中編
武が教室に着くと人気アニメの劇場版の話題で持ち切りになっていた。
前の席の子が振り向いて武に聞く。
「武、破滅どうする?観に行く?」
「妹が好きで一緒に見てるけど、俺はそんなに好きじゃないんだよ」
友人たちの会話を打ち切るような言い方は武には珍しい。話を合わせて適当に楽しみにしていると言っておけばよいのに、それが出来なかった。
ゾンビになってしまった妹を救う旅をする主人公の冒険。このプロットに武が良い感情を抱くことはない。
武の妹、茉莉は自閉症である。
ずっと言葉が出なかった茉莉は、近所の子供たちにゾンビという侮蔑的な渾名で呼ばれ、からかいの対象であった。今でこそ落ち着いているけれど、当時は癇癪ばかりで周囲と折り合いをつけられなかった事を思うと仕方がなかったようにも思う。
父親も母親も当初は熱心に躾をしようとしていたのだけれど、根本的に自閉症への理解がなかったため上手くはいかなかった。
どうしたら治るのかを問う両親に医者がはっきりと答える。
茉莉さんにはコミュニケーションのための能力があまりありません。人の言葉を聞いたり表情を読み取る事は出来るのに、それがどんな意図なのか察する事が難しいのです。茉莉さんにも彼女なりに考えたり感じたりしていますが、それは健常者のそれとは体系が違います。小さな子供でも怒られれ怖いばと感じたり、褒めらえると嬉しいと感じます。しかし茉莉さんにはそれがわからないのです。それが茉莉さんの性質なのです。欠損した手足がが生えて来ないのと同様に、健常者のような感じ方が芽生える事はないのです。
治る治らないの問題ではなく性質。茉莉にとってこれが正常なのだと理解すると、父親は家を出ていってしまった。いくら愛情を注いでもそのまま零れ落ちてしまう相手とは生活が出来なかった。収入の殆どを家に入れ、自身は最低限の暮らしをしている。それが彼なりの責任なのだろう。
母親は茉莉が小学校に上がるまでは民間療法や祈祷まで色々なことを試したが、なんの成果もあげられず茉莉を罵倒したり手をあげたりするようになった結果、心を病んでしまった。
「うーうー唸って暴れるだけなんて本当にゾンビみたいじゃない」
その言葉を最後に実家に引きこもってしまう。
武が小学3年生、茉莉が1年生に上る頃に兄弟の二人暮らしが始まり、それから4年。茉莉は支援学校中等部に通っている。支援学校での自立支援もあり、以前にくらべると茉莉の状態は良く、言葉も出るようになっている。茉莉が拙いながらも話せる事を母親は知らない。
不意に隣の席の女の子が声をかける。
「それって逆張り?流行りものに乗らない俺、カッコイイってやつでしょ」
「あはは、委員長も言うねえ」
「いや、僕は妹がゾンビなのが好きになれなくて……」
「あら、最後には人間に戻るのよ」
原作を読んでいる委員長に、僕と友人は盛大なネタバレをされてしまう。
妹ゾンビ はなぶさ樹 @Hanabusa_Itsuki
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