あの『Kiss』の事……♡咲空編♡【カクヨムコン応募中】

三愛紫月

初めてのホストクラブ

初めて出来た彼氏にフラれた。

そのフラれ方が最悪だった。


咲空さらーー。女紹介する条件忘れてない?」

「そんなの雅人まさとが勝手に言ってただけでしょ!」

「いやいや、付き合う時に言ったよね?俺は、人より性欲が強いから別れる時は新しい子紹介するの条件だって!」

「はぁーー?そんなの覚えてるわけないでしょ?」

「じゃあ、抱かせろよ!」

「やめて……。雅人とは、する気ないから」

「キスは特別なんだっけ?そんな小学生みたいな事言ってるからまだなんだよ。それに、ファーストキスが19歳とか今どき終わってんな、お前!」


昼間の公園で、大きな声で叫ばれる。

周りにいる子連れ達にジロジロと見られ恥ずかしい思いをしている私を置いて雅人は消えた。


「つうか、マジでなん何!あり得ないから!そんな振り方ある?」

「はいはい。咲空、今日が誕生日でお酒が飲めるようになったからってそんなに飲んだら吐くよ」

「だってさーー。お姉ちゃん、こうでもしなきゃやってらんないよ!あの公園には二度と行かないけどさ。子連れの視線が痛くて痛くて……。うっ……気持ち悪い」

「吐くならトイレだよ」

「はい……」


バタバタと急いでトイレに向かい、私は完全にリバースした。

初めてのお酒は、最悪だった。


「すでに頭が痛い」


トイレから戻った私にお姉ちゃんは、水をくれた。

私は、お姉ちゃん子だ!

共働きの両親の代わりに私の面倒を見てくれていたのがお姉ちゃん。


「あーー。三ヶ月後には出てくんでしょ?優二さん、優しい人でよかったよ」

「まあね。お母さんも婚約認めてくれたからね」

「お父さんが生きてたら喜んだだろうねーー」

「かもね!咲空もいい人見つけなよ」

「当分、男はいりません」

「あっそ!」


二ヶ月前、お姉ちゃんは4年付き合っている田代優二さんと婚約した。

お姉ちゃんは、私より六つも年上。

大人っぽくて、綺麗で……。

私の知らない世界を知っている。


ピロロロン……。


「うーーん。ゆっこだ。あーー、駄目だ。お姉ちゃん、読んで」

「えーー、あんたその年で老眼?」

「なわけないでしょ!頭が痛すぎて読めんのだよ」

「あっそ!何々……。明日の夜、お姉ちゃんの友達がやってるホストクラブ『ベル』に行きます。咲空ちゃん、失恋した傷を癒しに一緒に行かない?だって」

「ベル?何じゃそれ」

「つうか、これって真由美まゆみも行くんかな?聞いてみよ」

「えっ?お姉ちゃん、ホストクラブ通ってたの?」

「通ってるっていうか同級生が働いてて、真由美と行ってる間に働いてるみんなと仲良くなって!今では、全員友達なの」

「えぇぇぇぇーー!!」


私の知らない世界を知っていると思っていたお姉ちゃん。

まさか、ホストクラブまで知っていたとは……。

凄すぎだから。


「やっぱり、真由美も行くんだって!私も一緒に行こうかなーー。咲空も勿論行くでしょ?」

「えっ。いやーー。ホストクラブなんてハマったら怖いし」

「大丈夫だって!あんたがハマりそうになったら、道木さんに出禁にしてもらうから」

「な、何よ!それ」

「とりあえず、龍ちゃんやひささんに話し聞いてもらえばスッキリするよーー。私も、優二との事で悩んでた時。たくさん、相談にのってもらったからね」

「龍ちゃん?ひささん?誰、それ」

「まあ、行けばわかるって」


お姉ちゃんに説得されてホストクラブに行く事になった。


「つうか、あんた何て格好してるのよ」

「あっ、これ?シャカシャカのジャージ上下。色がまたピンクでいいでしょ?」

「色の問題か?」

「それは、私も悠子ゆうこに言ったのよ!まさか、奈美ちゃんとこもだとは思わなかった」

「私は、正装で白だけどねーー」

「ゆっこーー。やっぱり、ジャージがいいよねーー。ゲロ吐くかもしれんし」

「わかる。お気に入りの服にゲロつきたくないしね」

「吐くの前提でコーディネートすんなよ」


お姉ちゃんと真由美ちゃんは、綺麗な装いをしていた。

私とゆっこは、お酒で吐くかも知れないとシャカシャカのジャージ上下で店に入る。

店内にいるお客さんと従業員の方がチラチラと見てくる。

恥ずかしくてゆっこと顔を見合わせた。


「そんな格好するから見られんのよ」

「ほんとよ!こっちまで、恥ずかしいわ」

「ハハハハ、まあ、いいじゃん」


席に案内されて座る。

思っていたホストクラブとは違う。


「この店ね、30歳過ぎた人ばっかりだから……。テレビで見るようなきらびやかなホストクラブではないよ」

「そうそう。シャンパンタワーとかそういうのが常時あるわけじゃないから」

「へぇーー。大人なお店なんだ」

「だから、その格好はマジで最悪!」

「ほんとそれ」


お姉ちゃんと真由美ちゃんが怒って私とゆっこに説教している所に、ダンディーな人が二人近づいてきた。


「まあまあ、いいじゃん別に……」

「そうそう。初めまして、オーナーの道木隆正みちきたかまさです」

「初めまして、高円寺久弥こうえんじひさやです」

「あーー、道木さん、ひささん。これ私の妹」

「へぇーー。ピンクのジャージめっちゃ似合ってるよ」

「わかります?あっ、咲空です。よろしくお願いします」

「私は、悠子です。真由美の妹です」

「いやーー。二人とも可愛いな!いくつ?」

「二十歳です」

「二十歳かーー。わかっ!」


思ったより居心地がいいお店で、飲んでいくうちに気付けば私は失恋の話をスラスラとしていた。


「そういうの得意なやついるから」


道木さんは、キョロキョロと誰かを探し始める。

閉店30分前になった店内には、平日な事もあり私達しかお客さんは残っていなかった。


「あっ、いたいた。龍、こっちきて」

「はいはい」


龍と呼ばれた男の人が席につく。


「初めまして、三森龍一みもりりゅういちです」


ドクン……。

酔ってるからだろうか?

三森さんを見た瞬間に胸がギュッと掴まれた。


「龍ちゃん、私婚約したよ」

「えーー。よかったな!彼氏、決心してくれたんだな」


お姉ちゃんと話す三森さんは、何だかちょっと寂しそうに見えた。

少しだけ話して、お姉ちゃんはトイレに行く。


「このピンクのジャージが奈美ちゃんの妹、で、こっちが私の妹」

「初めまして、悠子です」

「初めまして、咲空です」

「悠子ちゃんに咲空ちゃん。よろしくね」


私とゆっこは、三森さんに頭を下げる。


「二人とも二十歳なんだって!龍さん、可愛いくない?」

「確かに、可愛いね」


ドクドクと心臓が波打つのがわかる。

彼氏に昨日フラれたばかりで、ときめくとかあり得ないんだけど……。


「へーー。奈美ちゃんの妹か……」


三森さんは、高円寺さんとボソボソと話している。


「お帰り……。はい、おしぼり」


お姉ちゃんが戻ってきて、道木さんがおしぼりを渡していた。


「それで、そいつが咲空に19歳でキスが遅いとか言ったのよ!あり得ないでしょ?」


お姉ちゃんは、三森さんに私の話をしている。


「何だ!そいつ。あり得ないじゃん。別れて正解だよ、咲空ちゃん」

「でしょ、でしょーー。やっぱり、咲空は別れてよかったのよ」

「そんなのわかってるよ……。わかってるけど」


まだ、胸の奥深くに雅人がいる事が悔しかった。

あんな奴でも、私にとっての特別なキスを奪っていったんだ。


「咲空、抱かれるよりキスは特別だって言ってるからそんないいように捨てられるのよ!ってか、抱かれるのも特別な事だよ」

「そうだよ!奈美ちゃんの言う通り。悠子も咲空ちゃんも考え方が片寄ってんのよ」

「そんな事ないよ。初めてのキスと抱かれるのどっちが嫌だって言われたらキスじゃん!ねぇ、咲空ちゃん」

「そうそう。キスのが嫌だよ!だって、唾液の交換だよ」

「ゲッ……。何、その言い方……」


私とゆっこの発言に周りにいた大人達はめちゃくちゃ笑っていた。

それでも、私達は真剣だった。


「じゃあ、帰るよ」

「うん」

「道木さん、咲空がハマったら出禁にして下さいね」

「いいよ!わかった」

「じゃあ、また来ますね」

「うん、待ってるよ」


三森さんとお姉ちゃん、高円寺さんと真由美ちゃんは楽しそうに話して歩いている。


「ヤバヤバ。目が回るよ!ゆっこは?」

「私もヤバいよね」

「うん」

「あっ、来月さ。私の好きな人の所で飲み会なんだけど!咲空ちゃんもいくっしょ?」

「行かない理由がないよね!彼氏いないし!イェーーイ」


私とゆっこは二人ではしゃいでいた。


「あの子達は、元気だわ」

「確かに、明るいね」


お姉ちゃん達が呆れた顔をして私達を見ていた。

けれど、そんなのは関係なかった。


「じゃあ、タクシー乗りなよ」

「ごちそうさまでしたーー、行こう、ゆっこ」

「うん」


胸のドキドキは、もう気にならなかった。

勘違いだったのだと思って、タクシーに乗り込んだ。

この日、私は少しだけ大人の階段を登った気がする。

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