第33話 ロゼッタちゃんのお勧めの一冊

「何冊かあるけど、どれがロゼッタの一番のお勧めなんだ? せっかくだから一番のお勧めを読みたいな」


「そうですねぇ……今日持ってきたのはどれもお勧めなんですけどぉ、男の人でも読みやすいものなら、これですねっ」


 ロゼッタが指さしたのは「神龍の巫女」というタイトルの本だった。


https://kakuyomu.jp/works/1177354055276095892/episodes/1177354055276113697


 手に取って表紙裏のあらすじを黙読する。


~あらすじ~

平民ながら龍と対話する才能を見出され聖女『神龍の巫女』として神龍国家シェンロンで頑張っていたクレアはある日突然、聖女の身分をはく奪され国外追放されてしまう――


「神龍と、神龍に仕える巫女の話か。たしかにこれは他の本よりもファンタジー色が強くて面白そうだな」


「ふふふん、でしょでしょ?」


「他の本の表紙にはイケメンと美少女しかいないが、これはそれに加えてドラゴンがいるもんな。ファンタジーと言えばやはりドラゴンだ」


「ですよね~! あ、ドラゴンと言えば、魔王さまとドラゴン討伐に行ったことはよく覚えていますよぉ」

「ああ、そんなこともあったなぁ……」


「あの時は大変でしたよね~。魔王さまが魔法戦で歯が立たないなんて、びっくりでしたもん」


「ああうん、大変だったなぁ……」


 俺は遠い前世の記憶に思いをはせた。


 魔王時代の俺は、魔族の領土に入り込んで好き勝手暴れる若い野良ドラゴンを大人しくさせに行ったことが、何度かあった。


 ロゼッタは『わたしは魔王さまの腹心なんですから、もちろんお供します!』とかなんとか言って、勝手についてきたのだ。


 いやー強かった。

 魔族の中では史上最強の呼び声も高かったこの俺も、ドラゴン相手じゃ勝手が違ったものだ。


 なにせ強い。

 野良でもマジで半端なく強い。


 代名詞であるドラゴンブレスをはじめとした尋常ならざる攻撃力。

 龍鱗と呼ばれるダイヤモンドよりも固いウロコで覆われた身体。

 果てることのない底なしの体力。

 魔族よりも高い魔法適正。


 文句なしの最強種、それがドラゴンなのだ。


 ちなみにロゼッタは勝手についてきた挙句に、戦闘で何の役に立つこともなく――どころかドラゴンを見た瞬間に、その身体から放たれる覇気の塊のようなドラゴニックオーラにビビッて腰を抜かしてしまい、地面にへたり込んだまま俺とドラゴンの死闘を遠目で見届けただけだった。


 前世じゃ本当に役に立たなかったんだよなぁ、こいつ。

 なにが『あの時は大変でしたよね~』だ。

 お前は何もしてないだろうが。


 ま、前世の話は今は置いておいてだ。


「さっそく読んでみるか」

「面白いですよ。あ、隣に座りますね。一緒に読みましょっ」


 ロゼッタはそう言うと俺の返事も聞かずに、向かいの席から俺の隣へとトテトテっと気持ち駆け足でやってきて、そのまま俺の隣の椅子に座った。


 こんな感じで、勝手についてきたり隣に座ったりするのがロゼッタという女の子だった。

 ほんと、変わらないな、ロゼッタは。


 というわけで読書タイム――『魔会』の初めての活動が幕を開けた。


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