突然のKiss……。
あれから、三週間が経ち。
私は、ゆっこの好きな人が家で開く飲み会に参加していた。
ゆっこの好きな人は、いわゆるヤリチンってやつだ。
参加者の
私が参加した理由は、ゆっこに気があるか見て欲しいと言われたからだ。
真壁さんよりは、ゆっこの方が好きな気がするんだよね。
何て見ながら飲んでると酔ってしまった。
で、何故か……。
目覚めたら、朝になっていた。
「えっ!最悪」
起き上がろうとした私は、ギュッと誰かに抱き締められた。
「ちょっ、ちょっと」
「あっ、おはよう。咲空ちゃん」
「あの、離してもらえますか?」
「そんな言い方ないじゃん。昨日、一緒に飲んだ仲なんだし……」
「いや、昨日一緒に飲んだだけですから」
ゆっこの好きな
「堅い事言わないでよ。咲空ちゃん。俺ね、タイプだったんだよ!タイプはね、味見するって決まってるんだ」
「やめて……離して……」
「暴れたら悠子に咲空ちゃんが迫ってきたって言うから」
「えっ……」
「偉いね。今どき、初めてなんか流行らないって」
こんな時、ドラマなら素敵なヒーローが現れるのだろうけど……。
現実世界にそんな人が現れるはずもない。
私は、ゆっこの好きな人に初めてを捧げた。
「痛かったでしょ?血でちゃったから」
「帰ります」
立ち上がろうとしたけど、すぐに尻餅をついてしまった。
「ちょっと休まなきゃ無理だよ。初めては、そんなに簡単に動けないから」
こんな奴に捧げるぐらいなら、雅人にあげていた方がよかった。
五分休憩して、私は立ち上がる。
「まだ、無理だよ」
「離して、大丈夫なんで」
体に力が思うように入らないけど、無理して服を着て家を出る。
初めてを奪われた事より、ゆっこに申し訳なくて涙が流れてくる。
どうしよう。
ゆっこ、あの人の事好きだって言ってたのに……。
私、どうしたらいい?
こんな時に相談する相手すらいないなんて……。
情けない。
結局、ゆっこと会うのをバイトだと避け続け三ヶ月が経ってしまった。
ピリピリ……。
「はい」
「もしもし、咲空ちゃん」
「あっ、はい」
「明日なんだけど。お店手伝ってくれない?その後、『ベル』に行く予定なんだけど……。駄目かな?」
「大丈夫です」
「じゃあ、よろしくね」
真由美ちゃんからの電話だった。
真由美ちゃんは、スナックで雇われママをしている。
たまに、女の子が足りない時の助っ人要員としてゆっこ関係なく呼ばれるのだ。
意外と私の接客が向いていたかららしい。
次の日、真由美ちゃんのお店を手伝って私は『ベル』に行く。
「いらっしゃい」
「奈美ちゃんの妹。こないだと違って綺麗でしょ?」
「へーー。本当だね」
「やっぱり、ジャージ上下より、そっちの方がいいよ」
「あははは。ですよね」
三森さんと高円寺さんがついてくれる。
真由美ちゃんといるとゆっこに対して申し訳なくなってきた。
真由美ちゃんがトイレに行くと高円寺さんも席をたつ。
「咲空ちゃん、今日はこないだと違って静かだね。そんな格好してるから?」
「あっ、そうかも知れません」
「敬語じゃなくていいよ!はい、水割り」
「ありがとうございます」
三森さんに優しくされただけで、私は泣いてしまった。
「えっ、どうした?大丈夫?」
「私、酷い事したんです」
「酷い事?」
「ゆっこの好きな人に言い寄られて、脅されて初めてだったのに……。嫌だったのに……」
そこまで言うと真由美ちゃんが戻ってきた。
「龍ちゃん、咲空ちゃん泣かしてる」
「いやーー。可愛くていじめちゃったわ」
「大人なのに最低じゃん。大丈夫?咲空ちゃん。泣かないで」
「だ、大丈夫です」
三森さんは、私の為に嘘をついてくれた。
その気持ちが嬉しくて、気付けば涙は止まっていた。
「いやーー。マジで、今日の客はなかったよね!咲空ちゃんなんかおしぼり投げられてね」
「はい」
「あんなの二度と来んなよな」
「そういう奴はマジで駄目だわ」
頭が空っぽになれる会話を楽しんで、お店は閉店の時間になった。
「じゃあ、チェックで」
「はいはい。お会計」
「あっ、私も」
「いいよ、いいよ。私が払うから」
真由美ちゃんがお金を払ってくれた。
「タクシー、外に出たらいると思ったんだけどね。ちょっと探してくるわ」
「私も行く」
「あっ、私も」
「咲空ちゃんは待ってて」
高円寺さんと真由美ちゃんは、タクシーを探しに行く。
「あの、さっきの話なんですが忘れて下さい」
「あっ、さっきの?ちょっと来て」
「えっ?」
私は、三森さんに腕を引っ張られて人から見えない場所に連れて来られる。
「三森さん?」
三森さんは、私を壁に押し付けてキスをしてきた。
「ちょっ……やめて……三森さ……んっっ」
抵抗すればするほど、三森さんは力強く私を押さえて深い大人のキスをする。
「待って……駄目です」
唇が離れると三森さんは、私の首に唇をそっと押し当ててスカートに手を入れてこようとする。
「駄目……です」
お姉ちゃんの代わりは嫌だった。
三森さんが好きなのは、お姉ちゃんだから……。
「あれーー。咲空ちゃん」
「咲空ちゃん、タクシー見つかったよ」
高円寺さんと真由美ちゃんの声が聞こえて三森さんの手が止まる。
「探してるから、戻らなきゃ」
「もう少しだけ……。もう少しだけこうさせて」
三森さんは、私を引き寄せてギュッーと抱き締めてくれる。
三森さんが、私にお姉ちゃんを見てるのは知っていた。
だから、腕を回したりなんかしちゃ駄目。
「可愛いね」
「えっ……またまた」
「本気だから……」
「もう、酔いすぎですよ」
三森さんは、ホストだから簡単に『可愛いい』って言える。
そんなのは『いただきます』や『ごちそうさまです』と同じ事。
勘違いしちゃダメ。
勘違いしちゃダメ。
「咲空ちゃん……。咲空ちゃん」
「龍さんまでいなくない?」
「もしかして、どっか行っちゃった?」
高円寺さんと真由美ちゃんがさっきより大きな声で叫んでいる。
「戻らなきゃ、ヤバいね」
「うん」
「行こうか」
三森さんは、私から離れてくれた。
私達は、二人の所に戻る。
「もう、どこ行ってたの」
「もしかして、やらしい事してましたか?龍さん」
「そんなわけないですよ。飲み物買いたかったんですけど……。そこになかったので、三森さんが裏手も見に行こうって」
「まあ、目当てのはなかったんだけどね」
「それなら、そうと叫んでくれたらよかったのに……」
「ごめん、ごめん」
「じゃあ、ごちそうさまでした」
「あっ!真由美ちゃん。後で、咲空ちゃんに俺の連絡先教えてて」
「えーー。何で?怪しい」
「違う、違う。さっき、泣かしちゃったからお詫びに今度飯でも連れて行ってあげようと思ってね」
「あっそーー。じゃあ、教えとくわ!またね」
真由美ちゃんと一緒にタクシーに乗り込む。
「龍ちゃんの連絡先、送るね」
「あっ、はい」
真由美ちゃんは、三森さんの連絡先を送ってくれる。
三森さんは、30歳。
20歳の私をおちょくってるのはわかってる。
それに三森さんにとって、私はお姉ちゃんの代わりだ。
「高級寿司でも奢ってもらいなよ!咲空ちゃん」
「えっ、あっ、はい」
真由美ちゃんと笑いながら帰宅した。
それから、三森さんは私に事あるごとに連絡をくれた。
「咲空ちゃん、男と遊んでるの?」
「友達が合コンに参加して欲しいって、人数合わせなんですけどね」
「何それ?だったら、行くなよ」
「そんな事は出来ませんよ。あっ、それとあの日のKissは誰にも言ってませんから……。お姉ちゃんの代わりだってちゃんとわかってますから」
「お姉ちゃん?あーー、奈美ちゃんの。咲空ちゃんは代わりじゃないよ」
「いやいや、そんな嘘はいらないですよ。Kissしたのもお姉ちゃんの代わりだったんですよね」
「違うよ。好きだからだよ」
三森さんのさらっと投げ掛けてきた言葉に胸が苦しくなる。
「近々、店は関係なく飯行こうよ」
「考えときます」
「本当に考えてくれるの?」
「はい」
「咲空ちゃん可愛いから取られたくない」
「いいです。いいです。そんな冗談」
何度も連絡をくれて、何度も言われたけど……。
私は、断り続けた。
そして、三森さんからは連絡は来なくなってしまった。
三森さんと仲良くするのは、お姉ちゃんに悪い気がしたから……。
私からは、連絡を取らなかった。
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