危機一髪?

束白心吏

危機一髪?

 走る。

 少し傾斜になった見渡す限り銀世界の森の中を、細かい枝木にぶつかっても一切走る速度を緩めず、なりふり構わず走り続ける。

 一体なぜ走っているのかは分からない。銀世界のように見えるが、滑った感じも足が雪に取られる感じはしない。それでいて自ら止まれないのか、目の前に気が迫ってきても足を緩めず走り続ける。細かい枝木に当たっても感覚はない。

 不思議と胸の内では焦燥感に駆られている。しかしその焦燥感の理由には思い至らない。その焦燥感も幾度も目の前に迫る木々を避けれるか否かの危機感に襲われ、今自分が焦っているのか危機を覚えているのかすら分からなくなってくる。


 それからどれだけ走ったか分からない。

 肉体的な疲労はない――いや、そもそも走っているという感覚もなかったような気がする。非常に早く流れていく景色と、自分でも驚くほどの小回りから勝手に走っていると考えていたが、息切れ一つなくこうも長く走れるものなのだろうか。

 思考を巡らしている間も足は止まらない。ずっと傾斜を走り続けている。

 しかしそれがダメだったのだろう。樹木に気付いた時にはもう目と鼻の先。ぶつかったらどうなるのか――




 ――突然浮遊感に襲われて意識が浮上していく。

 何故か心臓は早鐘を打っており、心なしか息も荒くなっていた気がする。


「……」


 スマホで時間を見れば夜中の2時。

 俺は瞼の重たさに逆らわず、再び布団を被って眠りの園へ旅立った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

危機一髪? 束白心吏 @ShiYu050766

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ