第16話 15~16日目 帰国、その後

トラベル小説


 夜中の2時に目覚ましがなる。私と妻の2台のスマホがなり、私ははね起きる。妻はボーッとしながらも起きる。子どもたちは沈没だ。無理やりおこし、私が着替えをさせる。

 2時30分にチェックアウト。3時のバスには半分ぐらい乗っている。ここが始発で、ここからいくつかのホテルをまわる。最終的には満員に近かった。4時に空港に着いたが、早朝の人出ではない。カウンターで荷物を預けて、保安検査へすすむ。朝5時前だというのに、行列ができている。国内線で各地に飛ぶのが朝に集中しているとのことだった。

 保安検査で妻が止められた。手に薬液がつけられ、別の機械の検査にまわされている。妻は青ざめている。何の検査かはわからないが、そこでクリアとなった。妻が

「なにか引っかかったのかな?」

 と言う。

「化粧水とか使ってない?」

「いつも使っているやつだよ。来る時は何もなかったのに・・」

「フロリダだからね。不正薬物の検査は厳しいのかもしれないね」

 妻は納得いかない顔をしていた。

 5時30分に搭乗開始。アメリカの搭乗時刻は早い。機内に荷物を持ちこむ人が多い。この大きさでいいの? と思うような荷物も持ち込んでいる。どうやら預けると壊されると思っている人が多いらしい。たしかにアトランタ空港で、他の飛行機の荷物を降ろしているのを見たが、係員が荷物を投げているのを見た。あれでは壊れ物は確実に壊れるだろうと思った。

 離陸は6時30分。朝の混雑で滑走路手前で待たされていた。6時には動きだしたのだが、離陸まで30分かかってしまった。遅れたわけではないが、だれも気にはしていない。これが日常なのだろう。日本人がせっかちなのかもしれない。でも、ヒューストンには30分遅れて到着した。乗り換えに3時間30分あったのが3時間になっただけで、特に問題はない。

 荷物を受け取り、国際線カウンターに出向く。セルフもあったが、トラブルになることをおそれ、有人カウンターで荷物を預けた。セルフでやってロストバゲージになるよりはよほどいい。

 保安検査で今度は私がひっかかった。手のひらがシートでふかれ、機械にかけられる。OKと言われたが、腑に落ちない。妻がニヤニヤして

「不正薬物をもっていると思われたんじゃないの? 人相が悪いからかな?」

 と言ってくる。

「そんな顔じゃないだろ」

 と返すと

「アメリカ人の感覚だからね。私はそう思わないけど・・」

 という返事。フロリダの仕返しができたと思って、内心喜んでいるのはありありだ。

 出国審査はスムーズだった。出る人にはやさしい国なのである。12時に離陸。ここから13時間のフライトである。座席は来た時と同じ。私と圭祐が通路をはさんで座り、3人席の真ん中に祐実、反対の通路側が妻である。圭祐がトイレに行く時は、私がついていくことにした。行きのフライトで圭祐がなかなかもどってこなくて、心配したからである。どうやらトイレを汚してしまったらしい。でも、帰りのフライトではそんなことはなかった。すこし大人になったのかもしれない。

 機内食はおいしく感じた。無理もない。今日はサンドウィッチしか食べていないからだ。その後、機内は暗くなったが、子どもたちはモニターでアニメを見ている。完全にアメリカ時間のリズムになっている。私は日本時間に合わせようと思い、目を閉じたがなかなか寝付けなかった。

 日付変更線を越えて、もとにもどったことを圭祐に知らせると、

「地球の裏にきたんだね」

 と妙に納得したことを言っている。たしかにそう言った方が子どもにはわかりやすいのかもしれない。

 到着3時間前にランチが出てきた。パン食とオムレツである。私は食べることはできたが、横の3人は眠りに入っていた。CAさんもそういう人たちには素通りである。日本時刻では昼の12時だが、アメリカ時刻では夜の10時。それも夜2時にたたき起こされているので、無理もない。

 午後3時、成田到着。眠い子どもたちをたたき起こして、入国審査へ向かう。ここは無事通過。問題は荷物受け取りで起きた。スーツケースがなかなか出てこないのである。200人ほどいた乗客がどんどん減っていく。3人分のスーツケースは待っている人たちの半分ぐらいで出てきたが、妻のだけが出てこない。子どもたちはベンチに座って寝ている。(ロストバゲージか?)と思い始め、グランドスタッフに声をかけようとしたところで、やっと出てきた。残っているのは5人しかいなかった。妻はぐったりである。税関は素通りし、成田空港のロビーに着いたら子どもたちが

「お腹がすいた~」

 と言い出した。無理もない。1食抜いているのである。そこで回転寿司に行き、日本の寿司を堪能した。やはり日本の寿司はおいしい。フレンチのシェフが握る寿司とは大違いだ。食べ終わると、妻が

「シャワーをあびたい」

 と言い出した。目を覚ますにはいいかもしれない。そこで空港内にあるシャワールームに入った。国際線のチケットを持っていると割引になる。私は圭祐と入り、久しぶりに圭祐の頭を洗うことができた。最近、子どもたちといっしょに風呂に入っていなかったので、これからは増やすことを心で決めた。子どもたちにとっては迷惑だと思うが・・・。

 駐車場に着いたのは夕方6時になっていた。アメリカ時刻で朝の4時。眠気をがまんしながら自宅へと戻る。シャワーを浴びたので、少し眠気は回復していたが、8時に自宅に着いた時は、すぐベッドイン。眠りの世界に即入ることができた。

 翌朝、7時に起床。9時の出社には間に合ったが、1日ボーッとしていた。子どもたちは時差ボケがひどくて、幼稚園を休んだとのこと。

 

 その週末に部長から呼ばれ秋からのマレーシア勤務が告げられた。現地法人と共同して部品工場を作ることになったとのこと。そのプロジェクトリーダーである。帰宅して妻にそのことを話す。

「秋からマレーシアに赴任が決まったよ」

「マレーシアか・・・」

「マレーシアはいやか?」

「クワラルンプールに住むの?」

「うーん、クワラルンプールからは遠いらしい。むしろシンガポールの方が近いかもしれない」

「シンガポールに住めるの!」

 と妻の言葉が明るくなった。

「うん、事務所に寝泊まりが多くなりそうだから週末しか帰れないかもしれないけど、いいか?」

「いいも何も行かないわけにはいかないでしょ。それにシンガポールなら問題ないわよ。マリアにも会えるし」

 マリアとは以前の赴任の際に知り合った現地人である。とても親切な人で、妻にシンガポールを案内してくれた人だ。

 それから3ケ月、3度目の海外赴任に向けての準備は始まった。ひとつだけ、予定にないことが起きた。子どもたちがスイミングに通いだしたのである。わずか3ケ月だが、シンガポールに行ってからも続けられるということで、善は急げということで週に2回通うことにした。今まで習い事などに興味をもたなかった圭祐にとっては画期的なことである。ネクラからの脱却である。妻は涙を流して喜んでいた。その圭祐いわく

「大きくなったら、ダイビングで海に潜るんだ」

 だそうである。


最後に


 フロリダに行った気になられたでしょうか。私は1989年と1993年そして2014年と家族いっしょに行ったことがあります。今回の小説は、その時の体験をもとに書いたものです。ディズニーワールドでヨーロッパから来た知人と会ったことはまさに奇跡でした。リゾートクラブで娘がダイビングや空中ブランコをしたのも事実です。今はそのリゾートクラブはありませんが、懐かしい思い出です。行き帰りは大変ですが、一度は行ってみる価値があると思います。ただし、ホームレスにはお気をつけください。私はLAのハンバーガーショップでたかられた覚えがあります。現金は見せない。これが鉄則です。         

 次回作はガラッと雰囲気が変わり、「剣士 千佳」という作品です。中学生女子がいじめに耐え、剣の道を深めていくという話です。今までにない作品ですが、現代チャンバラと思って読んでいただければと思います。ちなみに私は剣道5段です。               飛鳥竜二


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フロリダへ行こう! 飛鳥 竜二 @taryuji

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