夢幻の夏休み

ささみ

第1話

夢幻の夏休み

大学生の佐藤は夏休みに仲間とBBQに行ったり、繁華街で飲みに行ってバカ話したり友達の家で麻雀やウイイレしたりスロットを打ちに行くような青年ではなかった。

夏休みが始まり一週間もたたないうちに、日がな一日SNSで他人の日常を覗き見ては嫉妬や諦めに押しつぶされながらひねり出した「グゥ」という申し訳程度の腹の音で昼過ぎに起きる生活だった。


そんな彼には唯一最近できた趣味がある。

AI画像生成だ。

いろんな単語を入力するとPC上で世界中のデータをかき集め、ときおり人間には思いつかないような画像を生成してくれるのだ。

佐藤は最初、自分の好きな女のタイプを打ち込んだりして楽しんでいたが、最近ではかっこいいロボットや好きなゲームやアニメ、有名人を生成していた。

昼過ぎに起きて始めたかと思えば、気が付けば日付変更線を超えることも多々あった。


ついに佐藤は夢の中でも画像生成していた。

単語で「女の子」入力し1枚だけ出力してみた。

そこには今までの画像生成では得られなかった、佐藤自身の理想の女性が目の前に現れた。

佐藤自身も気付かず自覚も言語化もできていなかった嗜好まで生成されていた。

現実とは違い実物が現れるので、触れもする。もちろん夢の中だが。

佐藤は夢の中で一目惚れをしていた。


佐藤は夢から覚めていた。

時計を見るといつも昼過ぎの13時頃起きるのが夕方の17時になっていた。

流石に「寝すぎたなぁ」と思いながら、もう一週間洗ってないクタクタで毛玉だらけのグレーのスウェットをはいて

紺のクロックスのサンダルを履き、牛丼屋に向かった。


牛丼を胃袋に押し込むごとに佐藤は夢にでてきた女の子を思い返す。

自身の気付いてない部分をなぜ夢の中で生成できたのか。

自身の中で完結した脳内でなぜそれが生成できたのか?

考えるも結局は「夢スゲー」っていうところに着地する。

どんぶりの底に残ったものを平らげ味噌汁で流し込み水を勢いよくゴクリと飲み干し店を出る。

家に帰る道中、佐藤は昨日の就寝前の動作や状況を思い出せるだけ思い出していた。

その夜同じ夢を見れるように前夜と同じ状況を似せて就寝した。

またAI生成する夢を見た。同じように単語で「女の子」入力し1枚だけ出力してみる。

同じ女の子が出てくると思いきや、まったくタイプの違う女の子が出てくる。

しかし佐藤の理想の女の子であることは間違いなかった。またしても自分の自覚していない嗜好が目の前に具現化され佐藤は夢の中で昏倒しそうになった。それほどまでに目の前の性的嗜好の塊は佐藤の全身を貫いていた。


佐藤は起きた。時計を見る、やはり17時を回っていた。

すぐに思考を巡らせる。

共通点は自分の自覚外からも刺激があること、起きる時間が17時を過ぎる事。

以上の二点だった。

佐藤は嬉しくなった。小学生のころ、自分で考えたテーマで自由研究をして先生や友達にもてはやされた成功体験を思い出していた。

同じように研究してみよう、幸い大学生の夏休みは長い。

寝すぎたところで誰に迷惑かけることもない。

佐藤はすっかりあのころの小学生に戻っていた。

この実験をするにあたって、必ず就寝前にメモに出力する単語を記入してから寝る習慣にした。

メモ

「食べ物」

加算2時間、「見たことない見た目で味は再現できないだろう複雑な味だがいままでの人生で一番おいしかった」

「女の子、食べ物」

加算6時間、「また違った女の子が出てきた、食べ物もまた前回とは違う食べ物が出てくるもどちらも理想と呼べるものが生成できた、ただここらへんからは失禁の可能性があるので、オムツなりの対応はしないといけない」

「高校時代の放課後」

加算24時間、「概念も生成できることがわかった。自分の過去の高校時代だが、ほぼ理想の人間関係で毎秒ごとに多幸感が押し寄せてくる、中毒性を少し感じる、また加算時間も増えてきたため前述の排せつ問題もそうだが、栄養問題も解決しないと健康上リスクがでてくる。また不測の事態に備えて、他人に定時声掛けの安全装置の必要だと感じた。」

以上つらつらと佐藤は長くてけだるかった夏休みを消化していた。

夏休みの中盤には上手にこのAI夢とも折り合いをつけていて危険性や中毒性とも上手に付き合いながら生活していた。バイトのない休日は予定を設けず、好きな設定で夢を見ていた。朝起きるころには多幸感に包まれていた。

夏休みの最終日

高校時代の友人と会いたくなり、ガラにもなく同窓会じみたものを計画した。

友人たちは高校時代の佐藤とは別人のようで少し最初は怖かったが、大学デビューという言葉もあるように「きっと佐藤は良い大学生活が送れてるんだろう」皆は感じていた。

楽しかったのか佐藤は呂律が回らないほどに泥酔していた。

友人にタクシーに乗せられ自宅に帰ってきた。

タクシーから降りると秋めいた夜風を頬に感じながら歩く。

家に着くなり、佐藤はいつものようにAI夢を見れるようにセットし眠りについた。酔っていてもこの行動は習慣化されていた。

枕元のメモには「人生」と書かれてた


翌日、佐藤は自室のベッドで老衰で死んでいた。現実では三日ほどしか経っていなかった。

医者からも「これほどまでに幸せな死に顔は見たことがない、脳波も死ぬまでエンドルフィンが分泌され続けてた、いったい死に際だったのか、どんな夢だったのか」と口をそろえて言う。

佐藤は老衰死だが、その多幸感からか外見は20代のままだった。

佐藤が残したレポートにはAI生成の夢を見る方法が書かれていた。

それはすぐに世界中に広まり、「幸せな自死の方法」として佐藤の夏休みの自由研究は世界中で評価されていた。

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夢幻の夏休み ささみ @nekotas

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