私だけの王子様

@aumm

王子様

星が綺麗な夜。私の父は死んだ。


私は、幼少期からお父さんから酷い暴力を受けていた。

これは私が小学3年生の頃。


「明日花ぁ!!酒買ってこい!」


ある日、夜も更けた頃、お父さんはお酒を私に買いに行かせた。お父さんにとっては昼も夜も、私が小学生であることも関係ないようだった。


「は、はいっ、!」


未成年だから、お酒は買えない。でも逆らったら殴られる蹴られる。それに怯えてお金も持たず逃げるように家を出た。


信号機が青色にかわる。横断歩道を渡り始めたそのとき、私は信号無視の車に跳ねられた。


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「……すか、あすか、起きて!」

母の声で目が覚める。

あれ?わたし、何してたんだっけ。ここどこなんだっけ。

「お医者さん、今呼んでくるから。」



「はーいじゃあ、自分の名前、年齢、覚えてるかな?」


「みなぎあすか!小学校3年生の8歳!」


「記憶は大丈夫だね。骨折が治るまで、約1ヶ月は入院になります。」


そう言うと医者は病室から出ていった。


「また来るわ。じゃあ、お母さんも帰るから。」


内心、お母さんにもっと心配して欲しかったけど、微笑んで返事をした。お母さんは、どうしようもなくお父さんのことを愛していて、お父さんのためならどんなに無理をしても働くようだ。

その晩は、久しぶりにべッドで寝た。しかし、家と違う場所だからか、深夜に目が覚めてしまった。


「トイレ、、。」


暗いし怖いけど漏らすよりはまし。トイレに行こう。ベッドから立ち上がると、隣りにも入院している子がいることに気づいた。私と同様、カーテンは閉めている。


あれ、トイレどこだろう?…、迷ってしまった。


「君、迷子?」


ビクッと体が震える。後ろから急に声をかけられた。

振り返ると、天使のように美しい男の子がほほ笑みを浮かべて立っていた。


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「僕は瀬戸優陽って言うんだ!」


私より年下の子だった。


「じゃあゆうちゃんってよんでいい?」


「特別にそう呼んでもいいよ」


深夜なのにも関わらず、子供ふたりだけの病室で沢山話したことを今でも覚えている。ゆうちゃんは体が弱くて検査でこの病院に入院していたらしい。

私が入院した1ヶ月の間で、私達は信じられないくらい仲良くなっていた。


「あすかちゃんは、将来の夢とかあるの?」


「う〜ん、たーっくさん美味しいのたべたい!ゆうちゃんは?」


「ふふふ。教えない。ふふ。」


ゆうちゃんは秘密事が多くて、「それよりあすかちゃんのことを教えて。」ってよく言ってた。

結局、ゆうちゃんの住んでる場所や学校をきくのをわすれて、1ヶ月後にわたしは退院した。


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小学校の先生はうちの事情を知らんぷりして過ごしていた。もちろん、いじめのことも。

虐待なんかされる家だ。服なんて汚いし、新しい文房具は買って貰えない。小学生にとって、いじめる理由なんかそれだけで十分だった。

主犯の佐伯まりな。まりなは佐伯財閥という日本でも有数の大企業のお嬢様だ。

まりなさえ、まりなさえいなければと何度思ったことか。


小学4年生に進級し、一学期が始まる頃、私にも楽しみができた。放課後、毎日ゆうちゃんが会いに来てくれるようになったのだ。


「ゆうちゃん?会いに来てくれたの?」


「あすかちゃん!会いに来たよ。ふふ。寂しかったでしょ。」


「明日も来てくれる?ずっと来てくれる?」


「ずっと来るよ。みて、あすかちゃん。これあげるね。」


そう言ってゆうちゃんは、ポケットから取り出した綺麗な石のついた指輪を私の薬指にをはめた。


「わぁ。きれい!ゆうちゃんのおめめの色と一緒だよ。宝物にするね!」


ゆうちゃんの瞳は綺麗な赤色だった。

病院では気づかなかったが、ゆうちゃんは、小学生の私にも分かるくらいのお金持ち。家でろくなご飯を食べられない私に、色々持ってきてくれた。


私たちが遊ぶ場所はいつも通学路の途中にある公園だった。ここの公園はクラスのみんなもよく来て遊んでいた。貧乏な私とお金持ちのゆうちゃん。私たちを変な目で見る子たちがたくさんいたけど、ゆうちゃんさえ居れば私は何も気にならなかった。


「僕は君だけの王子様だよ。ふふ。」


家も学校も気を抜けない場所だった私は、ゆうちゃんといる時間だけ心が安らいだ。このときだけは、わたしがお姫様でいることができた。


でも、ある日パタリとゆうちゃんは来なくなってしまった。


「ゆうちゃん、ゆうちゃぁん、なんでこないの。ずっとって言ったのに…。わたしが貧乏だから?汚いから?なんでぇっ……」


私の心の支えだったゆうちゃんが居なくなってしまった。


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その頃から父の言動が酷くなり始めた。殴る蹴る、煙草の火を押し当てる、冬の夜にしめ出される。

ゆうちゃんと会えなくなってから、さらに辛く感じた。


「お前なんて生まれて来なければよかったんだよ」


そんな事私が1番思っていた。


ゆうちゃんに貰ったあの赤い宝石の指輪は机の引き出しにに大事にしまっていた。しかし、私が学校から帰ってくると引き出しが空いている。嫌な予感がした。


「………。お父さん、指輪は?どこにやったの。」


「ん?あぁ、あれな。お前あんなのどこから貰ってきたんだよ。高く売れたぞ~?今は機嫌がいいからな。あの指輪を隠してたことは許してやる。」


「は、、?返してっ!!返してよ!私の指輪!!ねぇ!!」


私は父に飛びかかった。でも、私が大人の男にに勝てるはずもなかった。そのまま外に放り出され、鍵をしめられた。行くあてがない。


放心状態で靴も履かないまま歩き始めた。

物心がついて、初めて父に反抗した。中学3年生、ゆうちゃんに会えなくなってから5年がたっていた。辛い時はいつもの公園に行く。それが私の紛れる唯一の方法。ブランコに座っているときだった。



「あすかちゃん。迎えに来たよ。ふふ。」



泣きじゃくる私の顔を覗き込んだゆうちゃんが居た。





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