50 合格発表
「おはよう碧さん!」
「おはようございます零一くん」
今日は3月8日。東王大学の合格発表の日。
喫茶店で零一くんと待ち合わせていた私は、零一くんを見つけてほっと一安心する。しかし本番はこれからなのだ。気を緩めてはいけない。
『一緒に合格発表を見てくれませんか?』
そう零一くんに誘われたのは昨夜のことだ。
私はそれに、『私なんかがご一緒していいのでしょうか?』と返すと、零一くんからは『是非……碧さんじゃなきゃダメなんです』と返事が来た。
私は不安ながらも『私なんかでよければ……』と承諾の意を返した。
だから今日、こうして一緒に東王大学の合格発表を見に来たのだ。
私は心配になって確認する。
「受験番号の控えはお持ちですか?」
もし受験番号を忘れていたりしたら、本当に合格しているのか分からなくなってしまう。
しかし、過ぎた心配だったようで、零一くんからはすぐに返事があった。
「うん、大丈夫。なんだか碧さんが僕のお母さんみたいだな」
零一くんが笑う。
まだあと発表時間まであと10分ほど時間がある。
私と零一くんの二人は喫茶店に入る。
正午付近の喫茶店は混み合っていたものの、なんとか隣り合う二人分の席を確保。
私はカフェラテを零一くんはデカフェのコーヒーを注文した。
そして私は零一くんに、もしもの時のことを聞いておくことにした。
「零一くん……もしも、もしもですよ? もしも不合格だったらどうしますか?」
「うーんどうしようかな……碧さんに当たるわけにも行かないし、せっかく来て貰ったのに恥ずかしいし……」
零一くんは気まずそうに鼻の下を右手で擦った。
「あの……私、別に当たって貰っても構いません……!
もしもの話ですがその時はいくらでも付き合いますから……!」
私が一方的にそう言い放つと、零一くんはぽかんとした表情で私を見た。
「それは有り難いような申し訳ないような……まぁ考えておきます……!」
「はい。ご利用をお待ちしています……!」
訳も分からずそう返事をした私の顔はきっと赤くなっているに違いない。
「もし東王大学に不合格だったら、素直に宗慶大学に行くから大丈夫だよ。落ちてたら悔しくて数日間は夜泣いて過ごすかもだけど……! ははは、その時には碧さんはお家だよね」
夜泣いて過ごしている時に一緒にはいられない。
辛い時に役立てないなんて、私はなんて無能なんだろうと思ってしまう。
「はい。夜はさすがに……零一くんの家に泊まり込むわけにもいきませんので……」
「だよね……はは」
そんなことを話していると時間になった。
「じゃあ見ようか……!」
「はい……!」
そして零一くんのスマホで東王大学理科一類の合格発表が掲示されているホームページに飛んだ。
「A40239。これが僕の受験番号だよ」
「はいA40239……239ですね」
受験番号A40001から番号が記載されている。
ひとまず1列目の合格発表の一番下へ行く。
するとA40121の合格者が45番目で1列目の最後だった。
1列辺り45人の合格者がいるということだ。
零一くんの受験番号まで、あと118人の受験者がいる。
「緊張してきた……」
スマホを触る零一くんの指が震えている。
「大丈夫です。私が付いてますから!」
何が大丈夫なのかは私自身分からないが、私は零一くんを勇気付けた。
大丈夫。零一くんは受験は上手く行ったと言っていたではないか。
二次試験もばっちりだったのだ。
きっと合格に違いない。
違いないのだ。
「きっと2列目か3列目に載ってるよね……」
「はい。恐らくは……」
「じゃあ、2列目先頭から見ていこうか……!」
「はい……! 239……239……お願いします!」
私が神頼みしつつ、零一くんがスマホの画面をスクロールさせる。
A40125、A40129……A40153。
一気に20人以上飛んだ……!
「わー……ここらへんの人たちは可哀想だなぁ」
「はい……一気に20人以上も飛びました……」
「僕じゃなくて良かったよ……! ごめんちょっと一口飲むね」
「はい……どうぞ! ゆっくりでいいので」
零一くんがデカフェのコーヒーを一口だけ口に含み、ゆっくりと飲み込む。
その動作一つ一つをじっくりと見ていた私。
なにやってるんだろう。どうやら私も緊張してきているらしい。
「じゃ、再開するね……! A40154、A40155、A40156……」
「3連番ですね」
「うん。この周辺の人達は頭良いらしい」
そうして2列目の最後、90人目の合格者の番号までゆっくりとスクロールした。
90人目はA40217。未だ零一くんの受験番号は出てきていない。
「いよいよか……!」
「はい。いよいよです……!」
次の3列目で間違いなく合格か否かが分かる。
「行くよ……!」
3列目。画面内に5人の合格者の番号が表示される。
A40219、A40221、A40227、A40229、A40232。
「うわーあと7人しかいない……!」
「大丈夫です、きっと大丈夫……!」
零一くんが緊張して冷や汗をかいていたようで額を拭う。
「じゃあ行きます……!」
「はい……!」
次に一人分だけスクロールした。
A40233。
そして間髪入れずにもう一人分スクロール……A40234。
「うおー連番か。同じ会場で受けた人だと思うけど頭いいなー」
「零一くんも頭良いから大丈夫ですよ!」
「うん……!」
そして次にスクロールした。
出てきた受験番号は、A40239……。
「やった……!」
「A40239! 間違いありません239、239です!
零一くん、合格おめでとうございます!」
零一くんが左手でガッツポーズし、私が零一くんの右腕に捕まるように受験番号を読み上げる。
「うわーめっちゃ緊張したぁ」
「はい。私もとても緊張しました……! でも本当に良かったです!
改めて、東王大学合格おめでとうございます零一くん!」
「うん……ありがとう!」
私は笑顔で零一くんの合格を祝う。
「東王大学生になる気分はどうですか?」
「うーん。夢だったから、ただただすっごく嬉しいよ」
「そうですか……! 良かったです」
「今から講堂に行ってみます? 先輩たちが合格を祝ってくれるかもしれませんよ」
私が茶目っ気でそう提案すると、零一くんは「いや、いいって……それにWEBでの発表だけだから人いないよきっと……」と私の提案を笑顔で断る。
「それよりも……! ほんと、碧さんにはお世話になりました!
この学業成就のお守りもきちんと効果発揮してくれて、最高のプレゼントだったよ!」
零一くんが言いながら、私が渡した学業成就のお守りを私の眼の前にぶら下げる。
「はい……効果抜群で良かったです」
私は精一杯の笑顔で微笑み、零一くんの合格を言祝いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます