新年と幼馴染

「あけおめ」


「おめでとう」


「じゃあ行くか」


「うん」



場所はユキの家の前。短く言葉を交わすと、2人並んで歩き出す。



「珍しいね、ヒロが時間通りに来るなんて」


「フッ、俺も成長するってことさ」


「本当は?」


「さっきまでガチ寝決め込んでました」



時刻は午前3時。俺達は初詣へと向かっている。



「お陰で好きなアーティストの曲聞けなかったわ...」


「もうちょい心を強く持ちなよ」


「三大欲求には抗えんわやっぱ」


「どうして諦めるんだそこで。お前ならもっとできるだろ」


「せめてもうちょい熱意込めろよ!」



ユキと初詣に行った回数は、うに両手の指の数を超えている。だが、2人きりで行くようになったのはつい一昨年だ。



「今年は何をお願いする?」


「やっぱり受験だろ」


「じゃあボクもキミの分まで祈っておいてやろう」


「お前自分の分は必要ないもんな」



ユキは滅茶苦茶頭がいい。いつもテストではほぼ満点を叩き出す姿は、かの菅原公の寵愛を一身に受けていると見紛うほどだ。持たざる身分の俺からしたら、喉から千手観音レベルで羨ましい。



「ほら、着いたよ」



万物を作りたもうた神様に心の中で不条理を訴えていると、目的の神社に到着した。したのはいいが...



「毎回思うけどマジでこのクッソ長い階段何なんだ」


「激しく同意」



見上げてみると鳥居まで続く長ーーーーーーい階段。神社の階段が長いのはどうやら煩悩や穢れを落とすためだったりするらしいのだが知ったことではない。しかも日も出ていないこの時間帯、灯籠とうろうの明かりだけでは足元もおぼつかない。



「はぁ..よし、行くか」


「担いでくれでもいいんだよ?」


「流石に危ないわ...ほら行った行った」



そうして足を動かすこと数分。



「おー、まあまあ人居るな」



鳥居をくぐると、初詣が目当てだろう人たちが鈴緒すずのおの前に小さな列を作っていた。その最後尾に膝に手をついているユキとともに並ぶ。



「10円玉は『とおえん』と読めるからお賽銭には向かないらしいよ。逆に5円玉は『御縁』となるから縁起が良いんだ」


「へー」



他愛ない会話をしながらしばらく緩やかに動く列に従って待っていると、遂に自分たちの番が回ってきた。

2人で同時に5円玉を投げ込み、二礼二拍手をして神に祈る。



(高校合格してユキと同じとこ行けますように)



特に奇をてらわない普通の願いを念じて、一礼をする。隣を見ると、丁度顔を上げているところだった。



「じゃあ御神籤おみくじ引くか」


「ヒロ去年は小吉だったからね。今年もショボいのが出るかどうか期待してるよ」


「そういうお前も末吉だったろ」



お気持ちと書かれた箱に100円を投げ入れて、紙を掴み取る。



「うわ...」


「ぷっ」



開いてみてみると書かれていた文字は吉。絶妙に喜べないグレードだ。



「低くはないけど高くもないところがヒロのことよく表してるね」


「やかましいわい!そういうお前は何なんだよ」



手元をのぞき込んでみると、ドヤ顔と共に眼前に差し出される紙。



「うっわマジかよお前。ここの神社大吉少ないのに」


「神は日頃の行いを見ているのさ!」



描かれていた文字は大吉。まあ大吉の文字よりもユキのドヤ顔の方に目が行くが。してやったりの顔で胸を張る姿はなんともいじらしい。この姿を年明けてすぐに拝めるとは。貴女が神か...?



「やっぱ俺も大吉だったわ」


「なんでさ?」


「お前が大吉だからだよ」


「うわぁぁぁ!なんで撫でるんだ!」



ガシガシと頭をいじくりまわすとささやかな抵抗が返ってきた。い。



「はぁ...全くキミの突飛な行動にはいつも困惑しかないよ。また1年これに付き合うことになるなんて先が思いやられるな」



そう言いながら、乱れた髪を直しながらポケットに御神籤をしまうユキ。



「まあ、今年1年もよろしくお願いします」


「ああ、よろしくな」



改めて新年の挨拶を交わして帰路につく。今年もユキと過ごせたら俺は十分だ、と心の中で独り言ちながら。



「はぁ...またこの階段下りるのか。宿題早く終わらせてぇのに」


「あれ、ヒロ終わらせたって言ってなかった?」


「....」


「あ、おいコラ!逃げるな!」

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