【 男の子ってこういうのが好きなんでしょ? 】……ってバレンタインにコスプレしてチョコを誰かに渡したい年下幼馴染に付き合って練習相手になってます。

ぷり

男の子ってこういうのが好きなんでしょ? って隣の年下幼馴染が4年おきぐらいに言ってくるんだけど。

「男の子ってこういうのが好きなんでしょ」


「……はい?」


 学校からの帰り道に遭遇した隣家の茜(あかね)ちゃん(6歳)が、オレを見るなりそう言ってきた。


 上記のように言い放ったアカネちゃんは、大きなお友達が好きそうな魔法少女の格好をしていた。

 ちなみに今12歳中学生のオレも卒園した幼稚園の年長さんだ。


「好きでしょ?」

「えっと」


 オレは自分の黒縁メガネをかけなおして、改めてアカネちゃんを見る。

 たしかに、幼稚園の女の子がフリフリでパステルピンクの服を着て、魔法少女のような杖(ろっど)を持っている……可愛いとは思うが、その服装を”男子”が好きかどうかと言われると。


 ――??


 オレは首をかしげた。

 誰か好きな男の子にでも見せたいのだろうか。

 それでオレに意見を聞いてる?


 幼稚園児のアカネちゃんは今のところ、容姿はカースト上位にいると思うから、こんな格好しなくても好きな男の子の心の懐には入りやすいんじゃないかとは思うが。

 だが、人の好みは千差万別(せんさばんべつ)。

 うっかりオレが、良い、と言っても、ターゲットがそれを好むかどうかはまったくわからない。


「それ流行ってるの? 可愛いね。ただ、好きかどうかは、その男の子によるんじゃないかな? その男の子に思い切って聞いてみたら?」


 オレはしゃがんで、アカネちゃんの頭をヨシヨシしながら言った。


「!!」


 アカネちゃんが、涙目になってプルプルしている。

 うわ。


「えっと、ゴメン、直接その子には聞きづらいよね」


「り……涼にぃにと……お、おなじこと言ってた……」


「そ、そうか。その子はわからなかったんだね。その子に聞きたいのにね」

 そうか、その男の子には意図が伝わらなかったのか。

 せっかくおめかししたと言うに、可哀想に。


 だが、それをいった瞬間、アカネちゃんの顔が、更に真っ赤になった。そして。


「……か」

「ん?」


「涼にぃにのばかあああああ!! うわーーーーーん!!」

「えっ……えええ!!」


 ――アカネちゃんは、ばしぃー! と、プレゼントの包みのようなものを地面に叩きつけると、自宅へ走っていった。


 うわあ、オレ……あとで泣かせたとかって、母さんに叱られるかも?

 参ったな。

 なんで泣いちゃったんだろう。

 悪い対応したつもりはなかったんだが。


 オレは地面に叩きつけられたプレゼントを見る。


 カードが付いていた。オレ宛だ。

「あ、そういえば、明日ヴァレンタインか。なるほど、オレで練習したかったんだな」


 しかし、練習は上手くいかなかったようだ、申し訳ない。



※※※※※


 4年後。オレは高校生一年生になっていた。

 今日はバレンタインだった。

 オレは手提げ袋を下げていた。

 なぜか、今年は何故かいっぱいチョコをもらえてしまった。


「男の子ってこういうのが好きなんでしょ」

「ん?」


 背後から声が聞こえたので振り返った。

「あれ、あかねちゃん? どうしたのその格好」


 アカネちゃんは今、小学校4年生だ。

 幼稚園から大分成長したけど、容姿は変わらずカースト上位、つまり可愛い。

 そのアカネちゃんが、スカート短めのメイド服を着ている。頭には猫耳。


 「可愛らしい衣装だね」

 でもあんまり、一緒にいると、これは事案として通報されかねない。

 オレもまだ未成年とは言え、もう高校生だしな。



「お、男の子ってこういうの好きなんで、しょ……しょ……」


 手でハートマークをつくる茜ちゃん。

 ん? そういえば前にもこんな事あったような。


「男の子によるんじゃないかな?」

「……!! ま、またそのパティーン……ッ」


「?」

「こ、これ!! 持っていってもいいんだよ!!」


 ハートの形のチョコを、可愛らしいポーズを取って手にもっている。


「あ、今日、バレンタインだもんね。あかねちゃんもくれるの? ありがとう」

 オレは素直に受け取ることにして、手を伸ばして受け取った。


「へ? ……あかねちゃん、、、も?」

「うん。……そうだ、交換しよう。あかねちゃんこの袋の中から好きなチョコ持っていっていいよ」


「な、なんすかそれ」

「ん、バレンタインだから、クラスの女子がくれたんだよ」

「こ、こんな、いっぱい………ふぁっ……」


 あかねちゃんが固まったまま、オレの顔を見て涙目になった。

 ど、どうした。


「……なんで」

「ん?」


「なんでコンタクトにかえちゃったのよおおおおおおおお!! おにいちゃんなんて野暮ったいおじさんメガネをずっとしてればよかったんだよおおおおおおお!!!」

「はうあ!?」


 ばしーん! またプレゼント包みを地面に投げつけて、アカネちゃんは自宅へ走って行った。


 小学四年生の女の子に心をえぐられる発言をされた!!

 野暮ったいおじさんめがね!?

 安いからと、親によってその眼鏡を使わされていたオレの心は、深いダメージを負った。

 まさか小学生の女の子にそんな事思われていたなんて!!


 あかねちゃんは自宅へ走っていった。

 おじさんメガネの言葉に傷ついたオレはその場で石化し、そのまま300年くらい経つかと思った。

 誰か解呪してくれ。


 ※※※※


 次の日の朝。


「男の子ってこういうの好きなんでしょ」


 家の前にアカネちゃんが立って、ランチバッグを渡そうとしてきた。


「お、おはよう、アカネちゃん」


 昨日のダメージが脳裏に蘇る。

 しかしオレは年上のお兄ちゃんだ。しっかりしないと。


「お、おはよう」

 アカネちゃんも挨拶してくれた。


「昨日はチョコレートありがとうね。美味しかったよ」

「あ……涼にぃに、食べてくれたんだ。そか……」


 アカネちゃんは小さい声でそう言った。

 昨日のこと気にしてるんだな。

 おじさんメガネと言われたことは、ダメージは負ったが怒ってはないから、アカネちゃんは気にしないで欲しい。


 ん? そういえばこれは……。オレはアカネちゃんが差し出してきたランチバッグを見た。


「これは、おべんとう?」

「そう」

「オレにくれるの?」

「す、好きでしょ」


 ひょっとして昨日のお詫びかな?

 チョコ貰ったし、お詫びとか、別にいらないんだけど。


「でも、悪いよ。」

「……っ」

 あかねちゃんが口をパクパクしている。


「れ、練習だから!!」


「弁当の練習かな? そっか。それにもう作っちゃったのなら、食べない訳にもいかないし、今日は貰うね。ありがとう。帰ったら感想言うね」


「感想っ!?」

「うん。練習ってことは誰かに渡したいんだよね?」

「がああああああああ!!!」

「!?」


 あかねちゃんがいきなり怪獣のような声を出したかと思うと、また彼女は自宅へ走っていった。


「……今更だけど、あかねちゃんって不思議な子だな」



 オレはその後、登校し、昼休みに弁当を開けた。


「……おにぎりと、ウインナーが……ウインナーだらけだ!? あ、卵焼きがあった」


 うーん、まあ確かに黄金メニューと言えば黄金メニューだともいえるが、野菜が一つもないな。

 ……しかし、朝のあかねちゃんの様子からして、それは指摘しないほうが良いかも知れないな。

 まだ小学生の女の子だしな。

 オレは黙っている事にした。


 そして、オレは学食だけだと、いつも足りなかったので、ありがたくそれを頂いた。


 その差し入れは弁当は、なんと、オレが高校を卒業するまで続いた。

 メニューも変わることは一切なかったが、ずっと続いたのはすごいな。


 弁当のお礼は定期的に一応した。

 リクエストを聞いて、ご両親のかわりに買い物に付き合ったり、遊園地連れてったり。


 ……あれ? それにしても小学校は給食あるし、誰に渡しているんだろう。

 オレのは残りらしいし。

 ……あ、お父さんかな?

 あまりにも長く作ってくれるから、適当なタイミングで悪いから、と断ろうとしたら、余りもの詰めてるだけだから!! とつっぱねられた。



 ※※※※


 4年後。オレは大学生になっていた。


 大学1年生になった時、初めて彼女ができた。

 その彼女を初めて自宅に招こうと、一緒に手を繋いで歩いていた。

 少し恥ずかしかったが、オレも初めてできた彼女だし、それが幸せだった。


「男の子ってこういうのが好きなんでしょ。こふー…こふー…」


 はっ。このセリフは。


 振り返るとそこには。


 ――ダースベイダーのコスプレ(フル装備)の恐らく……アカネちゃんが立っていた。

 手にはライトセイバー持ってる。


「こふー……」


「かっけぇ!!」

 オレは思わず叫んだ。


「な、なに!?」

 彼女が動揺している。しまった。


「あ、咲(さき)、ごめん。近所の幼馴染の女の子だよ」

「ああ、こないだ言ってた面白い子ね」


 ふふ、と咲が笑った。

 和む。


「お、おもしろっ!?」


 ビクンッ! とダースベイダーが震えた。


「うん、たまに面白いバレンタインイベントやってくれる幼馴染がいるって彼女に話したんだ」


「カノジョッ!?」


「あ、はじめまして。えっと……アカネちゃん? よろしくね」

 咲が微笑んで挨拶する。


「ふぉ………ふぉーーっす……! オラ、あかね……」


 なんか違うアニメの主人公とフォース挨拶が混ざってる。


 ダースベイダーは、そう言うとライトセイバーを地面に引きずりながら、自宅へフラフラ帰っていった。



 あれ、そういえば今年はチョコ貰えなかったな。

 ダースベイダーのコスプレにお金かかりすぎたのかな?

 でも今日のコスプレ、今までで見せてくれた中で、一番楽しかったな。




 数カ月後、母親にアカネちゃんのお見舞いに行け、と言われた。

 栄養失調で入院したそうだ。

 え? やばくないか? 大丈夫なのか、アカネちゃん。



 ノックして、どうぞ、と言われて病室に入る。


「あ……涼にぃに……」

 アカネちゃん、痩せこけてる。


「うわ、ずいぶんと痩せたね、アカネちゃん。話は聞いてたけど……大丈夫?」


「あ、うん。ふふふ、にぃに、私は本当の意味で私は病んでれになっちまったよ……ふふふ」

「やん……?? なにそれ」

「あ、ごめん。にぃには知らなくていいぉ……」


「悩みとかあるなら聞くよ? おうちの人とかには何も話さないんだって?」

「ジョブ、ジョブ。私はそのうち不死鳥のように蘇る。ときがくればな」


 ……何言ってるのかわからない。

 ジョブって大丈夫って意味か?

 ……これは重症だ。


「あ、そうだお花持ってきたから生けたいんだけど……あ、アカネちゃん、こういう花好き?」

 花の種類なんて、よくわからないから、店員さんに予算内で適当に作ってもらった。


「!! 好き!! というか、今好きになった!! にぃに、ありがとう!!」


 ぱっと明るい笑顔を見せてくれた。

 お菓子とかとどっちにしようかと思ったけど、栄養失調って聞いたし、病人に勝手にオレが選んだ食べ物は良くないかと思って花にしたんだが、これにして正解だったな。


 オレは、アカネちゃんが退院するまで、たまに顔を見せに行った。

 オレが来た日は食事をちゃんと取るのだと、アカネちゃんのお母さんに感謝された。

 そうか、オレが行くことで気分転換になってるのかな?

 それなら良かった。


 ――咲とは大学卒業後、別れた。

 オレは常々、彼女に結婚したいと言っていた。

 だが、彼女は大学院に行く事を決めていたらしく、恐らく私は普通の家庭を作れないと思う、と言われた。

 オレは別にそれでも構わなかったから、関係は続けたかったが、別れるという彼女の気持ちは決まっているようだった。


 なんとなく、感じてはいたから、納得はした。

 オレは、好きだった気持ちを、引きずったまま、社会人になった。



 新卒として働いて社会人一年生を終える頃の帰り道――


 ブルン……ブルルルン……バイクの音が背後からして、オレの背後に止まった。

 ――振り返ると。


「男の子ってこういうの好きなんでしょ」


 キター!!


 退院してたし、病みながらも大学通ってたのは知ってたから、そろそろ今年あたり来ると思っていたぜ!!

 免許とったんだな!


 アカネちゃんは、黒いシスター服を着ていた。

 しかし、そのシスター服はチャイナドレスのようにスリットが入っており、彼女の白い足が覗いていた。

 ガーターベルトで網タイツ、その下はミリタリー風のロングブーツだ。


 そして肩にマシンガンを担ぎ、腰にはガンベルト……このシスター戦うの!? 祈るんじゃなくて?

 


「たくましいシスターだな!?」

「祈る時間は終わったんだ……3つ数えな、それが合図だ」

「物理的に何をやるのか、おにいちゃんは怖いよ。うん、1,2、3、 はい、数えたよ」

「チョコだよ!! 受け取りな!!」


 オレはチョコを投げつけられた。


「おっと……。ありがとう、シスター」

「へっ、礼はホワイトデーまで待ってやるさ……」

 そういって、シガーレットチョコを口に咥えた。


 あ、ホワイトデー。そういえばそんなものがあったな。やばい。

 オレ、アカネちゃんにホワイトデー返したことなかったぞ!!

 買い物付き合ったりとか、遊園地連れてったりとかで、別のことで返してはいたが!! 


「じゃあな!!」


 チョコを渡すと、シスターはバイクを走らせ――颯爽(さっそう)と自宅庭へ入って行き降りた。


 近いな!! 知ってたけど!!




 その一年後。

 オレは、会社と自宅を行き来するだけの生活をしていた。

 たまにジムに行くくらいか。

 しかし、変化は何かしら欲しく、ワンルームで一人暮らしすることに決めた。


 今まで親にやってもらっていた事、全て自分でやるようになり、これはこれで親への有り難みを改めて覚えたし、なんか新鮮だった。

 一人暮らし、楽しい。


 そう言えば、最近道端で高校の時の同級生に会って、彼女とはまだ付き合ってるの?、と聞かれた。

 なんで高校の同級生が咲と付き合ってた事を知っているんだろう、と思っていたら、あらぬ誤解が高校の時にあったことが発覚した。


 高校の時、アカネちゃんが作ってくれていた弁当。

 周りにはアレは彼女が作った弁当だと思われていたらしい。


 だから、彼女いると思われていたらしい。なんてこった。

 だが、思い起こせばあれも面白い思い出だったな。




 そして、今日は土曜の休日。ついでにいうとバレンタインだが、彼女を失ったオレは一人、インターネットで動画をみたり、ゲームしたりして、ダラダラしていた。

 そろそろ晩飯でも作るかな、と思っていた時。


 ピンポーン。


 あれ、誰だ。

 宅配か?

 今何も頼んでないんだが。

 今日はバレンタインだから、一瞬、アカネちゃんかと思ったけど、今までのパターンから考えると、彼女が次にイベントを行うのは3年後のはず。


 オレは、テレビドアホンの映像をのぞいた。


「ぶっ」

 オレは手に持っていたペットボトルのお茶を噴いた。


 ――薄暗い廊下に、白無垢を着た女が立っている。

 まるで、亡霊のようだ……! 怖っ!?

 だが、オレにはわかる!! ……これは、アカネちゃんだ!!


「は、はい……どちら様でしょう」

「き、昨日、助けて頂いた鶴ですが!」


 ぶっ……面白すぎる!!

 毎回よく考えるな、本当。


 オレは少し意地悪することにした。


「……昨日、鶴なんて助けてないですけど、人違いじゃないですかね。そもそもこのあたり鶴は生息してないんじゃないかな」

 途端にショックを受けた顔で固まる鶴。

 腹痛い。


「しかし、グークルによると、こちらの住所のようなんですが。てか、ネタにマジレスするのやめろくさい、素直に恩返しされろ。家入れて」


 グークル使う恩返し鶴!!

 そして脅迫して恩返しするとか聞いたことないぞ。


「しかたないですね、どうぞ」


 オレはオートロックを開けた。


 鶴はワンルーム玄関で三つ指ついてお辞儀する。

「お邪魔しまする」

「ぶふっ……、そんなとこで座りこんだら、冷えるよ、鶴さん」


「フフフー。私を家に入れましたね!」

「はい、入れました」


「実は、家に招きいれたらヤバイ妖怪なのでしたー!!」

 着物をパタパタして顔をあげる。

 口には、ハロウィン用だろうか、牙を付けてる。


「きゃー! 怖い!」

 オレは笑いながら付き合った。


「ははははは! ……はっ!?」

 牙がポロリと落ちた。


「大事な牙が落ちましたよ、妖怪さん」

「畜生……大事なところで!!」


「あはは。とりあえず、中入りなよ。お茶いれるから」

「いや!! 私が入れる!! 恩返ししにきた鶴だし!!」

「あ、そうか。じゃあお願いしようかな」


 鶴はしずしずと盆に急須とカップを準備した。


「粗茶ですが」

「オレの買ったお茶だけどね!? ……でも、ありがとう。頂くね。ほらお茶菓子あるから妖怪さんも食べなよ」


「いえ。話がありまして」

「話?」


「お……」

「お?」


「男の子ってこういうの好きでしょ!?」

「ぶっ」

 そうか、まだそのセリフ、今回言ってなかったな。

 挟むタイミングなかったものな。


「毎回謎なんだけど、それは決め台詞かなにかなの?」

 オレはやっと聞いた。


「……にぃにの好みを探ってました」

「オレの好み!? 男の子っていうから広い範囲で聞いてるのかと思ってたよ!! それなら、にぃにはこういう女の子好きなの?、とか聞いてくれないと」


「はっ……」

 ショックを受けている顔が、またオレの腹筋を震わせそうになる。


「オレの好み調べてどうしたかったの?」


 ……さすがに意地悪かな?

 ふわっとはわかってたんだけど。

 けっこう年下の幼馴染だし近所の人間関係もあるから、今まで踏み込んで聞きはしなかったんだが。


「いや、そのつまり」

「うん」



「お……」

 急に声が低くなった。どうした。


「……オレにしとけよ……フッ」

 鶴は、真っ赤な顔をそむけながら言った。


「うーん、70点」

「!?」


「オレ、癖のないパンピー(普通の女子)がタイプです」

「ほあーーーーーーーー!!」

 鶴、のけぞる。くっそ。

 オレは口元を抑えた。


「じ、実は、妖怪でも鶴でもなくて、普通です、一般人です。あのこういう者です、受け取ってください」

 懐から刀ではなく、チョコが入ってると思われる包を出してきた。

 ついているカードには、普通に。

 涼にぃにへ。アカネより、と書いてある。


「ほう、アカネさん。今日はどうしてこちらに?」

「……長年好きだった方に愛を伝えに」


 このぶんだと、オレが咲と別れたこともリサーチ済みなんだろうな。


「――というか、真面目に。涼にぃにがずっと好きでしたので、お付き合いしてください」


 ちゃんと普通に伝えてきた。


「いいですよ。お友達からなら」


 オレはその気持にこたえる事にした。

 アカネちゃんは、こういうイベントじゃなく、普通に買い物行く時も、遊園地に連れて行く時も、なにかと面白い子だった。

 常にオレに笑いをくれる子だ。

 ――ふと、傍にいてくれたらいいな、と思ったのだ。


「えっ いいの!!」

「うん。でも無責任なことはしたくないから、お互いお友達からはじめようね。途中で無理、とかなっても幼馴染ではいたいから」


「う……うん!!」

 


 おいおい話をすると。

 アカネちゃんは、咲とオレが別れたと随分前に知っていたらしいが、こういう大胆なイベントを起こす割に、告白するのは奥手だったらしく、実に幼稚園から思いを抱えてやっと言えたらしい。


 バレンタインのイベントも、普通に渡してもオレが普通の反応だから、気を引きたくてたまにイベントを起こしていたらしい。しかしそれはオレに『面白い子』を植え付けてしまい、恋愛感情を引き出せず悩んでいたらしい。いや、ごめん。だって面白いしかない。




 そして、数年後。

 付き合った後は、妙ちくりんなイベントは減るかと思ったがむしろ増えた。

 どうやら照れくさいとイベントを起こしてしまう性質(たち)のようだった。くっそ。

 オレは普通の女性が好みではあったが、アカネちゃんは、なんていうか。ツボった。


 そして今日、オレがホワイトデーにイベントを起こす。


 オレは普通な人なので、普通に彼女をホテルに呼び出して食事した。

 そして、その食事の席で。


「普通なオレで悪いんだけど……結婚してくれますか?」

 と指輪を渡した。


「普通でいいおおおおおおおお!!! するううううう!!」


 アカネちゃんは、顔真っ赤にだして、その後ちょっと鼻血だした。台無しだ。

 だが許す。彼女らしいとといえば彼女らしくもあったし、それが彼女であり、オレはそんな彼女が今では大好きだからだ。



 結婚後も、バレンタインデーは、イベントは起きた。


「男の子ってこういうの」

「はいはい、好きですよ」


 例のセリフは実は気に入ってるらしく、結局は言い続けた。

 まあいいか。


 来年も、楽しいイベント待ってますね、奥さん。



                     おわり。




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