第2話 ジ・オキシゲンその2

「……なるほど。こういう感じか」

「なんか思ってたのと違うっすね」

「どう? 可愛いでしょう」


 ドヤる栞にコメント欄が可愛いで埋まる。


 リスナーよ、調子に乗るからあまりこいつを甘やかさないでくれ。


 で、肝心のゲーム画面だが。


 サバイバルゲーと言えば3Dが多いんだが、珍しい事にこいつは真横から見た視点の2Dだ。


 アリの巣の断面を横から見たような視点と言えば分かりやすいか?


 どうやら俺達は地中深くに埋まった製造ポッドから生み出された複製人間という事らしい……。


 なんか既にきな臭い設定だが、絵柄はポップでキャラクターも可愛らしい二頭身だ。


 こう見えて栞は結構可愛い物好きだからな。


 絵柄に惹かれてという事なんだろう。


 マップはマス目単位のブロックで構成されていて、俺達は製造ポッドを中心とした長方形の狭い空間に閉じ込められている。


「で、どうすりゃいいんだ?」

「最終的な目標は地上にロケット基地を建築して宇宙のどこかにある次元の切れ目にたどり着いて故郷に帰る事よ」

「なんか壮大っすね!」

「そんな先の事じゃなくて目先の生存の為に必要な事を聞いてるんだが……」

「知らないわよ。ほぼ初見だって言ったでしょう」

「デスヨネー」


 不安しかない先行きだ。


「おぉ! 凄いっす! なんか銃みたいなので掘れるっすよ!」


 言葉通り、真姫のキャラがSF銃みたいなのからビビビっとビームを出してガリガリ壁を破壊している。


 これが採掘か。


 どうやら破壊したブロックは材質に応じた素材アイテムになってその場に落ちるらしい。


「あら。なにか作れるようになったわね」

「素材が手に入ったからだろ。色々作れるみたいだが、なにから作っていいやら……」


 建設メニューには基地、酸素、電力、食料、配管、換気、精製等々、ジャンル別の建物が表示されている。


「うぅ! 上を目指したいのに近くの壁しか掘れないっす!」

「だったらこの梯子ってのを作ったらどうかしら」


 栞のキャラがSF銃から歯車やらネジを吐き出し何故か梯子が組み上がる。


 ……まぁ、共通エフェクトなんだろう。


 野暮なツッコミはなしだ。


「おぉ! これで上まで掘れるっす! 流石栞先輩!」

「ふふん。伊達に図書館の幽霊をやっていないわ。ヴァーテックス一の頭脳とは私の事よ」

「漫画以外の本を読んだって話はほとんど聞いた事ないけどな」

「漫画だって立派な本でしょ!? それともアルは漫画は本に入らないって言うの! 差別だわ! 漫画差別!」

「そんな事言ってないだろ!? リスナーも松明構えんな!」


 まったくこいつらは隙あらば俺を燃やそうとする。


 油断も隙もあったもんじゃない。


「って、真姫はどこ行った?」

「上っす! 真姫はこのまま一直線に地上を目指すっす!」

「なら私は梯子を組む係をやるわ」

「助かるっす!」

「おい待てよ。それより先にやる事が色々あるだろ」

「なにっすか?」

「いや、それはまだ分からんが……」

「魔王が聞いて呆れるわね。こういう時は考えるより行動よ。あなたはそこで指を咥えて私達が華麗に脱出する様を見ていなさい」

「いや絶対無理だって……」


 そもそも建設メニューにロケット関連の施設が一つもアンロックされてないし。


「うはははは! 採掘気持ち良いっす! 真姫のドリルは天を突くドリルっす!」

「その調子よ真姫。梯子役は任せない」

「アイアイサーっす!」

「ダメだこいつら、完全に暴走してやがる……」


 まぁ、これもいつものパターンだ。


「……取り合えずインターフェイス確認しつつチュートリアルでも探すか」


 サバイバルゲームの場合インターフェイスを見れば大体の雰囲気が分かる。


 飢えや渇き、その他の生存要素の有無、時間や天気、温度の概念とかな。


「カロリーがあるって事は飢えはありそうだが……。生存に関わる要素はこれだけか?」


 一般的なサバイバルゲームのUIとは違うのでまだわからないが。


 他にパッと見で分かるのは時間と日数、ストレス値の概念がある事くらいだ。


 ワンチャンストレスマックスで死ぬ可能性もあるが、今の所特に増える様子はないので無視していいだろう。


「お! 水源発見っす!」

「いいわね! 飲み水の確保はサバイバルの鉄則よ!」

「真姫! 目標に突撃するっす!」

「まったくあいつらは気楽でいいな……」


 俺だって出来る事なら何も考えずに壁を掘りまくりたいぜ……。


 と、そこで俺は気付いてしまう。


「……真姫の奴、一直線に掘ってる筈だよな」


 サァーっと青ざめる。


「おい真姫! ちょっと待て! ストップ! ストップ!」

「んぎゃあああああ!?」

「ちょっとぉおおおお!?」


 悪い予感が的中したらしい。


 地中に埋まった水源の底をブチ抜いたのだ。


 そこから噴き出した滝のような水流と共に二人のキャラが真っ逆さまに落ちて来る。


 真下にある初期地点の狭い空間があっと言う間に水で満たされた。


「あばばば!? 死ぬ! 溺れ死ぬっす!?」

「梯子よ! 梯子を登るのよ! って、梯子がない!?」

「お前らが掘った砂で埋まってるんだよ!?」


 どうやら砂ブロックは支えとなる下のブロックが破壊されると落下してその先にあるオブジェクトを埋めてしまうらしい。


 まぁ、そんな物は採掘して素材アイテムにしてしまえばいいのだが。


 生憎その時は俺もパニクっていて思いつくことが出来なかった。


「あ、死んだっす」


 やはり窒息の概念はあるらしく、まず先に真姫のキャラが死ぬ。


「だから言っただろ!?」

「こんな事になるとは言わなかったでしょう! それよりアル! あたしにキスしなさい!」

「はぁ!? なんでだよ!?」

「ははぁん。さては栞先輩、死ぬ前にアル先輩とラブラブチュッチュしようって魂胆っすね! ロマンチックっす!」


 一瞬にして魔王城が燃え上がる。


「違うわよ! こいつから酸素を奪って生き延びるの! さぁアル! 早くしなさい! 私を殺す気!?」

「お前こそ俺のVtuber人生を殺す気かよ!?」

「生憎私は生き延びる為なら親でも犠牲にするタイプよ!」

「そもそもお前はもう死んでるだろうが!?」

「メタな事言わないで!」

「だぁ!? こっちくんな! 絶対そんな仕様ねぇし!」

「〇ーヴィだって口移しがあるのよ! やってみないとわからないでしょ!?」

「やらんでもわかるわボケ!」

「ボケって言ったぁ!? リスナーにも言われた事ないのに!?」


『いやいつも言ってるけど』


 無慈悲なツッコミを当然のように五分間コメント制限の刑に処す。


 う~んこの女は……。


 とかやっている内に俺達も真姫の後を追った。


「あ~もう! アルのせいよ!」

「お前らのせいだろ!?」

「ドンマイドンマイ、来世に期待っす!」


 こうして俺達のジ・オキシゲン配信は一日目にして全滅したのであった……。

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