堕ちる
20■■年■月■日。都内マンションの一室で身元不明の10代前半の遺体が見つかった。
遺体はひどく損傷しており、四肢と頭部は見つからなかったそう。部屋からは何らかの骨で作られた家具が大量に押収された。警察の調べによると、この部屋に住んでいた20代の夫婦が一週間前から行方不明になっており、この事件に何らかの関与が疑われるため、捜索を開始したという。
私には夫と11歳の娘がいる。夫と共働きのため、娘を家に一人残すことが多かった。
とても裕福とは言えなかったが、幸せな時間だったと思う。でも、私の趣味は誰にも言えない。夫にも、子供にも。およそ人の所業ではないから言えない。だからと言って辞められるものでもないのだけれど。
私は刑務所のいわゆる死刑執行人というのをやっている。意外と忙しいもので、帰れるのは月に一回程度。就き始めこそ罪悪感や嫌悪感があったものの一年もすると、何も感じなくなった。ただボタンを押したら人が死ぬだけ。
これだけでお金がもらえるのだから儲けものである。(一人につき5000円)
二年がたつと、焼却後の骨がもったいなく思うようになった。なので、その骨を有効活用すべく、色々なものを作って売り出すようになった。
これが私の趣味なわけだが、なにも狂人というわけではない。
家庭を支えるため仕方なくやっていたにすぎない。
しばらく休みが取れたので、自宅に帰り、娘と遊んでいた。
久々に娘と話していて、ふと体を見やると、『椅子が作りやすそうな手足』をしていた。
『ネックレスに合いそうな頭蓋骨』を撫でながら『頭の中で設計図を組み立てていた』。
私は立ち上がるとキッチンに行き、シンクの下の棚から包丁を取り出し娘の目の前に立っていた。娘はひどくおびえた様子で私を見ている。そんなに恐ろしいだろうか。
これからずっと一緒にいられるというのに。
グサッ
『娘を刺した』
手足と頭を切断し、肉を剥ぐと、鮮やかな白で覆われたキレイな骨が出てきた。
早速、自室に置いてあった何本かの骨を取り出してきて、頭蓋骨のネックレスを作った。
次に椅子を作ろうとしたタイミングで夫が帰ってきた。いつものようにリビングに入ってくるなり、娘と同じようにおびえ始めた。なにもおかしいことなんてないのに。
あ、『すごく座りやすそうな体』。
しばらくして、これまでで一番の椅子が出来上がった。あまりにも良くできたので、これは売らないでおこう。
制作に集中していたため、どっと疲れが襲ってきた。お風呂で体の『汚れ』をとって、布団にもぐりこんだ。日付が変わるぐらいに意識は夢へと消えていった。
次の日、朝起きると夫と娘がいなかった。昨日の夜はいたのに。
よく部屋を見やると、クローゼットにしまってあったはずの骨が何本か転がっている。
昨日いじっただろうか?なぜか昨日の夜のことはあまり覚えていないけれど。
飲みすぎた_にしては頭は痛くないし吐き気もない。
朝ごはんでも買いに行ったのだろうと思い、自室から出てリビングに入る。
『血』『血』『血』『血』『血』『血』『血』『血』
『骨』『なんだかわからない肉塊』『骨』
惨状。私は目を疑った。
部屋の真ん中あたりには骨でできた椅子とネックレス。
肉塊はちょうど娘の胴体と同じぐらいの大きさだった。その傍らには夫のスーツの袖であろう部分がついている腕が二本。思い出した。
いや、『思い出してしまった』。
昨日私が幸福な気持ちで作っていたのは夫と娘の骨でできた家具、装飾。
気が付いたときにはその場を離れていた。罪悪感を押し殺すように。その罪から逃げるように。
私も今まで安易な気持ちで 『』してきた者たちと同じように死んでいくのだろうか。
もう職場には戻れない。戻る気もない。
呆けて歩いているうちに、森の奥まで入ってきてしまったようだった。
目の前には小屋がある。理由はそれだけで十分だった。
その小屋には老人が二人住んでいるようだった。私を見るなり中に入れてくれた。
小屋はとてもいいところとは言えなかったが、それでも老夫婦は精一杯私をもてなしてくれた。
『いい体ですね』
意識を失っていたようで、私は横になっていた。
目覚めた私が見たのは二つの『血だまり』。ああ、またやってしまった。
私はもう人を『』すことに罪悪感を持てなくなってしまった。いや、少し違う。
元から人を殺すのにためらいなんてなかった。仕事が仕事だからしょうがないとは思う。
もうずいぶんと前から善人と悪人の違いすら分からなくなってしまった。
もういいや。
―事件から一週間が経過した今日未明。■■県■■市の山奥の小屋で行方不明になっていた女性が首を吊った状態で発見されました。遺書には一連の事件への関与を認める記述があり、元々家族を殺害した後に自分も死ぬつもりだったのではないかと推測されています。
事件現場から押収された椅子を解析したところ殺害されたと思われる女児と男性のDNAが発見されました。
紐に首を預け、ふらふらと揺れている私の体を私だけが見ている。
どうやら私は成仏すら許されなかったらしい。
一生この現で過ごしていかなければならない。それが私の償い。
どうか、一度でいいから夫と娘に合わせてください。
私の身勝手でもう生きていけなくなってしまったから。
どうか_どうか謝らせてください___。
夢現 眠り姫 @Runakuna
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