第三話



 元国王の青年が町での暮らしに馴染み始めた頃。国王不在の城では、あることが進められていた。

 城の地下の一室に、主を失った臣下たちが集まっていた。いつもの整った装いはしておらず、地味な服に、揃いの白い上着を着て、テーブルを囲んでいた。その中には、退位した先王の姿もあった。

 だが、彼らの姿に違和感がある。

 城で働く奇跡の人間である筈の彼らの身体から、のだ。


「あれをここに」


 先王が指示すると、使用人が布を被せた何かをトレーに乗せて持って来て、テーブルに置いた。


「さて。出来映えはいかがですかな」


 青年のかつての側近の男が手を伸ばし、布を取った。

 現れたのは、牛肉の干物のようになった五本指の手が付いたの腕のようなものと、ビーカーに入った赤い液体だった。


「まずは、こちらを頂いてみようか」


 指示された使用人は、ビーカーの液体を小さなグラスに分け、先王たちに配った。

 彼らは自分の前に置かれたグラスを手に取り、少し匂いを嗅いでから、ためらうことなくそれを飲んだ。


「……まあ。我々のものと変わらぬ味ですな」

「成分を分析しても、特に変わったところはないようです」

「では、肉の方を試してみるか」


 言われた使用人は今度は刃物を持ち、腕のようなものを捌き始めた。まず前腕から手らしき部分を切り落とし、皮を剥ぎ、肉を骨から切り離して、必要な分だけを小さく切り分けた。

 サイコロほどのサイズの肉片になったそれを小皿に分けると、彼らの前に置いた。


「調理はしないのか」

「干し肉だと思って、まずはこのまま食べてみましょう」

「生臭くはないか。細菌も心配だ」

「まぁ大丈夫だろう。言っても肉なのだし、食べるのはほんの少しだ。我慢しよう」


 多少の小言が出たが、先王がそう言うのならばと皆は我慢し、肉片を口に入れて咀嚼そしゃくした。


「……少し固い」

「それに干し肉とは違って、何と言うか……」

「旨味がない」

「味付けをしなければ非常に食べづらい」


 それぞれの口から不評ばかりが漏れた。


「これは、食すのにはあまり向きませんな」

「それに、食べられるようにしたとしても、これでは到底足りません」

「どう致しましょう、先生」


「先生」と呼ばれた先王は、一つ唸って顎髭あごひげを触った。


「別の方法を考えた方がいいようだな。私たちには知識が足りない。異邦の知識人の力を借りねば、何も変わらぬままだ。百年ぶりに奇跡の人間が現れたこの機を、無駄にする訳にはいかん」




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