11話 素敵な場所で、自分だけ

 そこから数日後。

 たまたま、先日の女子生徒二人が同じように話しているのを目撃した。


「昨日夕凪さんと話したんだけど!」

「おお、羨ましいじゃん」


 片方が興奮した様子でそう語り出すのを、もう片方も興味深げに聞いている。


「やっぱすっごい格好良かった……! それでね、『なんでもできてすごいね』って言ってみたんだけど……」


 その話している女子生徒は、少し意外そうに、けれど変わらず好意的な印象で。


「『ありがと。これからもそう思ってもらえるように頑張るよ』って言われて。なんていうか……すごいなって思った!」

「あんたはもうちょっと言語化の努力をしなさい」

「それもそうだね! それでちょっと印象変わってさ、なんていうか夕凪さんって、完璧っていうより……こう、私も頑張る! って思わせてくれるような感じというか!」

「まぁあんたにしては頑張った方か……でも、気持ちは分かるかも」


 そのまま変わらず賑やかに話しつつ、向こうの教室へと戻っていく。


「ほおー」


 ……そして、それを燎と共に聞いていた。


「相変わらず格好つけてんなぁお前」

「そういうのやめてくれませんかね影司さん!?」


 影司が星歌に愉快そうな視線を向け、星歌が羞恥を隠すように大声を出す。


「言ってること自体は全部本心だけど、改めて言われると恥ずかしいものは恥ずかしいんだって!」

「それもそうか、悪い悪い。実際格好良いから文句もねぇよ」


 割と本気で恥ずかしがっていることを察してか、影司もそれ以上は追及せず謝る。

 一方の燎はそれをきっかけに先日のことを思い出し、控えめにこう問いかけた。


「それで夕凪。前のライブハウスの件は大丈夫だったの?」

「ん? 問題ないよ、ありがたいことにもう一回チャンスはもらったし、前と同じ人が来るらしいし。今度はミーハー気分なんて文句、絶対言わせないから」

「ほどほどにしろよ、向こうも悪い人じゃねぇんだろ」

「負けん気がすごい」


 そこで燎の率直な感想を聞いて、星歌が答える。


「当たり前じゃん。私は勝負事好きだけど、負けたいわけじゃない。それは相手が仲良い友達だったとしても変わらないどころか尚更だし――」


 一つ言葉を区切ると、快活で眩しい笑顔と共にこう告げた。


「何より私は、昨日の・・・自分に・・・負けたくない・・・・・・。そのつもりで毎日生きてるので、君たちも見習うよーに!」


 それじゃあ軽音楽部に用事があるから、と身を翻して去っていく。

 しばしそれを見送ったのち、燎もぽつりと一言。


「……確かに、見習わないとな」

「お前は素直過ぎんだろ」


 改めて思う。

 燎にとっての、星歌の印象。それは完璧とかそういう表現ではなく。

 ただただ――超負けず嫌いの女の子。その一言に尽きるだろう。




「ん、燎? どうした?」


 そのまま、しばし黙っている燎をどう思ったか影司が声をかけてくる。


「ああ、いや。やっぱ頑張る奴を見てると自分も気合が入るな、と思ってさ」

「まぁそれに関しては同意だけどよ」

「それより、影司も昼生徒会の集まりがあるんじゃないか?」

「おっと……そういやそろそろか。そんじゃまたなー」


 そう言って影司を送り出し、燎も教室に向かって踵を返す。

 そうして歩くと、直後に横合いから随分と元気な声。


「かがりくーん!」


 ほたるだ。軽く会釈を返すと、そのまま彼女は無邪気に近づいてきて。


「あれ、さっきまでお友達とお話してたよね? 同じクラスのきらきらした男の子とすっごい可愛い女の子」

「なんともな覚え方ですね。二人とも今から用事だそうです」

「そうなの? あ、じゃあさ! 今日のお昼なんだけど久々に――」


 そのまま嬉しそうに燎を昼食に誘うほたる。それに関しては受けつつ……同時に、燎は思ったことを率直に述べた。


「先輩」

「ん?」

「……この学校は、良いところですね」

「? うん! あたしもそう思うよ!」




 そう。その言葉は本心だ。

 旭羽に入ったことは、とても良かった。先輩も同級生もすごい人が沢山いて、間違いなくそれは良い刺激になっている。

 ほたるも問題なく漫画家として活躍しているらしいし、星歌もきっとあれだけ頑張れる子なら次のライブでは評価をちゃんと覆すだろう。影司も、生徒会の一員として体育祭を成功させるために奔走している。

 みんながみんな、ちゃんと頑張っていて。しっかりと、前に進んでいて。



 ――自分だけが、入学から一歩も進めていない。



「……くっ、そ」


 その事実を、昼休みが終わった後、スマホを確認して。

 入学してから自分が作ってネットに上げた二曲――二週間前に上げた一曲目も、そして昨日上げたばかりの二曲目も。

 何一つ伸びていない……これまでの自分の最高記録にすら、遠く届いていないことを。

 半年前からの作曲の不調が、欠片も解決できていないことを確認してしまって。


「……どうすれば、良いんだろうな」


 燎はそう、呟いて。



 そこから――彼にとって、入学して初めての。

 きっと、ずっと忘れられないだろう一幕が、始まるのだった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ここから、一章後半。燎のお話が始まります。

彼がどういう風に成長するのか、是非見守って頂けると嬉しいです!


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