第3話 パパじゃねぇって言ってんだろ!?
突然だがヴァーテックスの三期生には勇者がいる。
その名も勇者ロロ=ブレイバー。
輝くような金髪ロングに銀色の甲冑を着た姫騎士っぽい見た目の子だ。
企画段階ではロトだったそうだが流石にロトで勇者はマズいんじゃないかという事で土壇場でロロになったなんて経緯がある。
で、ご存じの通り俺は魔王なわけだから、必然的にロロは俺のライバルポジに据えられた。
……てか、冷静に考えると一期生の段階で勇者キャラを入れとけよと思うのだが。
当時は運営もここまで人気が出るとは思っていなかったのだろう。
なにもかもが手探りという名の適当状態だったのだから仕方ない。
「ボクの名前はロロ=ブレイバー! 伝説の剣に選ばれて、魔王アルマゲストを倒す為に修行中の駆け出し勇者だよ! みんなよろしく! 魔王アルマゲスト! 首を洗って待ってろよ!」
あぁ懐かしき初配信。
この頃はロロもまだ勇ましい勇者キャラで、事あるごとに俺に絡んできた。
「ここが噂の魔王城だな! 魔王アルマゲスト! 覚悟しろよ!」
当時はブロッククラフト全盛期。
取り合えず新人が入ったらブロッククラフトをやらせとけってな風潮だった。
で、ロロはせっせとダイヤを掘って装備を整えると、俺が作った自慢の魔王城に乗り込んできた。
まぁ、俺もそれはわかっていたから、事前にトラップや他所で捕まえてきたモンスター、お宝の入った宝箱なんかを用意して待ち構えていたのだが……。
「いやぁ~! なんでこんな所に溶岩があるの!? あちゅ、あっちゅ、死ぬ! 死んじゃうよぉおおお!?」
……訂正。
ロロが勇ましかったのは初配信の時だけだったのかもしれない。
なんにせよ、ロロは魔王城の敷地に入ることなく栞や真姫、その他悪乗りしたメンバーが勝手に置いた溶岩ブロックにドボンして全ロスした。
これが俗に言う燃える魔王城事件である。
いや、なんだよ燃える魔王城って!
勝手に燃やすな!
マジであいつ等なんなんだ?
お陰で俺が配信外で用意した新人歓迎用トラップが無駄になったし何故か謎に俺がプチ炎上したぞ!?
何度撤去してもサーバーに入る度に溶岩ブロック置かれてるし。
気が付けば新入りはトラップを潜り抜けて魔王城に溶岩ブロックを置くのがしきたりみたいになってやがる。
その度にプチ炎上する俺の身にもなってくれ!
ともかく、ロロは俺のライバルキャラだ。
少なくともデビュー当時はそうだった。
「……それなのに、どうして俺はお前のホラー配信の見守りをやってるんだ?」
「だっで怖いんでずもおおおおおおん!?」
開始早々七分泣きで勇ましさのいの字も見当たらないのが今年で活動五周年を迎える勇者ロロ様だ。
……いや本当、新規リスナーどころか最近入ったメンバーすらこいつが勇者だって事知らないんじゃないか?
なんなら古参メンバーすらその設定忘れてる気がするし。
初期衣装の勇者セットだって久しく見てない。
今のロロはどこからどう見ても深窓の令嬢か八尺様のコスプレにしか見えない白ワンピ姿だ。
というわけで、今のロロはヴァーテックスでは珍しいポンコツ清楚キャラで売っている。
おっと。誤解のないように言っておくと、ポンコツは全く珍しくない。
なんなら俺以外のメンバーの9割はポンコツまである。
珍しいのは清楚の方なんで悪しからず。
「俺は魔王でお前は一応勇者だろうが!?」
「そんな設定忘れました!」
「忘れんな! てか設定って言うな!」
「じゃあ引退しました! 私に勇者は荷が重すぎます! 魔王退治は他の皆さんの方が得意ですし! 私は普通の女の子として頑張ります!」
「確かに他の奴らの方が俺を弄るのは得意だけどなぁ……。てかボクっ子キャラはどこ行ったんだよ……」
「そんなの一年目に辞めてます!」
「知ってるよ!」
「じゃあ今更意地悪言わないで下さいよ! アルさんは私のパパでしょう!?」
「パパじゃねぇって言ってんだろ!? リスナーも松明構えんな!」
こんなんでも一応可愛い後輩だ。
特にロロはライバルポジの勇者である。
燃える魔王城事件でのキャラ崩壊は、俺には全くもってこれっぽっちも被はないのだが、一応先輩なので責任は感じていた。
それであれこれ世話を焼いたのが運の尽き。
気付けばこの通りなにかにつけて呼び出され、リスナー共々パパだの保護者だのと呼ばれている。
で、ロロはこの通りヴァーテックスでは貴重な清楚枠だ。
性格もおっとりしてるし声も可愛い。
当然男性人気も高い。
そんな所に男性Vの俺がしゃしゃったらどうなる?
降り注ぐクソマロの雨嵐だ。
まぁ、そんなのは平常運行なので気にもしないが。
だからと言ってパパ扱いを認めるわけにはいかない。
「この関係ももう五年ですよ! いい加減認知してください!」
「認知って言うな! この際だから言わせて貰うが、見守り役なら他のメンバーでもいいだろうが!?」
「イヤですよ! 一応私もヴァーテックスの中では中堅で、後輩達の前では頼れる優しいお姉さんポジなんですよ? それがホラー配信で泣きべそかいてたら威厳がなくなっちゃうじゃないですか!」
「なら同期か先輩に頼めよ!」
「同期に情けない姿見られるのはもっと嫌ですし、先輩達はみんな売れっ子で収録とかダンスレッスンとか色々忙しいじゃないですか!」
「ほほう? それはつまり、俺が暇人だと?」
「そういうわけじゃないですけど……」
ロロの目が泳ぐ。
まぁ、他のメンバーに比べて俺が暇なのは事実だ。
他のメンバーは誕生日やら周年イベントの度にライブがあって、お互いにゲスト参加したりで配信外も各種レッスンで忙しい。
俺だってまったくない事はないのだが、この通り事務所に一人の男Vだから、炎上を避ける為にソロライブ以外の参加は極力断っている。
リスナーだって推しのイベントに男の俺がでしゃばったら嫌だろう。
当の本人共はそんなの気にしないで一緒に出てよと事あるごとに誘ってくるのだが……。
あいつら絶対面白半分で俺を炎上させようとしてるだろ!
それでも断り切れず稀に出ないといけない時もある。
今の所評判は良いが、それは極稀にしか出ないからだ。
調子に乗って露出を増やしたら叩かれるに決まっている。
だからこのスタンスを変える気はない。
俺のせいで他のメンバーが炎上したら嫌だからな。
同じ理由でロロにも炎上して欲しくない。
どういうつもりか知らないが、俺なんかを保護者にしたらユニコーン共が煩いだろ。
そんなわけで見守り役は他のメンバーに頼んで欲しいのだが……。
「……アルさんはロロの事嫌いですか?」
涙声に血の気が引く。
コメント欄は一瞬にして火の海だ。
「ち、違う!? そんなわけないだろ!? 可愛い後輩だぞ!?」
「じゃあ……好き?」
「好きではない」
「びぇえええええええええ!?」
「だぁ!? 泣くなよ! 即死トラップ仕掛けるお前が悪いだろ!?」
「だっでえええええ! パパが私の事嫌いっていっだあああああ!」
「嫌いとは言ってない!? 好きじゃないだけだ!」
「同じですよぉ! ロロはアルさんの事大好きなのにぃぃいいい!?」
「おいいいいい! やめろ! マジで! 燃えるから! そこはせめて事務所の先輩としてとか補足してくれ!」
「ひぐ、えぐ……。じゃあ、アルさんはどうなんですか? 事務所の後輩としてだったらロロの事好きなんですか?」
「それはまぁ、当然だろ。みんな同じ事務所の仲間なんだし……」
俺の発言にリスナー共が「そうじゃないだろ?」「ヘタレ!」「ロロちゃんの気持ちわかってやれよ!」「それでもパパか?」みたいなクソコメを飛ばす。
全く、この世界には放火魔しかいないのか?
「……それじゃ嫌です。ロロは、ロロはパパの一番特別な一人になりたいんです!」
おいおいおいおい!
このバカは、配信中になに言ってんだ!?
冗談でもそんな事言ったら大炎上だぞ!?
今すぐ配信を切ってアーカイブを削除したいが、生憎ここはロロのチャンネルだ。
こうなったらマネージャーに連絡して強制終了させるか?
なんて事を考えていると。
「な~んちゃって! アルさん、本気で焦りましたね?」
ニヤニヤ顔で言われてドッと溜息を吐く。
「バカ野郎……。冗談キツイぜ……」
「アルさんが意地悪言うから悪いんですよ? 私が宿敵の勇者だって事、少しは思い出してくれました?」
「嫌って程な……。てか、勇者は引退したんじゃなかったのかよ?」
「やっぱり休業くらいにしておきます。油断してるとこの通り、バッサリいっちゃいますからね!」
「そりゃ頼もしいこって。その様子なら見守りも必要なさそうだな」
ピポンとボイスチャットを切る。
「え? アルさん? もしも~し? 冗談ですよねぇ? あ、あれ? ……嘘、本当に行っちゃったの? やだぁああああああ! パパぁああああ! 戻って来てえええ! ロロを一人にしないでえええええ!」
「だから、パパじゃねぇって言ってんだろ」
ボイスチャットを切ったままでポツリと呟く。
俺も魔王だ。
やられたままじゃいられない。
あと五分くらいはこのままにしといてやる。
リスナーも、ロロの悲鳴を聞きたがってるだろうしな。
大人気アイドル系Vtuber事務所に俺だけ男なんだが、みんなして俺を燃やそうとしてくる件について 斜偲泳(ななしの えい) @74NOA
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