第4話 白い鳥

ザンッ!


何か音がしたと思ったら、リスもどきの姿が消えた。窓から見える範囲には見当たらない。


しばらく様子を見るためにその場にじっとしていた。


白い空間の中でじっと蹲っていて、気がついたことがある。


おそらくこの白い空間は、「六華」の時のものが取り出せるのと同じように、私が発生させた不思議事象ではないだろうか。


もしかしたら野盗に襲撃された時も、無意識のままこの白い空間に逃げ込んでいたのかもしれない。


それならちょっと、納得がいく。きっと私が白い空間の中にいたから、使用人達は私を見つけることができなかったのだ。


執事のライルは私に、倉庫部屋を経由して森へ逃げろと言ったのだから、倉庫部屋に私が倒れていたのなら見つかるはずだ。

もしもライルが怪我とかをして、私を探すことができなかったとしても、他の使用人だって倉庫部屋に誰も来ないなんとことはないはずだと思う。


戸締りをして、屋敷を後にするなら、通用口がある場所は確認するはずなのだ。

おそらく使用人たちは倉庫部屋には来たけれど、その時には私は白い空間の中にいたから誰も見つけられなかったのではないだろうか。


「‥‥そうか。『隠れたい』って思ったからここに来ちゃったのか。」


浄水器だとか「六華」のものを取り出した後にしまうときに、「隠す」というのを意識している。それと同じように、ここは私を「隠す」場所ってことかも。


「って‥‥!」


気が緩んだのか、再び森の中に戻っていた。

そして目の前には、丸っこい白い鳥がいた。嘴でリスもどきを突いている。リスもどきは地面に転がっていて、ぐったりとした様子のまま動かない。


白い鳥がこちらに顔を向けた。


「ピ!」


黒いつぶらな瞳を向ける。


「わ、かわいい‥‥。」


白いふんわりとした羽毛をしていて、ぬいぐるみみたいだ。


ピョン!


白い鳥が、跳ねるようにしてこちらに近づいてきた。ギクリとして後ずさる。森にいるってことは、この白い鳥もモンスターなのじゃないだろうか。


「ピ!」


しかし、鳴き声はかわいい。ちょっと首をかしげる仕草もかわいい。

だけど、リスもどきを突いていたのだ。もしかして、リスもどきをやっつけたのは、この白い鳥なのではないだろうか。


「ピ!」


また、一歩近づいてきたので、硬直したまま必死で後退りする。すると白い鳥は私の肩掛け鞄を突いた。

いつの間にか肩から下ろしていて、地面に転がった状態だったのだ。

白い鳥が私のカバンに頭を突っ込んだ。


「ヒェ〜‥‥。」


白い鳥が鞄から紙袋を引っ張り出した。そして私の方を見た。


「ピ?」


「え?それが欲しいの?」


「ピ!」


白い鳥が引っ張り出したのは、焼きたてパンのチーズサンドだ。そのチーズサンドが入った紙袋を欲しいとでもいうように私に見せてくる。


「よ、良いよ。食べちゃっても。」


「ピ!」


私が食べて良いと言った途端、嘴を使って、紙袋からチーズサンドを取り出すと食べ始めた。

後から考えると、白い鳥がチーズサンドに集中しているうちに逃げるという選択肢もあったのだろうけれど、つい、じっと見てしまった。

やがてチーズサンドを食べ終わった白い鳥が再びこちらを見た。


「ピピ!!」


白い鳥が一際大きく鳴いたと思ったら、一瞬白っぽく発光した。光った瞬間、何が起きたか分かった。


「うわ!餌付け?」


私は白い鳥をテイムした状態になっていたのだ。なんとなく繋がりがあることを感じる。


「ピ!」

「え、名前?うーん、どうしよう。」


何となく、白い鳥が主張する内容はわかる気がした。名前をつけて欲しいと言っているようなのだ。


「えーと、モコモコだから…、というのと『ロコモコ』でモコちゃんでどう?私がロコで、二人合わせて『ロコモコ』!」

「ぴ!!」


「六華」は「りっか」と読むのだけど、「ロッカ」って呼ぶ人が出て、「ロコちゃん」」と呼ばれるようになったのだ。

シャーロットである私は母から「ロッティ」って呼ばれていた。「ロッティ」も「ロコ」に近いんじゃないだろうか。


モコちゃんは、私が名前をつけた途端、再び白く光った。そして、シューッと手のひらサイズ位に小さくなって、パタパタとこちらに向かって飛んできて私の肩に止まった。


かわいい。


「ロコちゃん、よろしくね。」

「ピ!」


モコちゃんが満足そうな声を上げた。

モコちゃんを肩に乗せて歩いていると、どうやらモンスター除けの役割を果たしてくれるらしくて、そのあとは屋敷の裏口に戻るまで一度もモンスターに遭遇することはなかった。

もしかしてモコちゃんが強いからなのだろうか。‥・まさかね。森の仲間として意思疎通ができているのかな。


裏口から屋敷の敷地内に入るときに何か薄い膜を通り抜けるような感触があった。


(結界ピ。)


頭の中の中に響くような声がした。


「え?モコちゃん?」


「ピ!」

「喋れるの?」

(念話ッピ)


もこちゃんは、私の従魔になったので念話で意思疎通が取れるようになったようだ。そして、この屋敷の周りには結界があって、モンスターが屋敷の敷地内に入りこめないようになっているんだって。

モコちゃんもモンスターだけど、私の従魔だから結界を通過できるようになったらしい。


「すごーい!」

「ピ!」


私の肩に乗ったモコちゃんにそっと触れてみると、ふわふわですごい暖かい。


「ふふ。これからよろしくね。モコちゃん。」

「ピ!」


ちょっと危険な目にあったけど、結果として仲間ができた。話しをする相手ができたことも嬉しい。


「モコちゃん、パンが好きなの?」

「ピ!」

「そうなんだね。さっきのパンの残りがあるよ。食べる?」

「ピ!」


シャーロット・マイヨール・ミソロル。屋敷に一人で置いてけぼりにされたままだけど、仲間ができて、今とっても楽しいです。

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