第32話壁に耳あり障子に目あり。で、障子ってどこで見れるの?
「なんだこりゃ?」
「なんだこりゃって、それはもちろん魔会で読むための本ですけど?」
「別にまじめに同好会をやる必要はないだろ? 魔会なんてのは、ルミナを信じ込ませるための口から出まかせなんだから」
「それは違うよ魔王さま!」
ロゼッタが鼻息も荒く身を乗り出して言った。
「なにが違うって言うんだよ?」
「壁に耳あり障子に目あり、って言いますよね?」
「古いことわざだな。もちろん知ってるぞ。そもそも障子とか今はまず見ないけどさ」
「実はわたしも~。障子って、どこ行ったら見れるんでしょうね? 皇居とか?」
「そりゃ皇居にはあるだろうけど、俺たちじゃ入れないだろ……近場だとそうだな。茶道部の部室とか行けば見れそうじゃないか?」
「わわっ、たしかにですぅ!」
ロゼッタが胸の前で、右手拳を左手のひらにガッテンした。
「って、今はそれは置いといてだ。何が違うんだよ?」
ついつい脱線しそうになった話を元に戻す。
「つまりわたしが言いたいのはですね~、誰も見てないところでもちゃんと活動しておかないと、疑われる元だと思うということですぅ」
「あー、ほどだな。うん、ロゼッタの言うとおりだ」
「でしょでしょ?」
「いつ見られてもいいように、日ごろからそれっぽくふるまっておく。なるほどね。いい意見だ」
「むふふーん♪」
ロゼッタがいかにも満足げにほほ笑んだ。
「なんだ、生まれ変わってちゃんと物事を考えるようになったんだな。いい意味でびっくりしたよ」
「いやいや、それほどでもですぅ~」
「そこは普通は『それほどでもない』って謙遜するところだろ……」
「やだなぁ。せっかく魔王さまに褒められたのに、謙遜なんてしないですよぉ」
ロゼッタの返事に、俺は思わず苦笑した。
だがこの感じなら、意外と俺の苦労も少ないのでは――いいや待て。
俺はロゼッタの評価を見直すのをいったん保留すると、確認の意味も込めてロゼッタに尋ねた。
「念のため聞いておくんだが、自分の好きな本を読みたいからって理由じゃないよな?」
「…………えーと」
ここまでずっと俺の目を見て話していたロゼッタが、言葉を濁しながら露骨に視線をそらした。
「違うんだよな?」
「…………にゃはっ♪」
「まったく。そんなことだろうと思ったよ」
「だってだって魔王さまに~! お気に入りのご本を読んだ貰いたかったんだも~~ん! 厳選に厳選を重ねた超お勧めのご本なんだも~~ん! 一緒に感想会をしたかったんだも~~ん!」
笑顔から一転、涙目になりながら駄々っ子のように言い訳を力説するロゼッタ。
「はいはい、わかったわかった。そうやって素直に白状するところは、俺はロゼッタのいいところだと思ってるからさ」
「魔王さまに隠しごとなんてできませんよぉ。ロゼッタは魔王さまの一の腹心なんですからねっ!」
「だからそういうのは普段は言わないでくれな。それこそ壁に耳あり障子に目ありだ」
「なるほどですぅ」
多分わかってないんだろうなと薄々思いながらも、俺は半分諦めの境地で話を進めることにする。
なーに、ロゼッタが失言しようが、俺が何とかすればいいだけだ。
……それにしても、昨日は誤魔化すのが大変だったなぁ。
これが少なくとも高校の3年間続くのか。
け、結構きついかもしれないな……。
「ま、俺は疑われている以上、どこで見張られているかわかったもんじゃない。つまり普段からある程度の活動を、しておくに越したことはない。ってわけで早速ロゼッタが持ってきてくれた本を読むとしよう」
「やったぁ!」
というわけで、俺とロゼッタは魔会の初めての活動「ロゼッタお勧めのラノベ読書会」を行うことにした。
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