第15話 14日目 またもやエプコットへ

トラベル小説


 ディズニーワールドの朝食はサンドウィッチとコーヒーのみ。子どもたちはなんか変な味のジュースである。

「リゾートクラブの朝食がよかったな~」

 と子どもたちが言っている。

「ごめんね。ゆっくり食べていたらアトラクションに間に合わないからね」

 と妻が言い訳をする。


 1時間かけてエプコットへ行く。私がやっていた朝ドライブぐらい走るのである。子どもたちは慣れたもので、静かにしている。エネルギーをためているのだそうだ。

妻と顔を見合わせ、(1週間で大人になったね)と思ってしまった。

 エプコットに入り、まずはソアリンへ。平日の朝なので、行列は短い。30分ほどで乗船。最初にフワッと浮くのが心地よい。そこからハンググライダーに乗った感じでアメリカ旅行ができる。ビル街を抜ける時はスーパーマンかスパイダーマンになったみたいだった。子どもたちに

「スーパーマンみたいだったね」

 と言うと

「なにそれ?」

 と返された。今の子どもたちにはアンパンマンと言った方がイメージにあうのかもしれない。

 次はテストトラックというアトラクションである。大きなゴーカートで15人ほどが乗れる。待っている間に自分の好みに合わせたマシンが設計できるというのがおもしろかった。いざ乗車すると、飛行機みたいにダッシュ。シートにおしつけられる。最高速度は55マイル(90km程度)というが、瞬時にそのスピードまであがるのは迫力がある。そして大きなカーブでUターン。ほとんどスピードは落ちない。最後は急ブレーキでストップ。まさにテストコースを疾走するクルマだった。圭祐は喜んでいるが、祐実は青ざめていた。身長制限ぎりぎりで通過したからかもしれない。

 ミッションスペースに乗ることもできた。ソアリンと似ているが、これは宇宙船である。宇宙から地球を見て、地球にもどってきた時に長靴型の半島を見たり、ビーチの上を通過し、最後はフロリダのケネディ宇宙センターに到着するというものである。これには祐実も喜んでいた。

 そこで、昼近くになったので、子どもたちが

「お腹がすいた~!」

 と騒ぎ出した。それで、日本館にある鉄板やきに行こうとしたが、妻が

「ダッフイとのミート時間まであと10分だわ」

 と言い出し、湖の近くにあるミーティングポイントにかけ足となった。何とか間に合って、列の最後尾に並ぶ。スタッフがそこで入り口にロープをかけた。ぎりぎりセーフだった。妻と子どもたちはダッフィーと4ショット。私はカメラマンである。お腹がすいているのも忘れて喜んでいる。

 写真を撮り終わって、お腹がすいているのを思い出した。近くに湖を横断するボートがあったので、それに飛び乗った。鉄板焼きのお店は平日ということもあり、比較的すいていて並ぶことなく、席に案内された。

 コックが見事な手さばきでシーフードややきそばを焼いていく。今日は女性コックである。40才ぐらいだろうか。話も軽妙で子どもたちもにこやかだが、祐実はそわそわしている。妻が

「どうしたの?」

 と聞くと、

「今日もアイちゃんに会えるかな?」

 と言うので、私は思わずふきだしそうになってしまった。すると女性コックが

「アイちゃんって友だちですか?」

 と聞いてくるので、妻が

「10日前にここに来た時に、偶然会ったんです。アイちゃんはヨーロッパから来てたんです」

 と応えると

「それは奇跡ですね。でも、今日もなかなか会えない人に会えるかもしれませんよ」

 と話す。何のことかわからなかったが、食事が出来上がり、おいしく食べていると、その奇跡が起きた。店に和服を着たミッキーが現れたのだ。祐実はアイちゃんに会った時以上に興奮して、ミッキーに近づいて握手をしてもらった。席に帰ってきた祐実はうれしくて涙目になっている。ミッキーは風のごとくいなくなったが、女性コックいわく

「ミッキーは瞬間移動できますからね。今は別のところにいると思いますよ」

 と言ってくれた。

 食べ終わって、ホール係の女性に会計を頼み、クレジットカードを渡した。しばらく戻ってこなかったので心配したが、時間がかかってもどってきた。カードとレシートをもらい店をあとにした。

 その後、いくつかのパビリオンを見て、最後にスペースシップアースを見ることにした。エプコットの入り口にある50mの球体である。いわばエプコットのシンボルである。ゴンドラみたいな乗り物に乗って、球体の中をぐるぐる回る。そこには人類の過去から未来までの世界がオーディオ・アニマトロニクスで描かれている。スリル感は何もないが、エプコットの理念がよくわかるアトラクションだった。

 夕食はホテルのレストランでとった。夕食時にはシェフがいて、あたたかい物がでている。ビーフシチューとハンバーグがおいしかった。コーヒーだけは煮詰まっていておいしくない。

 そして、部屋にもどってチェックアウトの準備だ。明日朝6時の飛行機に乗らなければならない。それで3時の空港行きのバスを予約してある。2時起きをしなければならない。ここが格安航空券のつらいところだ。

 寝ようとする9時ごろ、部屋の電話がなった。でると女性の声で日本語である。

「夜におそれいります。日本館の鉄板やきでマネージャーをしている中村と申します。加藤様でいらっしゃいますか?」

「はい、加藤ですが・・どういうご用件ですか」

「実は、お願いがありまして電話をさせていただきました」

「はっ、どういうことですか」

「実は、こちらのミスでクレジットカードの決済にミスがありました。そこで、明日もう一度ご来店いただけないでしょうか」

「えー! 明日の飛行機で日本に帰るんです。それは無理です」

「そうですか、それではまことに申し訳ないのですがカードの番号を確認させていただけないでしょうか」

「電話でですか?」

「はい、まことに申しわけありません」

 と低姿勢であったし、金額の間違いもなかったので、番号を知らせた。それで処理できるという。カード社会の恐ろしさである。来月のカードの請求書はじっくり見ないといけないと思った。(後日送られてきた請求書には問題なかった)

 それにしても、どうして部屋番号がわかったのだろうか。名前はわかっていたようなので、系列ホテルの宿泊者名簿を検索したのだろうが、プライバシーも何もあったものではない。情報社会の裏側を見た気がした。

 14日目終了。


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