49 卒業式
3月5日。卒業式。
卒業式は、学園長の浮気という内輪の不祥事があったにも関わらず、特に変わらず執り行われた。今のところ、零一くんのお父さんが学園長職を退く気配はない。あくまで今のところは……。
「以上で、令和35年度卒業式を終わります」
女性教諭のアナウンスが終わり、私達は体育館を出た。
クラスへと戻り、文音と卒業証書をタッチする。
「いぇーい! 卒業おめでとう碧!」
「はい。おめでとうございます文音」
そして二人で記念写真を撮影する。
「碧、こんなときくらい笑う笑う!」
「はい!」
私は出来得る限りの笑顔を作ると、文音が撮影した。
「あはは碧の笑顔ぎこちなくて笑うー。女優なんだから笑顔くらいばっちり決めなよ!」
「それとこれとは別です!」
私は文音を小突いて笑い合う。
演技のときはきっちり出来ていると思うので、普段はノーカウントにして欲しい。
「碧はこれからどうする?」
「はい。Aクラスへ行って、操と零一くんに合流しようかと……文音も一緒にいかがですか?」
「お、いいねー。んじゃ早速行こっか」
文音に率いられるように、私達は鞄を持つとAクラスへと向かった。
「矢張さーん。上月くーん。一緒に校門前で写真とろ写真!」
Aクラスに入って開口一番、文音が操と零一くんを誘う。
どうやらAクラスでは集合写真が1枚取られた後だったようだ。
さすがは結束力の高いAクラス。我がEクラスとは違う。
「碧! それに日向さん。ご卒業おめでとうございます」
「うんうん、おめでとおめでと!」
「はい。おめでとうございます操、零一くんも」
「うん、ありがとう! 皆卒業おめでとう! 校門前いいですね、行きましょうか」
操と零一くんが応え、私達は校門前へと移動した。
すると、父と母が私を待ち構えていた。
「碧、卒業おめでとう!」
「うん。ありがとう母さん」
「僕からもおめでとう、碧」
「父さんもありがとう」
両親と挨拶を交わすと、「どれ皆を撮ってあげよう!」と父が言い、零一くんが「よろしくお願いします!」と微笑む。
私が自分のスマホを父に預け、私、文音、操、零一くんの4人が校門前に並ぶと、父さんがスマホでシャッターを切った。
最初は証書の入った筒を軽く掲げて写る。
そして「次はポーズありでー」と父が言ったので、各々思うままのポーズをした。私は胸の付近で小さくピースサインを作り、文音が額の横で豪快にピース。操が文音に習い、零一くんが卒業証書の入った丸筒を頭の上に大きく掲げた。
写真を撮り終わり、私が「後で皆に共有しますね」と言うと、文音が「叔父さん、今度は女子3人でお願いします!!」と言ったので、父が右手でOKのサインを出す。
女子3人で文音の考えたポーズで写真を撮ること三回ほど、私が「これくらいでいいでしょう?」と言い、撮り終わる。
すると文音が「んじゃ今度は上月くんと撮ってあげるから! ほら並ぶ並ぶ!」と言われ、私と零一くんが横に並べられた。
父、文音、操の三人掛かりでシャッターを切る。
私と零一くんは恥ずかしさで一杯になりながら、懸命に普通の被写体であらんとした。
そして二人一緒の写真を撮り終わると、零一くんが「せっかくだから親御さんと撮ってあげる」と言ったので、私と父、母とで並んで私のスマホで1枚写真を撮ってもらった。
すると、文音の親御さんと操の親御さんとがやってきた。
そして私と零一くんとで親子写真を撮ってあげることになり、二人で操親子と文音親子の写真をばっちり撮影した。
そんな時、きらりさんの姿がぽつりと目に入った私は、きらりさんの腕をぎゅっと抱えると校門前に連れてきた。
「零一くんときらりさんとで撮ってあげます!」
私がそうして零一くんにきらりさんの横へ並ぶよう指示。
零一くんが素直に従って、お母さんと一緒の写真を一枚ぱしゃりと撮った。
親子写真も互いに取り終えたところで、私の父が、
「さて、そろそろ順番が詰まってるから他に譲ろうか」
と宣言し、私達は校門前のベストポジションを他の生徒たちや親御さんに譲る。
私達女子3人は最後の別れの挨拶をすることにした。
「文音、操、とりあえずはお別れです。高校生活楽しかったです。
また機会があれば会いましょう」
私が最初に別れを告げると、文音が「みんな都内の大学だから会う機会はいくらでもあるよね!」と言い、操が「はい。またお二人をお誘いしますね!」と応じた。
「それじゃあ、最後は『ばいばい』で締めよっか!」
文音が提案し、3人一斉に「「「ばいばい!」」」と別れの挨拶をすると、各々の親の元へと散っていく。
そして私達親子と零一くん親子が残された。
母がきらりさんを気遣ってか声をかける。
「きらりさん、零一くんご卒業おめでとうございます」
「ご丁寧に……ありがとうございます。
先日は碧ちゃんにも恥ずかしいところをお見せして……きっとお耳に入っているでしょう。
ですが碧ちゃんと零一の婚約は今後も継続していくという話になったので、安心して下さい祐奈さん。
今後とも零一と共によろしくお願い致します」
きらりさんが深々と頭を下げる。
「いえいえ、こちらこそ! 大変でしょうに何も出来ず申し訳ありません……」
と母がしきりに頭を下げていた。
そんなやり取りを横目に、私は零一くんと高校生活最後の会話をする。
「零一くん、これで高校生活最後ですね」
「あぁ……うん。そうだね」
私はちょっぴり零一くんをからかいたくなって、「高校の制服をこれで見納めですよ! どうですか?」と聞いてみた。
「それは……とても似合ってるよ碧さん」
と、零一くんは頭を掻きながら恥ずかしそうに答える。
「ゆくゆくはハリウッド女優になる私の最後の学生服ですから、しっかり目に焼き付けておいてくださいね!」
「あぁ……ばっちりだよ」
「フフフ」
私が笑い、零一くんもそれに釣られて笑顔となる。
こんきん法が施行されてからずっと卒業できるかが不安だったが、無事晴れて高校を卒業出来た。半年前には思いもよらぬ怒涛の展開だったけれど、本当に零一くんに出会えて良かった。
私は最高のパートナーに出会えている。
そんな想いで私の高校生活最後の日は過ぎていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます