凍てつく雪の音、融かすは恋熱
碧天
積雪と幼馴染
「なぁ」
「...なんだい?」
「雪遊びしようぜ」
「そんな事だろうと思ったよ」
「あー待て待て!ドア閉めようとするな!」
「ボクは今何人たりとも妨害してはならない非常に有意義な時間を過ごしていたんだ。」
「ただゴロゴロしてただけだろ」
「....」
「ごめん!謝るから無言で閉めないでぇ!」
「はぁ...しょうがないな。取り敢えず寒いから上がりなよ」
「いやー流石我が幼馴染!最高!愛してる!」
「こういう時だけ調子いいんだからなぁ...」
◇ ◆ ◇ ◆
「お邪魔しまーす」
そう言ってドアを開けると、一時停止されたテレビとベッドの上で散乱した毛布が目に飛び込んでくる。
「お前俺も一応異性なんだから...てか異性じゃなくてもコレ見られたことに対して恥じらうとか急いで直すとかそういう姿勢見せろよ」
「ボクと君はそんなに浅い関係じゃないだろ?」
「それで誤魔化せると思ってんのか?」
「はぁ...もう直さないと分かっていることに対して何故そこまで言うのか...キミの気持ちが分からないよ」
やれやれと言った風に頭を振っているのは
「そりゃそこまで来たらユキが俺のこと人として見てるかすら怪しくなってくるからな」
「それだけヒロに心を許してるって発想はないの?」
「確かに...」
「ま、そんなわけないけどね」
「ねぇのかよ!」
してやったりの表情で毛布に
「お、それ昨日やってたお笑い番組じゃん」
「部屋でぬくぬくとテレビを見る。これ以上の悦楽が存在すると思うかい?」
「それで外に出る気力を削ごうったってそうはいかねぇぞ」
「チッ。てかキミが来るの早いっていうのも、外に行きたくない一つの要因だと思うんだよね」
時計に目を向けてみると、短い針はまだ10の数字を指したばかり。
「早寝早起きは健康の秘訣だぜ」
「寝太郎の身長が伸びるってのは本当だったんだね。そのまま3年寝てくれないかな」
「3年て...まあ、中学の間に三十センチ伸びたからな。お前ももっと寝たら身長が伸」
「あ?」
「...なんでもないっス」
いかんいかん。こいつの前で低身長は禁句だった。
そうして他愛ない会話をしながらテレビを見ること約40分。
「終わったな」
「...終わったね」
「よしじゃあ着替えを」
「嫌だ!こんな寒い中外に出て堪るか!そもそも受験期の中学生が12月に外で雪遊びすると思うか!?」
ひっしとベッドに捕まるユキ。その姿はまるでライオンに睨まれたシマウマ。
「どうせ家居ても勉強しねぇし」
「しなよ!」
「積もるレベルで雪降るの結構久しぶりじゃん。もうこれから雪遊びする機会無いかも」
「北陸行けよ!」
「いつ遊ぶの?今でしょ!」
「あ、おい、ちょっ、やめろ!抱えるな!うわあぁぁ!」
ここまで来てまだ反論するユキを横抱きして、階段を下りていく。腕の中でジタバタしているが知ったことか。バレー部の腕力舐めんなよ。
「うぅ、分かった!分かったから!着替えるから下ろしてくれ!」
遂に音を上げたユキ。そのまま一階リビングに連れていき、ソファの上にゆっくりと下ろす。
「あら、お姫様抱っこなんて。浩正君も大胆ね」
「
「あらあら、お義母さんなんて。気が早いわよ」
「何を言ってるんだ!母さんも見てないで助けてよ!」
「ふふっ、いいんじゃない?最近冬休みに入ってからずっと家の中に居たし。
「そんなぁ~」
ぶつくさ文句を垂れる反面、テキパキと準備を済ませていくユキ。ここ、良妻ポイントです。
「なんか
「いやなんも。それじゃ、きちんと責任を持って連れて帰ってきます」
「5時までには帰ってきてね~」
「なんでボクが監督される側なんだ!はぁ...行ってきます」
「行ってらっしゃ~い」
挨拶を言いながらリビングのドアを閉める。
靴を履いて玄関を出ると、一面の銀世界が目に飛び込んで来た。
「すっげぇ...」
鹿嶋宅に来た時よりも更に積もった雪は、小一時間前に自分がつけた足跡をとっくに覆い隠し、元の綺麗な白へと戻していた。それらをさくさくと踏み締めながら、アプローチを通り外へ出る。
「雪踏む感触最高だわ」
「なんで雪如きでここまではしゃげるんだ。小学生でもそこまで短絡的じゃないぞ」
「寒さで悪態の鋭さも5割増しだな」
かくいうユキはもっこもこもジャンパーにぶっといマフラー、トドメに手袋2枚重ねという着込み様。
(雪山行くのかな?)
そう思ったが口にしない。コイツの隣で波風立てずに過ごすには沈黙が一番なのだ。
「まったく雪なんて。キミにはこの
「それは口説き文句か?」
「ハッ、そんなわけないだろ」
「顔が赤いぞ~」
「これは寒いからだ!」
ユキをからかいながら歩くこと数分。近所にあるまあまあ大きな公園が見えてきた。
「人がいないなんて珍しいな」
「ほら。やっぱりこんな雪の中、好き好んで外を出歩いてる珍妙な存在はキミだけなんだよ」
「珍妙て...」
「最近の子は雪遊びよりゲームなのかねぇ...なんかちょっと寂しいわぷっ」
喋りながら後ろを振り返ると、冷たい塊が顔面を直撃した。
「ふふん、ボクを安寧の場所から引きずり出した罰だ」
「めっちゃ引きずってますやん...まぁでも、黙ってはいられねぇ、な!」
「わぁっ!」
お返しにと雪玉を素早く作り投げる。やば思ったより冷てぇ。手袋つけて来たら良かった。
「ほっ!」
「なんの!」
「なんかやけに狙いが正確じゃないか!?」
「そりゃバレー部だからな!狙ったところにボールを飛ばすなんてお手の物よ!」
「くっ!」
「ゼェ、ゼェ...なんでキミは、そんなに、余裕なんだ...」
「運動部を舐めちゃいかんよ帰宅部くん」
「マウントを取るなぁ...はぁ」
へたり込むユキにはもう抗議する気力も残ってない様子。是非写真に収めたいところだ。
「近場の景色も堪能したし、そろそろ帰るか」
「そうしようか。ん」
「?」
無音カメラでこっそり写真を撮っていると、俺に向けて不意に両手が差し出される。
「...あぁ、よいしょ」
「ふふ、よろしい」
意味が分からず一瞬フリーズする。が、すぐに意思を汲み取り、両手を掴んで引っ張り上げる。起こしてもらったユキはご満悦といった様子だ。
「あれ、ヒロ。手袋」
「ん?あー、つけて来んの忘れた」
いじらしい我が幼馴染の姿を脳内に焼き付けていると、俺の手が素手であることを指摘される。素手で雪を掴んだりしたので指先が真っ赤に
「まあ、もうそろそろ帰るし大丈夫だろ」
精一杯の強がりを言って歩き出す
「...ねぇ」
「ん?」
と、すぐに後ろから声がかかる。声を発した本人は、自身の左手の手袋を取ると
「ほら、つけなよ」
そう言って差し出してきた。
「そしたらお前の片方の手が」
「...なら」
すると唐突に俺の左手を握り、
「冷たっ」
冷たさに若干声を上げながら自分のジャンパーのポケットに突っ込んで
「これで寒くないだろ?」
これ見よがしに俺の手をにぎにぎしながら、そう
その瞬間心臓がドクン、と跳ね上がるのを感じ、咄嗟に視線を逸らす。
「あれ~?顔ちょっと赤くない?恥ずかしくなっちゃったのかい?」
「そういうお前こそ真っ赤だけどな」
「ボクのは寒いからです~」
そう言いながら耳まで深紅に染めている姿に説得力はない。まったく、恥ずかしいならしなければ良いのに。
「なぁ、やっぱりもうちょっと外歩いてかないか?」
「ボクともっと手を繋いでいたいなんて。まったくしょうがないなぁキミは」
「まぁそういうことにしといてやるよ」
俺の顔が熱く感じるのはきっと気のせいだ。
「...ありがとな」
これ以上照れてることを悟られないために言葉少なに礼を言う。
「ん」
そろそろ自身が落ち着いてきたことを感じてユキへと視線を戻す。俺と目があったユキが浮かべた笑顔は―――
「どういたしまして」
―――周りの雪景色の何倍も
そして俺は再度認識する。俺は彼女のころころと変わる表情に、何気ない優しさに、そしてこの笑顔に...
惚れたんだなぁ、と。
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