第5話 触れたいもの

 裸でベッドにいることの違和感はこれからそういうことをするとわかっていてもぬぐえないものなのだと分かった。二人で体を拭き、ドライヤーをかけ、今、隣に彼女がいる。

 全身が部屋の空気に触れているはずなのに体は火照っている。横を見るのがこそばゆい。最初にキスしたのは私だから私からしないといけないのか。何を?どうやって?

 考えることが多すぎて頭が回らない。そもそもこの状況なに?どうして裸で一緒に寝てるの?着替えようとしたらどうせこれからするんだし裸でいいんじゃない?って、お姉さんが言ったなら早くしてよ!横目で見てるけど何で笑ってるの!

「ごめんごめん。いやさ…うん、まあ、へへっ。」

「へへっ。じゃあないですよ!するなら早くしてくださいよ!」

「ええ~。ふふっだってさあ…」

「あ…」

綺麗な髪が私にたれかかっている。明るい色。元は黒なんだと思うと途端にお姉さんみたいだと考えてしまう。そんな髪。手で抑えられた肩、目の前の綺麗な顔。逆光に照らされる豊満な体は私の目を釘付けにしていた。近づいてくる熱は私の思考を鈍らせ、瞼を閉じた。

 やわらかい。でも思ったよりも冷たい。そんな感想がでてくる。離れていくる唇を確かめるとお姉さんを見つめた。

 さっきよりも色づいた頬は口角を上げると

「だってさ、私…」

 垂れた髪を耳に掛け、赤くなった耳の意味を理解するよりも先に、離れたはずの唇が合わさった。とっさのことで空いた口の中でお姉さんの舌と私の舌がからみあっていく。肩を抑えていた手は私の手を頭の上で指と指を絡ませ、お姉さんの足が私の大切な場所に当たって擦られている。

 興奮して当たる鼻息、本来性感帯ではないはずの指まで気持ちいい。口の中に知らない快楽、下の刺激が痺れる。一気に知らない情報量が雪崩こんでいく。息をすることも忘れ、ひたすらに快楽を受け入れた。

「ん…もうとろけちゃってるね。」

どれくらいの時間がたったかわからないけど終わった。なにもわからない。これがエッチ?

「あーあー、さっきまですっごくかっこよかったのに。もうとろっとろだ。ふふっ可愛い。」

「ほんと、好きになっちゃうとこんなにもかわいいなんて思わなかった。」

あれ?もう終わり?いや、私お姉さんを気持ちよくさせてない…

「ん?まだ起きなくてもいいよ。本番はこ・れ・か・ら。」

細い指がお腹をやさしくなでる。赤ちゃんにでも触れるかのようにゆっくりと、そしてじんわりと熱が伝わる。肌と肌が触れ合う気持ちよさはさっきまでの強い刺激と違い、落ち着きを持たせてくれている。まるでマッサージのような手つきがゆっくりと、ゆっくりと上に登っていく。

「ん…」

そして胸のところまで行くと、気持ちよさは刺激に変わる。肌より強い刺激を味わったためかもっと強い刺激が欲しくなっていく。胸のふくらみの先にある突起を触って欲しい。手をつなぐだけであの快感ならどれほど気持ちいのかを考えてしまう。触って欲しい。

 円を描くように近づいていく指。触って欲しい。私を気持ちよくしてくれる指に夢中になってしまう。触って欲しい。どんどん近づいていく。触って欲しい。あと少し触って欲しい。触って欲しい。触って欲しい。触って欲しい!

「んっ…!!」

一気にきたぁ…だめ、つまんじゃぁ…気持ちいい、気持ちいい。だめ、だめになりゅ…

「いいよ。駄目になっちゃえ。」

ゼロ距離で放たれた声は直接脳を刺激し、さらなる快感を与えた。じらされた刺激がお腹の下を刺激し、何度も体を振るわせた。

 普段自分でもいじらないこともあってか、経験したことのない快感の余韻が心地よい。目がとろんとし、お姉さんの輪郭がぼやける。それでもまた口への刺激を求めてしまう。ぼやける視界で手を伸ばし、触れる。

「うん、いいよ。」

そっと触れる唇。暴力的な快感からとろける快感へ。目の前から香る甘い匂いが絡み合う舌をより一層濃厚なものへと誘う。

 お互いの口を離す時には絡み合った粘膜が下腹部へと垂れていった。

「お姉さん…」

「うん、いいよ。」

お姉さんの細長い指が濡れた割れ目に触れた…んっ!!なにこれ…こんなの、んっ…一人でするときよりもずっと…

「あっ…やっ…」

「まだ指入れてないよ。それなのに感じちゃって。…えっと」

「そういえば私たちって名前も知らないのにエッチしちゃってるね。」

指の動きが止まると今まで意識してこなかったことが脳裏に浮かんだ。馬鹿!なにやってるの私は!何が傷の舐め合いよ、名前も知らない人とただエッチしちゃってるだけじゃない!もー!馬鹿馬鹿馬鹿!!

 もはやムードもへったくれもない。体は火照っているがそれどころではない。あまりの恥ずかしさに近くにあった枕に顔を突っ伏して足をバタバタさせた。別にさっき会ったばかりで特に何も思っていないが、こんなムードの中これ以上のことをやれる度胸は私にはなかった。別に何とも思っていないが、せっかくここまで来たのにこのまま終わるのは少し寂しいが仕方ないだろう。

 名残惜しくもなんともないがこのまま知らない人同士で終わる方が私たちのためだろう。そうだ、そうに決まっている。お姉さんはもう悲しそうな顔をしてないし、早くシャワー浴びて…んっっ!!

「わぁ…もうこんなにとろっとろになってる。とっても気持ちよかったんだ。へへっ、うれしいな。」

「ちょっ…なに…ゆび…いれてぇ…お姉さぁん…」

「ゆかり」

「へ?」

「『椎名 由香里』これが私の名前だよ。もちろん源氏じゃないよ。」

「あ…ちょっ…もういっぽんいれな…あぁっ…」

「あなたの名前は?教えて。んっ…」

快感が下腹部を襲う中、突然耳からくぐもった音が聞こえた。それは鼓膜を通り、脳を刺激して来た。直接脳を支配されている感覚は思考力を奪い、快楽へ導いてくる。

 なまえ…わたしの…。今まで過去問を解くときにいくつも書いては隣に低い点数がついてきた。何度も、何度も。そのたびに私は私自身とこの名前が嫌いになってきた。毎日の出欠確認、教師からの指摘、親からの愛称。黒く凝り固まった嫌いな私を目の前のお姉さん…由香里さんは求めてくれる。さっき初めて会って、一緒にお風呂入って、キスをして。私って単純なんだなぁ。

「じゃあ、いくときに教えてね。いくよ。」

 指がさらに一本増えて動くスピードもさっきとは比べ物にならないくらい早くなる。だめ、これ、あたま、かんがえられない。でも、いいたい、呼んでほしい!私の…!

「あまね…さとう…あまねぇ…」

「天音ちゃんね。よしよし、よく頑張りました。じゃあ…」

「耳元でささやいてあげるから気持ちよくなっちゃおうね。」

私を後ろから抱きしめるような形になると、耳元で私の名前を言いながら指を3本割れ目へと入れていった。初めて好きになった人の声、指、背中から感じる暖かさ。快感と幸せを感じながら私は果てていった。

「わわっ、お潮吹いちゃってる。そんなに気持ちよかったんだ…。って、大丈夫?」

「ひゃ…ひゃい…。」

「そっか。じゃあ、私も気持ちよくしてもらおうかな。」

絶頂したばかりの私の股を開き、由香里さんの割れ目と合わせる。お互いの恥ずかしい所を合わせた形から相手の熱が伝わって、エッチしてるって感じが出ている。

 敏感な今、由香里さんが少し動くだけですぐ絶頂してしまう。もう顔も声もぐちゃぐちゃになってしまっているが動きは激しくなるばかりだ。目の前で乱れる彼女は必死で腰を動かし、また絶頂する。それが終わると舌を絡ませたキス、そして愛撫。裸で少し寒かった部屋は女の香りと体温で包まれていった。




 車内を不思議な雰囲気が包み込む。さっきまで交わっていた人が隣で運転をしていると思うと、数時間までできた会話が出来ない。こそばゆい。

 時間いっぱいまでお互いを気持ちよくさせ合った後、シャワーを浴び、私の家へ向かっている。服の上からでもわかる大きさの胸も張りのあるお尻も全部私が触って気持ちよくさせたんだ…。そう考えると私凄いことしてしまったのでは?

 さっきまでの非日常感が嘘みたいに見覚えのある道を走る。もうすぐ私の家がある場所へついてしまう。名残惜しい…もう少しだけ一緒にいては駄目だろうか。日付を超す3分前がやけに早く感じた。エッチなことをした後ってこんなものなのだろうか。時間いっぱいしていたおかげでピロートークはなかったし、なんならシャワーだってさっと洗い流すくらいだった。

 もやもやしていると車が止まり、ナビは案内を終了した。もう、これでおわり。これから何も感じない、落ちてゆくばかりの日々に戻るのだ…。

 でもこれでいい。今日の温もりを思い出して私は頑張れる。

「ありがとうございました。今日のことは一生忘れません。」

「一生…」

車の中では静かだった由香里さんがボソッとつぶやいた。重かったかな?でも私初めてだったし…

「そっか…うん。わかった。一生忘れないでね。」

「はい。」

背負ったリュックサックが重く感じる。夢のような時間はおしまい。さ、明日から頑張ろう。









 サラリーマンがの流れに逆らわず今日もまた、予備校へと足を運ぶ。ここには死んだ目のような人しかいないと思ったが、意外とそうでもなかった。仲間を作るやつ、黙々とやれるやつ、同じ大学目指して切磋琢磨しているやつ。私も仲間に…なんてできないが、なんか頑張れる気がした。

 最後のチャイムが鳴り、各自夕食や自習に入る。今日分からなかったところを聞きに行きたいが…とりあえず夕食を買いに行こう。

 今日も今日とて激安冷凍ピラフ。いつものスーパーで…ん?なんか見たことのある車が…由香里さん!?

「おっ、いたいた。やっほー」

「由香里さんなんでここに…」

「いやさ、天音ちゃんが昨日一生忘れないっていったからさ、もしかしてエッチしながら勉強すれば大学受かるんじゃないかなぁって昨日からずっと考えてたの。」

「え…あ、ちょ、ここでは…」

周囲には夕食を買いに行く予備校生がいるし、なんなら由香里さん見てるのにどうしてそんな話するかなぁ!

「とりあえず場所変えましょ?ね?」

「天音ちゃんヤル気だねぇ。よかったー私も仕事辞めてきたかいがあったよ。」

「ええー!!、ど、どうして…」

「だって天音ちゃん以外とやりたくないしー、天音ちゃん昨日私の仕事の話してるとき凄く嫌そうな顔してたからね。」

「これからどうするんですか!」

「天音ちゃんの先生やろっかなーって」

「そんなの親が許さ…」

「あ、それは大丈夫。さっきお母さまとお話してOK貰ったから。」

「そんなばかな…」

「私T大出てて元銀行員で教育課程取ってたって説明したら喜んでって」

「お母さん少しは疑ってよ…」

「それにさ」

「天音ちゃんの成績が爆上がりしたら県外の大学行って…一緒に暮らせるかもだし…。」

「あ…」

ずるい…。そんなこと言われたら私だって…。

「わかりました…。」

「いいの?私昨日会ったばっかの元風俗嬢だよ?」

「そういわれると私がチョロいみたいなのでやめてください…」

「じゃ、さっそく予備校から勉強道具持ってきて!今から私の家でやりまくろ!」

「ちょっと!大声で言わないでくださいよ!」

「大丈夫、大丈夫。どうせ明日から会わない人たちだし。」

「明日からって…まさか」

「うん、お母さまが予備校やめてマンツーマン指導でお願いって」

「ああもう!お母さんもチョロい!」

文句をたれながら車に参考書を詰め込み、お世話になった先生へ挨拶をして約半年通った学び舎を去った。

 それから半年後、私は地方都市の大学に合格し、由香里さんと同棲を始めた。確かに教わったことは忘れなかったが、思い出すたびに体が熱くなってしまい、共通一次では別室受験をさせられたことは今では笑い話である。由香里さんは引っ越し先で大手企業のOLとして働くことが出来たが、毎日のように愚痴とストレスを私にぶつけてくる。おかげで私タートルネックくらいしか着れないよ…。

 あの日エッチお姉さんに会わなかったら今みたいな生活どころか大学に受かってたのかすらもわからない。狭い部屋に2人。今日もまた、勉強をする。




 

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rounin my way @ykib3827

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