第3話 閉じ込められた王妃様

 「開けなさいよぉ!バケ黒猫!フィルとラナに会わせなさい!」


 扉を閉められてからどれくらい時間が経ったのか。何度扉を叩き、壁を蹴り、大声を出しても一向に無駄だった。


 喉の乾きと疲労感、拳の痛みも増してきて、少しだけ心が折れかけてしまいそう。一つ小さな溜息をついたあと、埃っぽいベッドの上に力無く腰掛けた。


 目が慣れてきたお陰で何も見えなくはないけど、燭台の明かりすら消えてしまったガランとしたこの部屋は、とても暗く薄気味悪い。


 騒いだせいでお腹も空いてきたし、喉もカラカラ。なのに喉を潤す水すらも無い。


 「……えぇどうせ、私は自分の親さえも誰かわからないような残念なご身分ですわよ……」


 腰掛けていたベッドにそのまま横たわり、顔を埋めた。


 埃っぽさなんて気にならなくなっていた。

元々、藁の上で眠るような暮らしだって体験してたわ。雪の夜に、どこかの家の家畜小屋に忍び込んで寝た事だってある身分なんですから。

こんな状況、なんてこと無い。

屋根、壁、マットがあるだけ上等じゃないの。


 ……フィルと出会ってからは、いつもフカフカで暖かいベッドに、お腹が空けば美味しいご飯、のどが渇けば美味しいお茶。

 可愛い娘のラナはいつも隣か膝の上にいて。フィルもいつもすぐ近くに微笑んでいて。

思えば隨分甘えてしまっていたみたい。

誰も居ない、何も無い、が、こんなにも心細く感じてしまうなんて


 コンッココンッコンッコココンッ


 質素な部屋のじっとり暗く重苦しい雰囲気に飲まれそうになっていた時、誰かが扉を軽快にノックした。


 「かぁ様、かぁ様、どっこいーるのっ」


 外から聞こえてきた鼻歌まじりの愛くるしい声。

間違えようがない、私達のラナの声。


 「ラナ?かぁ様ここよ。ごめんなさい、扉が開けられないのよ……。とぅ様は近くにいるの?ここは暗くて危ないから、とぅ様の所で待ってなさい。あぁでもあなたが無事で良かったわ」


 娘の機嫌の良い声が聞けただけでも、私の心はじんわりと暖かくなった。

 だけどこのまま開くはずのない扉の前でずっと待たせるわけにもいかない。もし場所がわかるならフィルの所に行かせたほうが安心だ。


 「かぁ様出られないですの?」


 「心配しないで。とぅ様に居場所を知らせてくれれば、かぁ様直ぐに出られるわ。ラナ、一人では危ないから、早くとぅ様のところ……え…?は……?!」


 扉に片耳、頬、肩をくっつける様に立ち、外にいるラナに声をかけていた途中、体重を預けていた扉がスルッと開き、私の体はよろめいた。


「開きましたわぁ。かぁ様良かった」


 目の前に無邪気にはしゃぐ愛しいラナ。

 この子がはしゃぐ度、私譲りのプラチナシルバーの柔らかい髪がキラキラと存在感を放つ。こんな薄暗い廊下でも、その美しさは隠せないなんて。やっぱり、私とフィルの子。


 サラサラの髪に優しく手を置き、尋ねる。


「ラナ凄いわ。どうやったの?……それと、とぅ様はどうしてるかしら?」


「とぅ様、まだ探せていないの。私、黒猫さんとお話してまして、それで、かぁ様ととぅ様、かくれんぼで、見つけられたら、帰してくれるって言われたんですの。扉は、うーんってやったら開きましたの。」


「黒猫……何も意地悪されなかった?怪我はない?」


「黒猫さん、綺麗で優しかったですわ。お菓子も御馳走になりましたの。お腹が空いてしまって……お夕食の前ですが、頂いてもよろしかったですか?ごめんなさいかぁ様」


 私とは違い、娘には隨分親切にして頂けたようで……引っかかるものはあるけれど、心の中で黒猫にお礼を言う。

 叱られると思ったのかバツの悪そうなラナの頬をスリスリと撫で、抱き締めた。


「ラナが無事なら良いのよ。とぅ様を探しに行きましょう」


 部屋を出て、ラナが歩いて来たという方向へ向かった。

 私が居た所は半地下の様な場所だったらしく。

階段をいくつか上り、ラナのいた部屋へと向かう廊下は、大きな窓から差し込む光で満たされていて、燭台なんて全く必要ない程だった。


「ラナ、かぁ様を探すために一人であんな場所にまで来てくれたのね。怖かったでしょう」


「いいえ、探検隊みたいで楽しかったですの。かぁ様がいる場所なら怖くありませんし」


 繋いた手をブンブンッと振りながらエヘヘッと笑いかけてくるラナ。

 早くフィルにもこの笑顔と会わせてあげなきゃ……

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虚弱な国王様が溺愛するは素行不良なWitch様 ひつじとうさぎ @sayu0426

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