
「ライト様ー! こっちむいてー!」
「マリアさん色っぽーい!」
「ベガ様いかつーい!」
「ルールーちゃんかわいー!」
「勇者パーティーにあんな子いたか?」
「新しい仲間かしら?」
賞賛を浴びているのは僕達五人だ。
魔王討伐を果たした凱旋でパレードを行っている最中。
「ライト、手ぇ振ってやれよ」
「振ってるよ」
僕はドライに答えた。もちろん、顔は笑顔のままだ。
「そういうベガも手ぇ振ったら? あと、顔が引き攣ってるよ?」
「ちっ! だってよぉ」
ベガは不満気だ。
まぁ、理由はわかっているから何も言うまい。
「マリアちゃん、そんなに身体見られて嫌じゃない?」
「ルールーはお子ちゃまですわねぇ。私の魅力が溢れているって言うことじゃありませんこと?」
「むー! そんな事ないもん!」
後ろで喧嘩を始める女二人。その後ろに静かについてくる民衆の知らない女。
「王に謁見するんだっけ?」
「あぁ? 俺は、断るぜ?」
「僕も乗り気じゃないし。断ろうかな。なにより……」
チラリと後ろを歩いている女に目を向ける。すると、その女は首を傾げてキョトンとしている。彼女は天然というか。なんというか。
「彼女がいるからねぇ」
「あれはしょうがねぇよ。諦めろ」
「はぁ。胃が痛いよ。みんなを裏切っているみたいで……」
「気にするな。考えてもみろ。あれを殺したら俺たちの方が悪者じゃねぇか?」
そう言われて胃の痛みを感じながらため息をつく。ベガの言う通りなのだ。あの子を殺したとしたら僕達は罪悪感で命を経ちたくなるだろう。
「僕の家に帰ろう」
「だな。おーい! ライトんち行くぞー」
「「「はーい」」」
方向をメインストリートから住宅街に帰る。民衆もそろそろ収まってきたし。そろそろ凱旋も終わりでいいだろう。
「勇者様! 王様がお会いしたいそうです!」
家臣のような奴が駆け寄ってきた。
「僕達は会いたくない。疲れているんだ。お断りするよ」
「はっ!? えっ!? そんな……」
「じゃあね」
手を振ると家へと歩みを進める。
断ったし、さっさと行こう。
無言で家へと向かう。
手入れの行き届いていない家が見える。
着いた。ようやく我が家に。
小さい平屋が懐かしい。
「ここだよ」
玄関を開けて、少し埃臭い家へとはいる。僕は台所へ行き湯を沸かす。
「適当に座って。何飲む? と言っても五年ものの茶葉しかないけど……」
「テキトーで良いぜ?」
ベガがリビングの椅子に座りながら返事をしてくれる。その他のみんなも椅子にそれぞれ座る。
家の椅子四つしかないから僕の座る椅子ないんだけど……。
茶を入れて持っていく。
「はい。どうぞ」
皆頭を下げながらコップを受け取る。僕は肘をカウンターに預けだらける。
「これからどうする?」
「まぁ、別に普通に生活すればいいんじゃね?」
順番に顔を見るが、真顔で頷いて茶をすする。
「ふぅ。まぁのんびり暮らそうぞ」
今まで口を開かなかった一番後ろを歩いていた小さな女の子。その子が口を開いた。
「きみのせいでこうなったんだろうが!」
「そもそも、なんでお前魔王なのにそんな容姿なの?」
「ワタクシ達にはお子ちゃまを殺す趣味はないのですわ」
「そうそう。なんで私よりお子ちゃま?」
四人が口々にその小さな女の子を責め立てる。
「仕方ないじゃろう? ついこの前、旧魔王サタンは寿命で死に、我が新魔王サタンになったのだからのぉ」
「しかものじゃロリときたもんね」
僕は頭に手を当てながら項垂れた。
「まぁ、考えても仕方なかろ? 感謝しておるぞ。殺さないで置いてくれて」
「部下は殺しちゃったけど?」
「まぁ、奴らは父上の部下じゃ。我の部下では無い。だからいいのじゃ」
「はぁ。名前もサタンはまずいよ?」
皆で首を捻る。
「コサタンはどうだぁ?」
「却下。どういう思考回路してんの?」
ベガはふざけてる。
「プリンセスマオウとかはどうかしら?」
「マリア、ふざけないでくれる?」
マリアも大概だった。
「サタン18号とか?」
「ルールー……」
もう突っ込むのも疲れる。
「もうタを抜いてサンでいいかな?」
「「「賛成」」」
とりあえず名前は決まった。
「うむ。悪くないのう。とりあえず、ライトの家にいて良いかの?」
「……」
チラリと皆に視線を投げると目をそらされた。
「……もう。どうにでもしてくれ」
「うむ。よろしく頼むぞぉ」
これは俺達だけの墓場まで持っていかなければいけない、秘密。
勇者達の秘密 ゆる弥 @yuruya
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