桃太郎④

山を抜け、森を抜け、次は広い野原に出た。

ここでキジと出会うはず、なんだが……。


「キジ、いなくないですか?」

「いねえなあ……」


鳥だから空に飛ばれると見つからないし、これじゃあ交渉以前の問題だ。

呼んだら来てくれたりしないだろうか。やらないよりはやった方がいい、よな?

そう思った俺はめいいっぱいに息を吸った。


「キジさあああああん!いらっしゃいますかあああああ!」

「うるっせえな!ったく、びっくりするから一声かけてからにしろ!」

「すんません……。でも、ほら」


俺が上を見上げるとそれに釣られて、先輩も同じように上を見上げる。

そこには悠々と空を飛びながらこちらへ向かってくるキジがいた。

よっしゃ、ビンゴ!なんでもやってみるもんだよな。上手くいって良かったわ、ホント。


「僕を呼んだのは貴方たちですか?」

「はい。突然申し訳無いのですがお話を聞いて頂いてもよろしいでしょうか」

「話を聞くだけでしたら……」


とまあこんな感じで話が始まった。

先輩とキジの話を聞いていてわかったのだが、なんと家族がいるらしい。奥さんがいてもうすぐ子供が生まれるとか。

一家の大黒柱ってことか……流石に呼び捨てできないなこれは。


「そんなわけで今は新しい巣を探すのに手一杯で」

「それなら俺たちが作ります!ね、先輩」

「まあ、それしか手はないだろうな」


こちらがお願いしているはずが、何故かめちゃくちゃに感謝された。悪い気はしないけど。

後で奥さんの話も聞きつつ良さげな場所に巣箱を作るという条件でキジさんにも桃太郎と合流してもらうこととなった。


お供問題、これにて解決!

だが、まだ全て終わったわけでは無い。残念だけどまだまだ歩く羽目になりそうだ。






キジさんと別れて真っ直ぐ進み続けると海岸へ到着した。

潮の匂いだ。いやあ、久々に海見たなあ。仕事じゃなけりゃ遊んだのに。


「ここに舟を繋いでおくわけだが」

「やっぱあの舟ヤラセだったんすか」

「本人は偶然と思ってるからさ。じゃあ問題な。今から舟を取り出します。どうやって取り出すでしょうか」


いきなりだな。前に聞いたけどなんだったか。

えー……凄いパワーみたいなので呼び出すみたいなあれだったような。


「正解は扉をここに出現させて現代から引っ張ってくる、でした」

「びっくりするくらい夢も希望もない方法っすね」

「扉がある時点で十分夢と希望はあるだろ」


そう言ってどこかに電話をする先輩。

その数分後、俺らの目の前には半日前くらいに見た扉があった。

いや、マジで原理どうなってるんだこれ。数分かかるあたりがなんかリアルで嫌だな。


扉を開けると、これこそ昔話に出てくる舟、というような古めかしい舟と2馬力ボートとかいう現代の技術が使われたボートがあった。

2馬力ボートは免許不要で乗れるらしい。


「……免許不要ってそれ大丈夫なやつなんですかね」

「……どうにかするしかないだろ。んじゃ、島崎はそっちの2馬力ボート持ってこいよ」

「えっ絶対重い!てかこの大きさ、いくらミニサイズでも1人で持つ大きさじゃないんすよ!ちょ、さとー先輩ってば!」


結局変えてもらうことは出来なかったのだが、なんだかんだ言ってどっちでも大変だった。

あの古めかしい舟は木造だからぶつけたら壊れそうで慎重に持たなきゃいけないし、木って普通に重いし。


なんとか両方ともこちらまで引っ張り、海の良さげなところに船を繋いでおいた。

俺らは2馬力ボートに乗り込み、ひと足先に鬼ヶ島へ向かうことになった。

いざ鬼ヶ島、とか勇んでみたが普通に怖ぇよ……。だって鬼だぜ?何されるかわかったもんじゃない。


怖がる俺を笑った先輩はいざとなったら盾にしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

御伽噺の裏方やってます 神月 葵 @r__1209

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ