ゲームと幼馴染

「なんか拍子抜けだよな」


「まぁ、近頃いろんなものがネットで行われてるもんね」


「県立高校なら学校で番号張り出されたりするんだろうけどな」



ノーパソを囲んでそう話す二人。今日は俺達の合格発表の日だ。

結論から言うと合格した。が、知らされるのはネットだ。テレビでよく見る番号が張り出されたりなどはない。合格通知は普通に嬉しいが、このえも言われぬ虚しさは何だろう。



「これでキミとまた3年間一緒か...」


「なんか嫌そうだなオイ!」


「ふふふ、冗談さ」



今日、ユキの口角が高めだと感じるのは気のせいじゃないはずだ。その要因の中に少しでも俺が入っていればいいな、と思いながら画面から目を上げる。



「で、今日勉強する気は?」


「微塵も無いネ!」


「そんな自信満々に言われても...」



聞かれたから答えただけなのに、なぜ引いてるんだろう。勉強したくないのは全人類共通の願望のはずだろ。



「合格したんだろ?今日ぐらいはダラダラしてもいいだろ~」


「うーん...まぁ今日くらいは...」


「よし!そうと決まればゲームだゲーム!」


「はぁ~。今日だけだよ?」



パソコンをパタンと閉じる。俺は嬉々と、ユキはしょうがないといった風に階段を下りた。




◇ ◆ ◇ ◆




「というわけでやってまいりましたゲームのお時間です」


「キミは誰に向かって言ってるんだ?」


「俺らを知覚してる上位存在」


「もしこの世界が物語だったらその言葉最大のメタ発言だよ」



口と共に手を動かし、絡まりあったコードをほどいていく。ゲームの筐体きょうたいに差し込んだのは、対戦アクションゲームのカセットだ。コードをテレビに繋げ準備万端となった状態で、テレビの画面の前に座る。コントローラーを諸手もろてで持つユキの姿にどことなく怨恨を感じるのは気のせいだろうか。



「前完膚なきまでに負かしたことを後悔させてやる!」


「お前、あれまだ根に持ってたのか...」


「いくらなんでもあれは酷かったぞ!親しき中にも礼儀ってもんがあるじゃないか!」



どうやら前こてんぱんにしたことを恨んでいるようだ。こう見えて案外ユキは負けず嫌いなのだ。



「ハンデやったじゃん」


「そ、それでも思いやりとかないのか!」


「じゃあ接待プレイをご所望で?」


「それは悔しいからヤだ!」



負けん気の強さを発揮しているユキも大変かわいいが、こればっかりは不当である。



「じゃあまあ今回も2ストックハンデをつけてやろうかな」


「ふぅーー...」



精神統一までして、よほど俺に勝ちたいらしい。

俺が選んだのは最重量のキャラ、ユキが選んだのは比較的軽い立ち回りの軽いキャラだ。俺のキャラは図体がデカい上俊敏でないためコンボを決められる、所謂コンボーフードになりやすい。まあでもそれより前に相手倒したら関係ないよね!



≪Ready?≫



コントローラーを握る手に力を籠める。



≪Go!!!≫



かくして二人の闘いは幕を開けた。




◇ ◆ ◇ ◆




「くっ...なんで勝てないんだ...」


「勝利を掴み取りたいならもっと練習して来たまえよ」


「くそ~」



何故だ。なぜこんなにも差が開くのか。ゲームを始めて30試合ほどやったが、ボクは一回も勝てていない。一番善戦したのが二試合前のコンボがちょっと繋がったときくらいで、1ストックすらもぎ取れなかった。途中更にハンデとして技を縛ったり正座させたりしてみたが、結局勢いは弱まることなくしてやられた。



「まぁ~総プレイ時間3000時間の俺がそうそう負けるわけないのだよ」


「ここぞとばかりに煽ってきやがって...!」



いつも勉強で勝てないからと言ってもこれはあんまりだ。



「それにしても正座キッツ...足先の感覚無いぞ」


「ヒロ体固いもんね」


「柔軟とかやってた時期あったけど全然続かなかったんだよな...」



そう言いながら足を揉むヒロ。煽られまくって悔しかったボクは、ここでとある行動に出る。



「てい!ていっ!」


「おいやめろバカ!感覚まだ戻ってないから!」


「いつものお返しさ!おりゃ!」


「あっ、おい、ちょ、やめろぉ!」



それは正座で痺れた双足を指でつんつんダイレクトアタック。悶えるヒロの反応を楽しんでいると...



ガンッ!!!



「ア゛ッ!」


「あ!ちょ、大丈夫かい!?」



バタバタと暴れていたヒロの頭が勢い良く机にヒット。机は鈍い音を立てて大きく後退した。



「~~~ッ!」


「ご、ごめんよ...」



今ヒロは足と頭の二重の痛みに苦しんでいるだろう。流石にやり過ぎた、と思い陳謝する。流石に怒るだろうか...



「くっ...ハァ、しゃあねぇな」



特に何も言わずに許してくれた。

...いつもヒロはボクが何をしても許してくれる。途中小言を言うことはあるかも知れないが、最終的にはボクを怒らない。コイツは底抜けに、どこまでも優しいのだ。

でもその優しさは、時にヒロ自身を―――



「もうハンデはナシだ!ボッコボコにしてやる!」


「...いいとも。受けて立とうじゃないか。」



いや、この考えはやめよう。自分にそう言い聞かせ、2人してゲームの世界に再度没頭していく。

...ちなみにこの後完膚無きまでに負かされた。

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