危機一髪
紅野素良
走馬灯
俺の親父はそこそこ名の知れた海賊だった。
そんな俺が海賊を目指すのは、至極当然のことだ。子は親の背中を追うものなのだから。
成人を迎えた俺は、田舎の小さな村で仲間を募り海に出た。
出航前夜に見た、ベットで眠る母親の背中を忘れることは無いだろう。
海に出てからの毎日は最高だった。
毎日、浴びるように酒を飲み、好きな時間に眠る。
俺は少しでもかっこよく見えるよう、黒い髭を伸ばした。
仲間たちからは不評だったけれど………
もちろん酷いこともしてきた。
酒が切れれば、島に上陸して村から奪い去る。その過程で人を殺め、村を破壊したこともあった。
そんなとこをしていれば、俺らの首に賞金がかかった。
俺らはたいそう喜んだ。賞金首になってからが海賊だと思っていたからだ。
でも、俺らは甘かった。
田舎から出てきた俺らは、賞金稼ぎにとって、鴨が葱を背負って来るみたいなものだ。
俺らの何倍も強い奴はゴロゴロいて、井の中の蛙だった、田舎者の俺らはすぐに捉えられた。
船長の俺は見せしめの意味を込め、王様の前で余興として殺されるのだ。
方法は特殊で、樽に入れられた俺に、恨みのある人物が剣を刺していく。と言ったものだ。なかなか悪趣味だろ?
え?なんで死ぬってのにそんな呑気なのかって?
それはもちろん助かる手立てがあるからさ。
この樽に刺された剣は、一つだけが俺に届くようになっている。そして、ただ死ぬだけじゃ面白くないと、助かる方法も残されている。勝利の約束されたゲームより、勝つか負けるか分からないゲームの方が面白いっていうことらしい。
この樽には1箇所だけ、刺されると俺が飛び出るよう設計された箇所がある。そこに刺すことが出来れば、俺はこの樽から抜け出すことが出来る。ということだ。
俺は生き残った仲間と何とかして連絡を取り、助け出すよう指示してある。
まあ、運次第みたいなとこはあるがな。
でも、俺は必ず生き残ってみせるぞ。
こんなとこで死ぬわけにはいかな─────
「やったー!僕の勝ちー!面白いね、この『 くろいねきーっぱつ』!」
「『 黒ひげ危機一発』だよ。もう1回やろっか」
「うん!やるー!」
────やれやれ、危機一髪だぜ────
危機一髪 紅野素良 @ALsky
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