パパ上様日記 〜夢なら、いいね〜
ともはっと
夢であるように、そう、願う
「いってきまーす」
「会社頑張ってねー」
そう声を出して私は玄関を開けて外へと出た。
私が向かう先は、会社へ向かう最寄り駅――を通り過ぎて、その先にある、家族がもう訪れることのない、大きめな公園だ。
それなりのすべり台と、鉄棒やジャングルジムのある、比較的遊具がある公園。そんな遊具があっても、子供が草野球できる程度に広い公園には、朝早いからか、まだ人はいない。人が屯することを想定してか、少ないベンチもあり、私はそこに座って一息つく。
別に疲れているわけではない。なんせ、家から歩いてすぐでもある。さすがにそこまで体力がないわけでもない。
昔は、この場に小さな子供を連れて広い園内でボールを蹴り合ったり取り合ったりと、遊具そっちのけで遊んだもんだと思いながら、しばらくその場で、じっと、何かを見るわけでもなく、虚空を見つめる。
いつも乗っているはずの電車は、隣の駅から都内へと向かう。その電車ががたんがたんと音を立てて、いつも通りに人を乗せて、停車してまた発進していく。快速が止まらない最寄り駅だから、快速電車も勢いよく過ぎ去っていく。
耳に聞こえるミュージックとかした電車音は、乗っていないとこんなにもうるさかったのかと、家で聞く電車音ともまた違っている。
「はー……。どうすっかなぁ……」
会社に行く。
そう言って出てきたものの、私が向かう会社はない。
なぜなら私こと、パパ上は――
「会社、なくなったって、いつ言おう」
現在進行形で、家族に秘密にしているそれは。
会社が潰れて、今、無職だということだ。
「っていう夢を見たんだけど」
「……」
長い沈黙の後、堪らず口から出た一言。
妻のティモシーは、その一言を聞いても、なお無言である。
カチッと音がして、無言の間にポットのお湯が沸いた。
「いや、ほんと、本気で、笑えないからやめて。ほんとにその辺りに公園あるし、子供ら連れて遊びに行ってたところだし」
「そうだよな。ほんと怖いわ。秘密にしてるととかも、ほんとリアルでさ」
「それをリアルと思わないでよ」
はーっとため息をついたティモシーは、安心したのか温かなお茶を所望する。
私は、すくっと立ち上がって、ポットに沸いたお湯をコップに注いでティモシーの目の前に置いた。
「……笑えよ」
「なんでよ」
「だって。夢じゃないかも、しれないだろ?」
本当に、本当かも、しれないだろ?
秘密を、今、共有したのかもしれないだろ?
夢ということにして。
はっ。世の中の旦那さんは、こうやって本当のことを秘密として隠して、今なにごともなく生きてるかもしれないだろ。
人には言えない、言えるわけのない秘密、あるんだから。
さあ、俺は、どうやって、お金を稼いできていたのだろうね。
いったいいつから。
なんてことも、考えたほうがいいのかもしれないね。
カクヨムで稼いだお金?
そんなの、一万円にも満たないさ。どの作品も一日一度も読まれずに終わる日だってあるんだから。
くれるなら欲しいさ。切実にね。
だったら、どうしていると思う? 毎月どこかから振り込まれていて君が家計のために下ろしていた、それ。
あれ、そういえば、ちょーっとだけ、お腹がぺこりと、凹んだかもしれないね。
脂肪がなくなっただけだよ。
うん。きっとそう。
夢なら、いいね。
ね、これを読むことはない、私の妻。
読んだら、君はどう思うだろうか。
パパ上様日記 〜夢なら、いいね〜 ともはっと @tomohut
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