再会と本音

あれから、三年の月日が流れた。

私は、24歳になった。

いまだに彼氏と呼ばれる存在には出会えていない。

三森さんに最後に会ったのは、三年前のお姉ちゃんの結婚式でだった。

三森さんは、凄く喜んでいた。

三森さんとは、挨拶だけをして終わった。

あの日の事は、私も頭の中から消そうと決めたのだ。


私は、バイトから正社員に昇格して充実した日々を……。

って、してない。

二年前にゆっこがあのクズ野郎にキレた。

理由は、私の初めてを奪った事を自慢していたかららしい。

ゆっこは、クズ野郎との恋を終わらせた。

最近は、仕事先に気になる人が出来たらしい。


「咲空ちゃん、ごめんね。急に呼び出して」

「ううん、大丈夫」

「お母さんが土用の丑の日だから、鰻を奢るから咲空ちゃんも呼びなさいって言ってね」

「そう言ってもらえたら嬉しいよ」

「いいところらしいよ。『ベル』の人も呼んでるらしい」

「えっ?」

「お母さん、道木さんと仲良くなって」

「あーー、そっかそっか」


もしかして、三森さんが来たらどうしようと思ったけれど、道木さんなら助かった。

私は、ゆっこと一緒に待ち合わせ場所に行く。


「帰りは、お母さんの彼氏の車だよ」

「そっか……」


待ち合わせ場所について、鰻屋に入る。


「一番高いのにしようね」

「やったーー」


まだ、道木さんは来ていなかった。

ゆっこのお母さんが貸し切りにした店内は私達しかいない。

暫くして、ガラガラと扉が開く音がして入り口を見つめる。


ドクン……。

うそうそ。

何で、何で……。

私は、動揺していた。


「こんばんは。車が壊れちゃって、龍に送ってもらったんです。鰻自腹でも食いたいってついてきちゃったんですが……」

「いいよ、いいよ。人数は、多い方が……。好きな所座ってね!貸し切りだから」

「わかりました」


三森さんと道木さんは、少し離れた場所に座った。

心臓がうるさくて何も入ってこない。

高級な鰻なのに、柔らかいのはわかったけど……。

肝心の味がわからない。

みんなが食べ終わる。


「私、トイレ行ってから行くね」

「うん、わかった」


私は、慌てるようにトイレに向かう。


「はぁ、はぁ、はぁ。マジで!どうしよう。お願いだから静まって」


トイレの鏡の前で胸に手を当てて、深呼吸を繰り返す。

三森さんに再会したら、忘れていたあのKiss の記憶が蘇ってきた。

経験豊富であろう三森さんのKissはめちゃくちゃ上手かった。

柔らかくて気持ちよかった。


「って、何を思い出してんだよ。しっかりしろよ、私」


気合いを入れる為にリップグロスを塗り直してトイレから出た。


「な、何で?」


トイレから出て大きな声が出てしまった。


「あ、あのーー。みんなは?」

「先に行った。二次会にカラオケ行くみたいだよ!車の場所わからないだろうからって待ってた」

「えっと、何で三森さんが?」

「咲空ちゃんと俺は仲いいからって道木が……」


道木さん!!!

ふざけないでよ!!

寄りによって、何で二人にするんだよ。

間違いがあったらどうするんだよ!


「行こうか」

「あっ、はい」


三森さんと並んで歩く。

初めてかも……。

手が触れそうで触れない距離感が微妙だ。


「えっ?何で?」


三森さんに手を繋がれて驚いてしまう。


「服の趣味変わった?」

「えっ、あっ。24歳になったから……。大人カジュアルを」

「男?」

「いや、いませんよ」

「いないけど、何人かには抱かれた?」


駐車場に着いた瞬間。

車に体を押し当てられる。


「これ、三森さんの車ですか?」

「別に、今、それ関係ある?」

「いや、いや。それは、知らない人の車だとよくないって言うか」


ってか、何で三森さん怒ってんの?

意味がわからないんだけど……。

トイレ長かったから怒ってんの?

次の行き先わからなくなったとか?


「あっ、私。今から、ゆっこに場所聞きますね」

「そんなの知ってるから。で、さっきの質問の答え。何人かには抱かれたんだ?」

「えっ。あっ。いやーー。その……。忘れたかったんで」

「何を?」

「初めてのそのそれを……」


三森さんは、私の顎を掴む。


「忘れたかったら誰とでもするの?キスは特別だからって言ってなかった?」

「えっ……それはそうですよ」

「だったら、俺とでもよかったよね?」

「三森……さん?んっ……んっ」


あの時と同じように三森さんは、力ずくで私にキスをしてくる。


「やめてって言わないの?咲空ちゃん」


涙がポロポロ流れてくる。


「ご、ごめんなさい」

「何で?泣いてるの?」

「お姉ちゃんが結婚したからって、私にしちゃ駄目ですよ。三森さん」


うまく笑えてるかわからないけど、笑って見せる。


「咲空ちゃんは、俺が好きじゃないと思ってた。告白しても、ホストだから信じてもらえないし……。10歳も離れてるからしつこく出来なかった」

「三森さん……?」

「咲空ちゃんは、奈美ちゃんの代わりじゃないし。俺と奈美ちゃんは、本当に友達。咲空ちゃんにどう見えてたかは知らないけど……。俺達は、友達だから」

「嘘……だよ」

「嘘じゃないよ。咲空ちゃんの事、大切にしたかったからキスした事を誰にも言わなかった。死ぬまで持ってく秘密にしようって決めたんだよ。だって、こんなに好きになったから……」

「三森さん」


三森さんは、私をギュッーと強く抱き締めてくれる。


「咲空ちゃん、好きだよ。付き合ってくれない?」


ようやく三森さんの背中に腕を回せた。


「はい」


涙がポロポロと流れ落ちる。

私は、お姉ちゃんの代わりじゃないんだ。


「付き合ってる事、内緒にしとこうか?時期がくるまで」

「はい」

「キスしていい?」

「はい」


三森さんの優しいキス。

柔らかくて、大人で……。

私の知らないキス。


「前は、無理矢理しようとしたけど。次は、待つから……。咲空ちゃんがいいって思うまで待つから」

「はい……」


三森さんは、私を抱き締めてまたキスをしてくれる。

私、ずっと三森さんが好きだった。

心の奥が震える。


「三森さん……」

「龍一って呼んでよ」

「龍一さん……私。龍一さんとキスしたのが最後であれから誰ともキスしてないですよ。だって、私にとってキスは好きな人とする特別なものだから……」

「咲空……好きだよ。ずっとずっと好きだった。離したくない。誰にも渡したくない」

「龍一さん……好き」


私と三森さんは、この日恋人になった。

まだ、誰にも話せない秘密の恋人。

だけど、私は幸せ。

だって、今よりもあのキスをなかった事にする日々の方が辛かったから……。


「行こうか、咲空」

「はい」

「車乗って寒いから」

「はい」


三森さんは、駐車料金を払って車に乗り込む。


「危ないですよ」

「大丈夫だよ」

「駄目」


車を運転しながら私の手を握ってくるから怒ると三森さんはハンドルに手を戻してくれた。


「咲空。一つ聞いていい?」

「はい。何ですか?」

「あの時……嫌がってたのって」

「お姉ちゃんの代わりは嫌だったし。お姉ちゃんも三森さんが好きだったらって思ったから……」

「何だ……よかった」

「えっ?」

「てっきり嫌われてるかと思ってたから……。10歳も下の咲空にめちゃくちゃ本気なのは俺だけなんだって思って」


赤信号で停まる。

私は、三森さんのハンドルにある手を握りしめた。


「私も龍一さんに本気ですよ」


三森さんは、私の言葉に照れ臭そうに笑ってくれた。

三森さんが、私を好きなのが本当に伝わる。

あのキスよりも……。








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あの『Kiss』の事……♡咲空編♡【カクヨムコン応募中】 三愛紫月 @shizuki-r

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