異世界派遣魔法少女は秘密だらけ!

白千ロク

異世界派遣魔法少女は28歳♂です

 今日も今日とて現れた『悪の連中』を過剰な攻撃魔法で華麗に追い払うと、すぐさまその場から姿を消した。そうでもしないとボロがでるかもしれないから。「どこ行くぽんー!」とマスコットが騒ぐが、気にしてはいけない。利き手である右手に握る魔法少女専用武器であるプリティ杖ロッドも、心なしかそわそわしているように感じてしまう。まだ変身は解かないから大丈夫だ。本当にプリティ杖は魔法少女が大好きだよな。まあ、魔法少女専用の武器だから、魔法少女を偏愛していたとしてもなにもおかしくはないが。


 ビュンビュンと屋根伝いに移動するは魔法少女――いわゆる俺である。ヒラヒラドレス的な衣装は魔法少女そのものだし、髪も茶色の地毛から白銀へと変わっている。瞳の色も茶色から赤紫と金色のオッドアイだ。右が紫が強い赤紫で左が金色な。


 夕焼けに染まる街の景色はレンガ造りの家屋が多く、どこか外国の様相をしている。海外に行けば似たような景色が見られるかも解らないが、ひとつだけ違うのは『魔法』の存在だろう。それものそはずで、ここは異世界である。現代日本ではない。


 ではなぜ俺がそのような場所にいるのかといえば、『異世界派遣魔法少女』だからだ。


 意味が解らないと思われるかもしれないが、俺も意味が解らなかったのだから安心してほしい。本来なら三歳下の妹が魔法少女に選ばれたはずなんだが、『バレたら恥ずかしすぎるから絶対に嫌です!』と断固拒否をした。気持ちは痛すぎほどに解るから、お兄ちゃんは成り行きを見守っていたんだよ。――は字面が危ないからね。だけどな、二十八歳魔法少女♂よりかはマシだろう。何百倍もな!


 リビングのソファーに腰を下ろしていた俺たちとは違い、マスコット――精霊は妹の拒絶に大いに泣いた。泣きじゃくった。ショックから我に返ったあとに。『世界を渡ってまで探したんだぽん!』『ようやく素質のある人を見つけたんだぽん!』『世界がめちゃくちゃになるぽんー!』と。落ち込み蹲りながらだからか、余計にかわいそうだ。


 見た目がオコジョだかイタチだかだからなのか、こちらが虐めている気分になってきてしまうのだから小動物は凄い。しかたなしに腕の中で精霊の背中を撫でていたのは妹だったが、ぐしぐし涙を拭っていたはずの精霊が『んぁ!? 隣から強い力を感じるぽん!』と俺の肩に飛び乗ってきたのは予想外だったよ。


『な、なんと! 兄者殿の方が素質が高いぽん!?』


 すんすん匂いを嗅いだあとにどうなっとるんじゃ!? という驚くような顔をした全身真っ白なオコジョだかイタチだかだったわけだが、俺の方は冷や汗しか出ない。


 いやだってこれは、役割を押しつけられるに決まっているだろ?


 異世界に生きる者たちを天秤にかけることもなく、その日、異世界派遣魔法少女は爆誕した。してしまった。優しさは涙の味がしました。


 変身した姿を見た妹には、『コンプレックスも治りそうじゃない?』とか言われたし、オコジョだかイタチだか姿の精霊には『かっ、可愛すぎだぽーん!』と狂喜乱舞された。そこまで喜ぶかというほどに喜んでいたよ。


 母親譲りの顔が役に立ちましたねえ! くそっ!


 黄昏時――逢魔が時に現れるのは魔王の眷属たち。といっても、昇進したい勢であって、魔王に親しい者たちは戦いを望まずに共存共栄を望んでいるらしい。おいしいものを食べるのが一番なんだと。マスコットの精霊曰く。だから倒してもなんの問題もない。


 誰でもいいから早く勇者になってくれ! 魔王と手を取り、平穏に暮らしてくれよ!


 妹以外に誰にも言えない秘密は重いんだぞ! 小さい子たちの純粋な瞳は嬉しい反面罪悪感が半端ないし、他の人たちに対しても異世界派遣魔法少女28歳♂がバレないように毎日祈っているんだよ、俺は!


 追いついたオコジョ、いや、マスコット精霊・シローマの頭を鷲掴みながら、痛む胃を押さえる日々が早く終わりますようにとまた祈る。これも半年前からずっとですよ。


 たぬきでもないのにぽんぽん言いやがるマスコットは、じたばたしながら「まだまだ頑張るぽん!」と口にしたが、本当に終わってほしい……。そんなに昇進がしたいなら国を襲うよりも、なにか他にいいことをして功績を上げた方が昇進ができる確率が高いと思うんだけども。襲うから追い払われるんだし、失敗が積み重なるだけなんだけどな……。まあ、ただのフリーターの考えだから、違うところがあるかもしれないが。


 それに、魔法少女は少女が頑張るから魅力があるんであってだね、フリーターのおっさん魔法少女にはなんの魅力もないんだよ。よくてプラスマイナスゼロか、悪くてマイナス要素しかないであろう。そこを解かれ、助けを求めた神様だか女神様偉い人は。剣と魔法のファンタジー世界ではあっても、悪に対しては『魔法少女』の攻撃しか効きにくいとは、なんてはた迷惑な世界なんだよ。


 あー、スカートはやっぱり慣れんな。いくら魔法によっていい感じの温度調節をしていても、気持ちスースーするんだよね。用は済んだんだし、さっさと家に帰るか。




(おわり)

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