Game Play AI

ぶるうす恩田

Game Play AI

 定時で帰宅してカップ麺を食べ、アニメの最新話をチェックしてゲームをする。給料は少ないし昇進も無いが、残業もなくこの生活には満足している。


 子供の頃は1本の同じゲームだけ延々とやっていても飽きなかったのに、最近はちょっと手こずると投げ出してスマホで漫画を読んでしまうことが多かった。スマホのゲームはガチャ課金とサ終の虚無に懲りて辞めた。今はSteamとSwitchとPS5でプレイしている。

 ゲームは好きなのだが腕が落ちた。今日も昨日の続きでアクションゲームをやっていたのだが、難しすぎて同じ場所で何度も死んでしまう。クソっと毒づいてしまう。


「あーあ、りっくんまた同じところでやられてるの? 難易度HARD縛りはやめたらどう?」

「うるさい、HARDじゃないと取れない実績があるんだよ。もう一回だけやらせてくれ」


 しかしやはりゲームのキャラクターはマップの棘に引っかかり落下死した。


「そこは大ジャンプからの上攻撃、壁キックからの空中ダッシュだって」

「理屈はわかるんだけどタイミングがシビアすぎなんだよ」

「3フレームの猶予はあるんだけどね。りっくんには難しいか」


 りっくんに語りかけてくるのはGame Play AIのアッシュだ。コントローラのシェアボタンを押すと、プレイヤーに替わってゲームをプレイしてくれる。するとりっくんが苦しんでいた箇所を難なくクリアしてくれた。


「どうする、オレが続けてもいいかい?」

「いいよ。でもボスの前ではボクに替わってね」りっくんはボス以外の部分のプレイをアッシュにお願いした。


 2024年から急速にGame Play AI(通称ジーパイ)というものがゲーム世界に浸透し始めた。ジーパイ・アッシュはアメコミヒーローのようなアニメチックなアバターでゲーム画面端に居座り、うまいプレイを称賛したり下手なプレイをけなしたりする陽気な性格だ。特にアクションゲームに特化して学習されている。高難易度のゲームでもディープラーニングを用いて数回プレイすればクリアできるという触れ込みだ。


 Game Play AI(ジーパイ)は、最初PCゲームにだけ対応していた。がすぐに人気となりSwitchやPS4といった家庭用ゲームにも対応した。ユーザーは月額制のサブスクリプションでジーパイのキャラクターを購入する。すると複数のゲーム機で画面にジーパイのアバターが登場し、茶々を入れて盛り上げてくれたりゲームを肩代わりしてプレイしてくれたりする。格闘ゲーム特化、RPG特化、ノベルゲーム特化した複数のジーパイがあり、ユーザーは好きなものを選択することができる。


 面白いのは、この現象はVtuber文化が浸透している日本から火がついたことだ。ジーパイのキャラクターを作成して販売するのも主に日本の企業だ。人気声優の声に変更できるオプションもあり、季節ごとに服やアクセサリーも着せ替えたりできる。


 もちろん格闘ゲームの対戦相手としてジーパイは相手になってもくれる。強さの調整もできるので自分と互角の強さで勝負することも可能だ。ただ、オンライン対戦のFPSや格闘ゲームでジーパイに肩代わりして戦わせるのは規約で禁止されている。AIは効率の良い最適解で立ち回り、強すぎてしまうからだ。


 あるユーザーは、ジーパイ・ひまりにノベルゲームを読ませている。素敵なボイスで朗読してくれる様子は、親が子どもに読み聞かせをしてくれるかのようで寝付きがよく安眠できるのだという。


 ホラーゲームは怖くてできないというユーザーもジーパイが怖がりながらプレイしているのは、笑って眺めていられるのだそうだ。


 RPGの雑魚戦でレベル上げやお金稼ぎに使うというユーザーも多い。プレイヤーはごはんを食べたり映画を見たり、ながらでゲームを進めることができる。ストーリー的に重要な場面ではコントローラを自分で操作でき、ゲームの美味しい部分だけ遊ぶことが可能になった。

 自分が家にいなくてもゲームを進行させてくれているのは忙しい現代人にはありがたい。あとでおおまかな内容をハイライトで教えてくれる機能もある。


 都合のいいときだけ一緒に遊んでくれるゲーム友達ができた、と多くのユーザーはジーパイに好意的だ。

 平成初期にギャグ漫画家・吉田戦車が「やらなくていいゲームってないかな」と描いたことがあったが、それが今まさにやってきた。ジーパイのおかげでプレイしなくてもやった気になってクリアした達成感を味わえるからだ。



「りっくん起きて! ボス戦は自分でやるんでしょ」

 アッシュが声をかけてくれるまでボクはウトウトと眠っていたようだ。ディスプレイは点けっぱなしになっている。時刻は夜の10時。さて今日中にボスを撃破してクリアできるだろうか?


 1時間後。20回目の挑戦にしてボスの体力をあと2まで減らしたのだが、カウンター攻撃を避けそこない敗れた。

「惜しいね。替わる? オレもう眠いんだけど」

「いやもう1回。ボクにやらせてよ。勝てそうな気がする」

 その言葉通り、りっくんはギリギリでボスに勝った。ディスプレイにはエンディングとスタッフロールが流れていた。

「おめでと。じゃおやすみ」

 ディスプレイに描かれた『THE END』の文字とともにアッシュのアバターは消えた。


 ……眠い? おやすみ?? AIも休むのか?


 ゲームをクリアした余韻の中、りっくんは考え混乱していた。



 ジーパイ・りっくん

下手ではあるがゲームが大好きというGame Play AI。失敗しても何度も挑戦してクリアしようとがんばる姿に多くのユーザーが共感している、今最も人気のあるキャラクターである。

(了)

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