【短編】とある実録映画製作の際書かれた取材メモ
八木耳木兎(やぎ みみずく)
【短編】とある実録映画製作の際書かれた取材メモ
十一月七日午前八時十二分、金本新造は自宅を出て外車に乗り込んだ。肌寒くなり始める季節の中、少し厚着をしての出社だった。
彼がドアを閉めた次の瞬間、外車は爆発炎上することになる。
金本新造は、決してカタギの男ではない。
そもそもこの国で少年時代から闇賭博の予想屋を生業としている、とくれば、それだけで生い立ちと素性がわかろうというものだ。
その天性の的中率は当然のことながら体中に入れ墨を施した裏社会の人間たちに注目されることになり、彼は二十代にして闇カジノを任されることになった。
徹底した金銭管理の下で、彼は一財産を築き上げ、彼は土地を買い、利権を買い、社会的な健全さすらも汚職警官を通じて金で買った。
彼には用心棒がいた。小太りで一見三枚目の腰巾着だが、キレるとどんな暴れ馬よりも暴走する爆弾のような性格の用心棒・石松次郎だった。
少年時代からの知り合いであった金本と石松は、金本の出世に連れて良き友人であり、良きパートナーにもなっていた。
しかし、石松がとある女に惚れたことから事件は起こった。
当然のごとく金本は女も金で買っていたが、百人を超える金本の女の一人―――古都生まれの娼婦・京文子に、石松はことあるごとに言い寄っていた。
ある日ついに何かがはじけたのか、石松は女を強引に自宅へと誘った。
それを知った金本はメリケンサックをハメた右手で、見せしめのために部下の面前で石松を半殺しにした。
その屈辱を恨んだ石松は、マスコミや裏社会の古株たちに、彼の警官買収や、組の幹部に内緒で儲けの一定割合をくすねていたことを打ち明けた。
結果、金本は表社会は勿論のこと裏社会からも敵意の目を向けられ、夜中道を歩いているだけで銃撃に見舞われることになった。
文子すらも銃撃によって殺された。元々彼女と関係を持っていたポン引きが、金本にかなわないと知った結果彼女に復讐の矛先を向けた結果だった。
そして、十一月七日が訪れることになったのだ。
「……ま、危機一髪の出来事だったよ」
上の出来事は全て、意外にも彼が語った言葉の録音を基にしている。
そう、現在は実質隠居状態で慎ましやかに暮らす、金本新造(身の安全のため公的には現在別名)が語った言葉だ。
件の自動車の爆発炎上は爆薬の調整が甘く、彼が即死するほどの火力を持ち合わせていなかったのだ。
録音の際、金本の指には金の指輪がはめられていたという。
石松が【生前】身に着けていた指輪だった。
【短編】とある実録映画製作の際書かれた取材メモ 八木耳木兎(やぎ みみずく) @soshina2012
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