お迎えにあがりました

「ゆうちゃん!?」


動揺が抑えられない。どういうこと?


「急にいなくなってごめんね。」


ゆうちゃんは私の頬を流れる涙をそっと拭った。

そのまま跪くと、私の手を取った。


「お迎えにあがりました。僕のお姫様。」


久しぶりのこの気持ち。ふわふわして、私だけが特別な気がしてくる。


「じゃ、いこっか!」


ふわりと笑う彼の手に引かれて、わけも分からぬまま私たちは歩き出した。


「ねぇ……っ」


聞きたいことはたくさんあるけれど、うまく言葉にならない。疑問より先に、また会えたことの嬉しさで、涙が溢れた。

(こんなにもゆうちゃんに会いたかったんだ、私。)


「僕、ずっと準備してきたんだよ。あすかちゃんと一緒にお城に引っ越すために。はい、車乗ってね。」


そう言われて真っ黒い車に乗る。ゆうちゃんも隣に乗り込む。運転手さんがいるようだ。


もし、ゆうちゃんにこのままさらわれても、あの両親のもとから離れられるなら、何でも良かったのかもしれない。何かを考えるような心の余裕なんて、今の私にはなかった。


ただ零れる涙がとまるのを、外の景色を眺めながら待った。


━━━━━━━━━━━━━━━


「どこに行くの?」


「ふふ。ぼくと君だけのお城だよ。」


イマイチよく分からないけど、ゆうちゃんについて行けば大丈夫なんていう安心感があった。


「もうすぐ僕のものになるよ……。」


「ゆうちゃん?なんか言った?」


「んーん、なんでもないよ。ふふ。」


ゆうちゃんは昔からふわりと笑う。どこか華のあるその笑顔に惹き込まれてしまう。赤い瞳。その瞳に吸い込まれそうになる。ドクン、ドクン。心臓の音がはやく、大きく聞こえる。




ゆうちゃんと、目が合う。


昔とは違う、細長くて大きい手が私の頬に伸びる。


顔が近づく。


私は目を瞑った。




「坊ちゃん。ダメですよ。」


運転席から声が聞こえた。ハッと我に返る。

(あれ、私何をしようとしてたんだっけ……。)


「ご、ごめん。あすかちゃん。忘れて!」


「あっ、うん。大丈夫だよ。」


なんだか気まずい雰囲気の中、車は走る。


家からどのくらい離れただろうか。お父さんとお母さんにバレたら何をされるだろう。そんな考えがぐるぐるまわって、いつの間にか眠ってしまった。



「あすかちゃん、ついたよ」












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私だけの王子様 @aumm

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ