呪いの館にようこそ

オカメ颯記

呪いの館にようこそ

 そこはゾンビの出る館だった。

 繰り返す。ゾンビの出る館だ。それも洋館。

 灯りが、いや、電気がぱちぱちと音を立てて消える。そして、正面の扉からゾンビだ。


「世界観おかしいだろう」


 そもそもこの世界に世界観などあるのかもわからないが、今までの世界観からは確かにこれは別物だ。


「ファイアー」

 魔術師のミコが呪文を唱えると、ゾンビは燃えた。


「首を切って。頭をつぶすの」

 いわれなくても。私はゾンビの頭に剣をたたきつける。

 ゾンビの頭はきれいにつぶれた。

 こんな至近距離からじゃなくて、遠距離から攻撃できればいいのに。いつからここはウォーキン〇デッドの世界に変わったのだろう。


 私がいる世界は、典型的なゲームの世界だった。私たちは冒険者、クエストを受注してそれを解決していく。

 気がついたらここにいて、いつの間にか冒険者と呼ばれていた。このパーティの面々はみんな同じ経験をしている。


 なぜ、わたしたちが冒険者なのか、どうしてクエストを受注しないといけないのか、それすらわからない。なし崩し的にこんな生活をおくっている。


 そして、今回受けたのは郊外にある館の探索だ。気味の悪い声がするからと様子を見てくださいと村人Aにいわれたので、そのクエストを受けてここに来たのだけど。


 普通は館といってもダンジョン形式で中に魔獣が湧く。今回は全然違った。


 ぎーっときしむ扉。いきなりなる大時計。


「ねぇ、これってホラーゲームじゃね」

 ミツグが最初に冗談めかして言ったけれど、たぶん本当だ。

 ホラーアクションゲーム。ゾンビ付き。間違いない。


 また、物陰から今度は犬型ゾンビがあらわれた。


「聖なる壁!」

 僧侶のミドリが唱えると銀色の壁があらわれる。

 ホラーゲームにも僧侶の力が聞くとは思っていなかったけれど、よく効く。とはいえ、MPの消費が激しいので多用できないのが残念だ。


 足止めしておいてから頭をはねる。ちょろいわ。


「見ろよ」

 ミツグが部屋の壁をさす。

「謎解きだな、これは」


 明らかに怪しいパネル。このパズルを解いてくださいと言わんばかりだ。


「きっと、この向こうに鍵か何かが隠されているんだよ。あるいは何かの仕掛けが作動するとか」


 みんなで顔を見合わせる。


「とりあえず、殴ってみようか」

 このパーティーは考えることが苦手な人間がそろっていた。


 私は持っていたメイスで壁を殴る。思った通りだった。がたがたとどこかで何かが壊れる音がした。


「新しい部屋だ」

 ミツグが部屋を出る。


「おいおい、先に行かないでよ」


「だいじょうぶ、こういうゲームは好きだったんだよ」

 私は嫌いだった。ゾンビゲーなんて、何が楽しいのだろう。べたべたするし、くさいし。


 新しい部屋に入ると、NPCがいた。美少女だ。


「助けてください」

 少女は訴える。

「わたしとわたしの妹をここから出してください」


 私たちは顔を見合わせた。


「シナリオ的にこういうのは罠なのよね」

 僧侶のミドリがため息をつく。

「ホラーゲー、美少女ときたらラスボスでしょう」


 ものすごい偏見だと私がいう前にミドリは呪文を唱える。


「ターンアンデット」

 ああ、燃えちゃった。美少女が燃えて灰になってしまった。


『ラスボスが死亡しました。三分以内にこの館を脱出しましょう』

 どこからか不気味なアナウンスが流れる。


「はぁ、時間制限あり? 信じられない」

「戦士、出番よ」


 皆が私を見た。繰り返すがこのパーティーは面倒くさいことは嫌いだ。


「連続切り!」

 私は窓を切りつけた。普通の窓だったので大穴があく。


「さぁ、逃げるわよ」


 敷地に大量に沸いたゾンビはミコの魔法で燃やす。

 ついでに館まで延焼して燃えているけど、別に構わないよね。


 こうして、私たちはホラーな館を抜け出すことに成功した。

 これはクエスト成功になるのだろうか。







 ……立ち去る冒険者たちを見送ってほっと一息ついた。

 よかった。頭の悪い冒険者で。

 うっかり別のゲームを混ぜてしまったことに気が付かれなかっただろうか。

 彼らがまじめにゲームを解いてしまったら、大量のバグでこの世界が破綻するところだった。

 今度はもっと完成度の高いシナリオにしなければ。




 素晴らしいゲームライフをようこそ。

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呪いの館にようこそ オカメ颯記 @okamekana001

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