51 誕生日
今日、3月27日は私の誕生日だ。
文音から「お誕生日おめでとう碧!」というメッセージが0時ジャストに届き、夜寝ると、私は幸せな夢を見た。
零一くんと結婚する夢だ。
白いタキシードを着た零一くんがウェディングドレスを着た私の手を取り、神父がなにやらと言い、私と零一くんはお互いに誓い合い、そして口付けを交わし合う。
そこで目が覚めた。
私は目覚めて、こんなパラレルワールドならばいくらでもあってくれと思うばかりだった。
朝8時ちょうどに零一くんからも祝いのメッセージが届いた。
「18歳のお誕生日おめでとうございます碧さん!
今日のお誕生日会、行くのが楽しみです」
「はい。楽しみにしてくださりありがとうございます。午後、ウチで待っていますね」
零一くんにメッセージを返すと、操からもメッセージが来た。
「ハッピーバースデー碧! これで晴れて18歳、成人ですね」
「ありがとうございます操、私も今日から成人です! これからも仲良くして下さい」
「はい。それはもう!」
操とは今後も文音同様に仲良くしていきたい。
「碧、今夜作るメニューだけど、パスタに唐揚げにポテトサラダにしようと思うのだけれど、零一くん嫌いなものとかあったりしないわよね?」
「はい。問題はないかと。カフェインなど心臓に負担のかかるものでさえなければ……」
「そう! じゃあ安心ね。
ケーキはお父さんに予約してあるのを受け取ってきて貰えるように頼んだし、準備は万端よ。零一くん、早く来ないかしら?」
「朝から気が早いよ母さん」
「そうかしら? さぁ鶏肉に下味をつけて、ポテトサラダに入れる卵茹でちゃわないと!」
「下味は私がやるよ」
「そう?」
「うん、生姜と醤油とお酒でしょ?」
「えぇ! じゃあ任せるわね」
私はステンレス製のバットに鶏もも肉を移し替えると、生姜チューブから生姜をまぶし、そして醤油を全体が軽く浸るくらい、そして料理酒を少々加えた。
そしてバットにラップをして冷蔵庫で下味が付くまで寝かせる。
「母さん、パスタは何パスタにするつもり?」
「簡単にペペロンチーノにしようかと思うのだけれど、どうかしら?」
「うん。良いと思う」
「じゃあ決まりね!」
そうして朝から少しずつ料理の準備を始める私達だった。
∬
午後3時頃、零一くんが家へとやってきた。
「こんにちは! 碧さんお誕生日おめでとう!
これつまらないものだけど……」
菓子折りを手渡してくる零一くん。
「ありがとうございます! さぁ入って下さい」
「うん! お邪魔しまーす」
零一くんが家へと入ると、ダイニングキッチンにいた母さんがリビングへと出てきた。
「いらっしゃい零一くん! 今日はゆっくりしていってね」
「はい! お邪魔します!」
そうして母が料理の最後の準備を進める中、まだケーキを持った父が帰ってくるまで時間があったので、私は事前に用意していた映画を零一くんと二人、リビングで見ることにした。
飲み物を用意して、二人して並んでソファに腰掛ける。準備は万端だ。
私はリモコンでサブスクの映像配信サービスを立ち上げると、映画を再生した。
映画は船が沈没する最中のラブストーリーをチョイス。
「ずいぶんと古い映画だね?」
「はい60年くらい前のものです。気に入って頂ければ……!」
「うん、それじゃ見ようか」
そうして二人で肩を寄せ合いラブストーリーを見ていると、なんだか恋人らしいことをしているようで恥ずかしくなってきた。
ずっと見ているとラブシーンが始まり、私もいつか零一くんとこんなことをするんだろうかと考え、顔が赤くなるのを感じた。
すると零一くんがラブシーンを見ながら口を開く。
「ぼ、僕らは婚前交渉否定派なのでこういうのは結婚してからですね……!」
「はい。そのように思います……!」
態々口に出さなくても私だって分かっています零一くん! と言いたいところだったがぐっと堪えた。きっと零一くんもラブシーンを見て気まずくて言おうと思ったに違いないからだ。
3時間以上ある映画も、二人で見れば時間が早く進んでいるかのようにあっという間だった。
エンディングが始まったところで父が帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえりなさい父さん、ケーキは?」
「ちゃんと受け取ってきたよ」
父がそう言ってケーキの箱を掲げる。
そして零一くんをリビングに見つけた父が「いらっしゃい零一くん」と挨拶をすると、零一くんも立ち上がって「お邪魔してます!」と応じた。
そしてエンディングの流れるTVを見て父が私に、「何を見ていたの?」と聞いてきた。
「60年くらい前の沈没ラブストーリー」
「あーあれかー。父さんや母さんが若い頃はまだTVで流してたりしたけど、今じゃからっきし見ないねぇ。良かったでしょ?」
「はい。名作でした……」
私が父に感想を述べると、母が「お父さんも帰ってきたし、ご飯にしましょ!」と私に言ったので、私はリビングにいる零一くんを呼んだ。
「零一くん。ご飯です! ペペロンチーノと唐揚げとポテトサラダなのですが、問題ありませんか?」
「うん、全然問題ないよ。むしろ大好物ばかりだよ」
言いながら零一くんがダイニングキッチンに足を運び、食事が始まった。
「この唐揚げ……すごく美味しいですね」
「あらそう?」
「はい。すごく味が染みてて……」
「下味が重要なのよ? 碧がやったのよね?」
「はい、生姜に醤油、酒と入れただけですが……」
「そうなんだ! すごく美味しいよ!」
零一くんは唐揚げをパクパクと食べている。
「でも食べ過ぎないでくださいね零一くん。まだケーキが残ってますから」
「そっか! 碧さんの唐揚げ、美味しくて食べ過ぎちゃいそうだったよ」
そうしてパスタと唐揚げポテトサラダの3点セットを食べ終え、ついにケーキの出番がやってきた。
父がケーキに蝋燭を立てて、全ての蝋燭に火を点ける。
「さすがに18本って訳にはいかないけど……」
そして母が歌い始めた。
「ハッピーバースデートゥーユー~♪」
零一くんと父も母に乗っかって歌い始める。
「ハッピーバースデーディア碧~、ハッピーバースデートゥーユー♪」
「お誕生日おめでとう碧~」
「18歳おめでとう碧!」
「18歳のお誕生日おめでとう碧さん!」
母、父、零一くんと次々に私を祝ってくれる。
私が照れながら「ありがとうございます」と言うと、拍手が鳴り響いた。
蝋燭の火を消し、母がケーキを切り分けたところで零一くんがバッグからがさごそと何かを取り出した。プレゼントだ!
「これ、僕からのプレゼント……実は日向さんとか矢張さんにも相談したんだ……!」
小さい箱のようなものを手渡される。
中身はなんだろうか? すごく軽い。まさかギフト券とかじゃないだろう。
「わぁ……! ありがとうございます。開けていいですか?」
「うん」
「これは……ゲームソフトでしょうか?」
「うん、斉藤さんの会社――レイクスタのRPG最新作だよ。実は矢張さんもこのゲームに出演してるらしいんだ……! えっと、ごめん持っていたら」
「まぁ操が……? いえ、持っていません。ソフトは持ってはいませんが……しかし……」
ウチには1年前にでたばかりの最新ゲーム機が無かった。これはそのハード対応ソフトだ。どう反応したものか……。
そんな時、「あぁ……零一くん僕らと気が合うね!」と父がドヤ顔でプレゼントを取り出した。かなり大きい箱だ。
「これ、父さんと母さんから碧に。まぁ開けてみてよ碧」
「うん。開けてみるね」
プレゼント包装されているそれを開ける……と、なんと最新ゲーム機が出てきた。
「これは……欲しかったやつです!」
ずばり欲しかったやつだ。
ゲーム機はお年玉でも購入には足りず、入学祝いで父母にねだろうかと思っていたのだ。
「実はうちにはまだハードが無かったんだよ零一くん。でも僕らはソフトは用意してなくてね!」
「そうだったんですね……!」
「零一くんもソフトありがとうございました! やりたかったやつなので、とっても嬉しいです!」
私はきっと今ホクホク顔をしていると思う。
めちゃくちゃ欲しかったゲーム機とソフトが一挙に手に入るなんて幸せ過ぎる。
「危なかったけど、喜んで貰えて良かったよ!」
零一くんは苦笑している。
もうちょっとで失敗プレゼントになってしまうかもというところだったので、仕方ないかもしれない。
プレゼントを貰い、私はきっと満面の笑顔でケーキに齧り付いた。
「ケーキもおいしいです!」
「それは良かったわ!」
母が選んだお店で買ってきたということで、母が喜びの声をあげる。
そうしてケーキを食べ終えると、父と母が「あとは二人っきりでどうぞ」と良い、二階へと上がっていった。時刻は夜8時になろうとしていた。
「今日はお誕生日会に招待ありがとう! 僕の誕生日じゃないのにとっても楽しかったです」
「いえ……私も零一くんに誕生日を祝って貰って嬉しかったです」
「そっか、それは良かったよ!」
そうして言葉が続かず、私は幸せ過ぎて確認がしたくなった。
「「あの!」」
言葉が被る。
「「どうぞ!」」
またしても奏でられる二重奏。
「いや、どうぞ碧さん……」
「それでは……あの、零一くん。婚約解消しようだなんて言わないですよね?」
私はゆっくりと言った。
「言わないよ! 言うわけがない!!
僕は碧さんのことが大好きだから絶対に言わないよ!
でも……僕も同じように聞こうとしてたかな……」
「え……? 零一くんもですか?」
「うん。なんだか幸せ過ぎて少し怖くなったっていうかさ……」
「それ、私も同じです……!」
二人して見つめ合う。そしてなんだかおかしくなってきて笑った。
「私、今朝零一くんと結婚する夢を見ました」
「本当に?」
「はい。本当です」
「そっか。現実になると良いね。そんなパラレルワールドなら大歓迎だな」
零一くんは以前話した夢の話を覚えていたようだ。
私も全く同意見である。
「でも、なんだか婚約って結局は約束でしかなくって怖いじゃないですか」
「分かる。僕らの婚約には、法的拘束力とかそういうのはないからね」
役所に婚約届けを提出したわけではないからだ。
私達の結婚は両家の口約束でしかない。
「そうですよ! 東王大学に行ってモテモテになる零一くんが目に浮かんできてなんだか心配になってしまいます」
「それはこっちも同じだよ! 大学に行って僕以外に好きな人ができたりするんじゃないかって心配だよ」
お互いの意見をぶつけ合い、そしてまた見つめ合って笑い合う。
「じゃあお互いに確認しよっか?」
唐突に零一くんがそんなことを言い出した。
「はい?」
「ほら、前に僕の部屋でしたみたいに……まずは僕からするね!」
「あ……!」
私の唇に、零一くんの唇が重ねられた。
「大好きだよ碧さん」
真剣な表情で零一くんが言う。
「不意打ち酷いです……!」
「ごめん、じゃあもうやめとく?」
「いえ……確認はしっかりしなきゃダメじゃないですか?」
「そうだね……」
そして次は私から、零一くんの唇に私の唇を重ねる。
それからただ一言。
「大好きです零一くん」
と私は言った。
コンキン! 真面目で丁寧な私の恋 ~今どきの高校生はマッチングアプリだって使う~ 成葉弐なる @NaruyouniNaru
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